第18話 審査会

 あれからやる気が出た店長は、あたしにワッフル焼の猛特訓って、メチャクチャワッフルを焼かせた。おかげでワッフル作るのが上手くなった気がする。

 審査会場では火を使う調理機材置けないし、電子レンジで温める、電気ポッドでお湯を沸かすぐらいしか出来ないので、調理済みの試作品を出すんだって。店長が『それじゃ面白くないし、ワッフルパフェの上手さは出ない』とかなんとか言いだして、審査会のプレゼン練習もしたから、まぁ、認めてもらえるとは思うけど、やっぱり心配ちゃ心配よねぇ。

 審査会当日、店長の車にクーラーボックスに入れたワッフルパフェの材料を積んで、田中さんが教えてくれた会場に行くと、広い駐車場が車でいっぱいになっていた。

 田中さんによると、会場はタヌキが持っている、たまに親族の集まりで使う町はずれの施設を審査の為に貸してくれているんだって。見た目はシンプルな横長めの一軒家って感じなんだけど、中に入って目の前にズラリと並んだイスとテーブルの数に驚いた。

 商店街のお祭りだから、学校の教室ぐらいの大きさだって思うじゃん?

 審査会の会場、体育館ぐらいあんだけど……。


「ぁ゙ーぎんじょうずるぅぅ」

「おい、まだ始まっても無いんだぞ。早すぎないか?」

「こんなに大勢いるなんて聞いてないんですけどぉ」

「さえずり街全体でする祭りだから当たり前だろ?」

「そーだけどさぁー」


 やっぱ、審査されるって聞くと、テスト前にみたいに緊張するじゃん。しかも、大勢の前で話すの緊張しない方がおかしいっての。緊張して失敗しない様に会場をグルッとまわってみた。

 部屋の奥には長テーブルが横並びに三つ置いてある。後ろには大きなスクリーンが天井から吊り下がっていた。スクリーンには赤文字で大きく『打倒!!大型ショッピングモール』と映し出されている。長テーブルの前にはパイプイスが並べられて、イスの背面には白い紙で店名と人数が書かれていた。書かれているのは多分、祭りに参加する店舗と今日の参加人数だろう。私達、瑠璃亭の紙は、たくさん並べられた一番後ろの角に貼ってあった。

 スクリーンがあるからまだマシだけど、ここからじゃ誰がしゃべっているか判別するのは難しそう。滑り込み参加だったから席順は仕方ないのかもしれない。


「店長、説明会ってまだなの?」

「黙って待っていろ。もうすぐだ」

「は〜い」


 店長に言われた通り待っていると、スーツや袴姿の物々しい空気を出しながら、奥の長テーブルへ四人が座り込む。

 三人はあたしも知っている顔。

 タヌキ、キツネと田中さん。(店長的に言えば、古里会長、讃岐さんと田中さん)

 二人はお偉いさんってわかっていたけど、田中さんも実はすごい人?確か、タヌキが田中さんの事を生き字引って呼んでいたっけ。

 残る一人は知らないおじいちゃん。

 まぁ、四人ともご老人ではあるんだけど、他の三人とは比べ物にならないレベル。長い白髪となが~い白ひげで和服姿。杖を持つ手がすんごく震えている。マッサージマシーンに揺さぶられている感じ。見ていて不安になるよ。


「ね、店長。あの仙人みたいなおじいちゃん誰?」

「仙人?あぁ。アレか、仙人だろ?」

「え、マジぃ?」

「オイオイ、凛さんはピュアハートだから信じちゃうだろ?」

「「は?」」


 声の方へ振り返ると、彼は流し目でウィンクしてきた。


「なんだ、未糸みいとにいか」

「フッ、突然の出会いにトキメイて恥ずかしいかい?」


 どうやら、横に座っていたのが未糸兄たちだったみたい。

 さっと髪をかき上げて、二度目のウィンク。

 うわぁ……。


「その発言が恥ずかしいと思うよ……」

「不審者、誰だか知らないが、関わらないほうが良い気がする」


 店長、あたしもそう思う。


「なっ!凛さん!!君の横に座っている不届き者は誰だ!?ま·さ·か、僕のライヴァル!?」

「何言ってんの?」


 どうした未糸兄。


「凛さんいけないよ。僕というものが有りながら他のおと、ゲフッ!!」

「少し黙ぁってろ」

「あ、真糸まいとおじさんも居るじゃん」


 おかしい未糸兄を止めてくれたのは、お肉屋ホークスの店主で未糸兄のお父さん、真糸まいとおじさんだ。

 グッジョブ真糸おじさん。

 お店のアピール競争には負けちゃうけど、未糸兄は体細いから、ガタイの良い真糸おじさんには体力勝負で負けちゃうんだよね。


「よ、凛ちゃん。すまねぇな。ウチのせがれがギャーギャーと」

「いいよ。いつものことじゃん。ホークスも参加するんだ」

「おぅ。分厚いステーキ串とジャンボコロッケだ。凛ちゃんも来てくれよ?」

「もちろん!おじさんとこのステーキ美味しいからペロッと食べれちゃうよ」

「ハハハ……お手柔らかに頼むぜ。ところで、そちらさんは?」

「あーあたしのバイト先の店長」


 店長は軽く会釈した。なんか大人しいな。

 てか、ホークスも古いお店なのにおじさんも店長のこと知らないんだ。


「そーかそーか。凛ちゃんもバイトし始めたんだな。エライ、エライ」


 真糸おじさんは困り顔のあたしの頭を力強くワシワシとなでる。

 始めたくてバイトしたわけじゃないけど、褒められると嬉しいな。

 あたしがいい気分に浸っていたら、横の悪魔が耳もとで囁いた。


「……六百万」

「ん?」

「なんでもない!なんでもない!お、おじさん!あの人誰?」


 くそぅ、なんてこと言い出すのよバカ店長!


