第17話 レッツ試作品
信じらんないけど、店長、マジでジャンケンをした事無かったみたい。ジャンケンしない人生ってどんなのよ?何か決めなきゃいけない時はコイントスで決めていたんだって……。マジ?
河ちゃんは『知らねぇなんて思わなかったんだ。ジャンケン出来る仲間が居ねぇなんて不憫じゃねぇか』って、小豆も安く卸してくれることになった。
なんか店長はムッとしていたけど、これが怪我の功名ってやつ?
今、お店に少し残っていた小豆だけ、その場で買い取り、残りはおまけ果物と合わせて、後日、届けてくれるそう。
お店に戻って、さっそく買った小豆で試作品用の餡を作ってみた。
洗川のおばあちゃんに教えてもらった通りに、ゆっくり、丁寧に豆の様子をうかがいながら炊く。
「よっし!順調、順調!」
綺麗に炊き上がった餡をバットに移した。冷ましている間に餡を包むパンケーキを焼いておこう。
店長のカンニングミックス粉に卵と牛乳を混ぜて、生地がもったりとゆっくり落ちる程度に整える。生地が完成したら、フライパンにバターを一欠片投入!バターの香ばしい香りがしたら一旦、火を止める。少し湿らせたフキンの上にフライパンをのせて温度を均等にさせる。ジュッと音がしたら、フライパンを持ち上げて、生地をだんだんと広がる水の波紋の様にゆっくり生地を落としていく。
ちょうど良い大きさになったら、もう一度コンロに戻し、弱火で火を通して、生地に気泡が出始めたらひっくり返すサイン。
うまく焼けるかどうか、緊張の一瞬!
「いち、にのぉー、さんっ!」
生地は綺麗にフライパンの上で宙返りして百点満点の着地。
「さっすが、あたし!いーじゃん、いーじゃん!」
パンケーキはこんがりきつね色に焼けていた。上出来過ぎて思わずガッツポーズしちゃう!
「パンケーキぐらい静かに焼けないのか?」
「仕事してない人に言われたくありませんー」
「うるさい。僕に重労働させておいてよくそんな口が聞けるな?」
味覚はイマイチだけど、パンケーキは焼けるので、祭りの練習がてら、あたしがパンケーキを焼き、店長は間に挟むアイスクリームの試作品を作っていた。
瑠璃亭が休業前から作っていたバニラ、チョコ、抹茶と、河ちゃんがおまけで付けてくれる桃、パイナップル、バナナも、一旦、店にあったデザート用の果物で作っている。
まぁ数はあるけど、試作品段階で量はないのに重労働って、店長どんだけひ弱なのよ。
「店長こそ、か弱い乙女に力仕事させる気ですかぁ~?」
「か弱い?図太いの間違いだろ?」
「図太くありません〜。とおっても繊細なんですぅ~」
「どの口が言っているんだか……」
「文句言うんだったら自分で焼けばいいじゃん」
「不審者が焼きたいと僕に頼み込んできただろ?」
「そうだけどさっ!」
店長に任せたら変な調味料追加しそうで怖いから何かと理由つけて焼きに回ったのよ!
イライラしてきてお玉ぶん投げてやろうかと構えた時、瑠璃亭のウェルカムベルが鳴った。
「君たちー。元気な声がお店の外まで聞こえているよー」
「田中さん!?どしたの?」
「進捗具合を見に来たんだ。夏祭りのお菓子は決まっ……てないみたいだねぇ」
田中さんがあたし達の手元を見て苦笑いする。
お店のカウンターは色とりどりの果物と、パンケーキの生地や調理道具がゴチャゴチャに置かれていた。
決まっていたら、もっとテーブル綺麗だよね。でもさ……。
「だって店長が駄々こねるから……」
「不審者がテキパキ動かないから……」
同時にしゃべって同時に動きが止まる。
思わずにらみ合っちゃったじゃん。
「はぁ~。きっと君達のことだから難航していると思ったんだ」
「僕一人でやればスムーズでした」
「まだそれ言う!?」
「ちょっと、ちょっと二人共ケンカしていたらあっという間に期限がきちゃう。少しは冷静になりなさい」
「ダメ」
「無理です」
うもぅ!合わせたくないのに何で一緒になるかなぁ!?
「……そんなところだけ息ぴったりなんだから。よし、二人共、気分転換をしよう」
「「気分転換~?」」
「そう。少しキッチンを借りるよ。確か、ワッフルメーカーあったよね?」
「あ、はい。こっちの棚に……。どうぞ」
キッチン棚の上の戸棚から大きめの箱を取り出した。中からは四角いワッフルが二つ焼ける家庭用のワッフルメーカーだった。
「あーこれだ、これ。懐かしいなぁ。じゃここにバターを塗ってっと」
瑠璃亭ではワッフルはメニューにない。お客さんに頼まれた時にしか作らなかったみたいで、常連さんだけが知っている隠れメニューだったそう。田中さんも何度か前の店主に作ってもらったんだって。『ずいぶん昔の事だね』ワッフルメーカーを撫でながら話してくれた。
田中さんは慣れた手つきでワッフルメーカーの両面にバターを軽く塗って、あたしが使っていた生地を流し入れた。蓋を閉めて『よしっ』つぶやき、店の冷蔵庫を開ける。
「これ使ってもいいかい?」
「はい」
「