「あの人?あぁ組会長じゃないか」

「組会長ぉ?」

「凛ちゃんは会った事なかったんだな。さえずり街商店街の商店街従業員組合名誉会長、洞賓呂仙どうひんろせんさんだ。見た目も仙人みたいだから、商店街のみんなは呂仙さんって呼んでいるぞ」


 その、さえずり街商店街従業員組合名誉会長呂仙さんは……って肩書き長いっ!

 あごヒゲめっちゃくちゃ長いから仙人でいいか!

 仙人は全身を震わせながら長テーブルに準備されていたマイクを手に取りしゃべり始めた。

 揺れているせいか、雑音がめちゃくちゃ入ってうるさい。


「ガタッガダッビー、ゔぉっほん。みなしゃま、今日は忙しいにゃかお集まり……ぶぇっくしゅん!!」


 え?なんか、くしゃみと一緒にピンクの塊が飛んでいったよーな気がするんだけど何あれ?

 壁際にいた警備員らしき人が急いでピンクの塊を仙人に差し出した。


「名誉会長様!換えの入れ歯です」

「ふはない、ふあないふぁ」


 アレ入れ歯だったのっ!?こんなおじいちゃんに喋らせて大丈夫!?


「ふざけているのか?」


 あ、流石に怒ってる?店長にとっちゃ大事な正念場だもんね。


「入れ歯飛ばし大会なんて聞いていないっ!何も準備していないじゃないか……」


 そっち!?

 ってか、準備って何よ!?わざわざマイ入れ歯持ってきて飛距離競うわけ!?スイカの種飛ばしは聞いたことあるけど、入れ歯飛ばしはないよ!!

 つーか準備したら店長やるの!?ちょっと見てみたいじゃん……。

 仙人は入れ歯をフガフガ云いながら整え、続きをしゃべりだした。


「しつぅれいしまふた。みなしゃま、今年もにゃつ祭りがやってまいりまふた。昨今、さえずり街はとなゃり街の大手スーパー、大規模しょーぎよー施設のせいで商店街全体の売上がさぎゃりつつありまふ。あたらすぃく、若者にホットなお店が多いのがあちらの強み」


 フガフガ強すぎて聞き取りにくいな……。


「すぃかぁしっ!商店街にはアットホームで暖かみぃのある人情がみなしゃまのおかげでまだまだ息づいておりまふ!となゃり街に負けず劣らず、おいすぃさと人情でにゃつ祭りを盛り上げましょうぞ!!」

「「うぉぉぉぉぉ!!」」


 え、なんか引くほど盛り上がってんじゃん!

 仙人って、まじでヤバイジジィなの!?

 ホークスの真糸おじさんまで立ち上がって雄叫び上げているぅ。


「ね、店長は大丈夫?ビビってな――」


「うぉぉぉぉ!」


 お前もかいっ!


「はっ!僕は一体何をしていたんだ……」


 周りの雰囲気に流されすぎ……。

 キツネがまだ興奮気味の仙人からマイクを奪い取り、しゃべり始めた。


「さて、洞賓さんのありがたいお話もお聴きできたところで本題に移ります」


 本編やっとじゃん……。


「洞賓さんからもありましたが、去年は隣町と同時開催だった為、多くのお客様が都会の祭りへ流れてしまいました。今年はあえて早めの日付に設定し、さえずり街には新鮮で美味しいもの、楽しく面白みがある街だと再認識していただき、リピーターを増やすのが狙いです」


 そー言えば、去年は花火大会もかぶっていて花火師さん確保するのに大変だったって田中さんが言ってたよーな気がする。


「恐縮ではありますが、皆様の持ち寄って頂いた商品が安心安全で祭りを盛り上げるにふさわしいか、古里会長、商店街代表ペリカンの田中様、洞賓さんと私、讃岐で最終判断させていただきます。四人ともから合格が出れば、出店を許可します」


 へ〜おじいちゃん達の許可が降りないと出店出来ないんだ。


「今日お集まりの方々は第一審査を通った方達なので、心配は無用と思われます。ですが、もし、不合格の場合は祭り出店停止とさせていただきます。では、先頭の方から出店商品を持って、こちらへどうぞ」


 キツネに呼ばれて、一番前に座っていたグループが立ち上がり、おじいちゃん達のテーブルへ向かっていった。

 最初のグループはパン屋、園美さんのスパローだ。園美さんはテーブルの紙皿の上へ一つ一つ丁寧にトングを使ってパンを置いていく。あれは……!


「ふむ。揚げパンとな?」

「はい。当店自慢のメニューです。普段は用意していないのですが、夏祭り用にソフトクリームをはさんだクリーム揚げパンにしてみました。溶けないうちにどうぞ召しあがれ」

「でふぁ、いただこうかにょ」


 少しきつね色に揚げられた細長いコッペパンは表面には、しっかり砂糖がまぶされてキラキラ輝いている。サクサクのコッペパンの切れ目にソフトクリームがパンからはみ出るぐらいに挟まれていて美味しそう。

 仙人って冷たいアイス食べて大丈夫かなぁ……。

 仙人達はクリーム揚げパンを一口食べた。


「うむ、さすが、さえずり街の人気店だの。うまい」

「えぇ。あったかい揚げパンに、少し溶けたソフトクリームが染み込んで濃厚な甘さがたまらないですね」

「そーですね。揚げパンの食感も、砂糖のカリカリとアイスが溶けたふわふわと二種類あって食べるのが楽しいです。これは大人から子供までオススメ出来ますよ」

「ワシ、これ好きじゃの~。なつぅかすぃ~味じゃ」


 さっすが園美さん。審査員から高評価!


「みなさんがおいしい顔で嬉しいわ〜。ここではトースターで温めましたが、当日は店頭で揚げたてをすぐソフトクリームにはさみますので、より食感が楽しめますよ」

「では、皆様。投票にまいりましょう。スパローのクリーム揚げパンは祭りにふさわしいですか?合格の方は手を上げてください」


 キツネの声で審査員全員が手を上げた。


「満場一致ですね。おめでとうございます。では、あちらの者から当日の詳しい段取りを説明聞いて下さい。ご不明点がなければ、お帰り頂いて大丈夫です。当日はよろしくお願いいたします」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 園美さんは軽く会釈をして実行委員に誘導されていった。

 そこからも次々テンポ良く祭り参加者が呼ばれていく。大体がすぐにオッケーをもらっているけど、たまに失格も出でるから油断できないかも。

 例えば……。


「いかがでしょう!?私達の鍛え上げられた肉体美で祭り会場を盛り上げます!」


 審査員の前には六人の上半身裸で筋肉モリモリマッチョメンが、荒い息を吐きながら自慢の決めポーズ披露している。


「わし、筋肉モリモリは好かん」

「と、言うわけで、お帰り下さい」

「待ってください!実際に見ていただければ俺たちの筋肉がいかに美しい――まっ、筋肉は最高なんだぁー!」


 祭り実行委員が、筋肉美を語って粘るマッチョ達を強制的に外へ追い出していった。そーいえば、古い雑居ビルに怪しげなジムがあったよーな?そこの人達かなぁ?

 それにしても、マッチョ踊りは需要が少なすぎるよねぇ。


「誰が一次審査で許可したんだかの……?」

「さ、気を取り直して次の方!」


 次のグループが呼ばれ、席を立つと同時に未糸兄達も立ち上がった。


「あれ?未糸兄はまだだよね?」

「凛さん、もしかして僕が居なくなると寂しいのかい?仕方ないなぁ~僕がっ、そばっぼっ!」


 あ、真糸おじさんの拳が未糸兄の右頬にクリーンヒットしてる。


「なぁ〜に与太話してんだ。さっさと準備するぞ」

「父さん!何も殴らなくてもいいじゃないか!イケメンフェイスが台無しだ!」

「良かったな。よりイケメンになったじゃねぇか。凛ちゃん、ウチのボンクラがすまねぇな。もう少しで出番だから準備してくるぜ」

「うん。いってらっしゃーい」

「送り出してくれるなんて、まるで新婚夫婦じゃないかっ!凛さん!やっぱり君は僕のて、うぐっ」


 未糸兄は有無を言わさずに真糸おじさんに首根っこを掴まれて会場横の準備室に消えていった。


「騒がしい男に懐かれているな」

「未糸兄とかって、あたしが小さい頃からの知り合いだから、近所のお兄ちゃん感覚なんだよね。だから、商店街の人達はみんな可愛がってくれるよ。そう言えば、未糸兄達が準備するなら、私達もしたほうが良いんじゃない?」

「僕らの出店品は電気を使わないから問題ない。黙って待っていろ」


 また余裕ぶっこいて足元すくわれても知らないからね?

 念の為、あたしも出店品を確認したら店長の言っていた通り、問題は無さそう。

 ほとんどの出店者が終わったおかげで、前のタヌキ達が見えやすくなっていた。

 長テーブルで今まさに未糸兄達が、審査員に焼き立てのステーキ串とジャンボコロッケを出している。

 少しして真糸おじさんが手を高く上げてガッツポーズを決めた。どうやら合格できたみたい。次々と出店者が消えていき、最後はあたし達だけが広い会場の中にいた。


「最後の方、どうぞ前へ」


 キツネに呼ばれ、あたしと店長は顔を見合わせてうなずいた。

 さぁ、あたし達の出番だ。

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さえずり街の瑠璃亭 夏宮 蛍 @natumihotaru

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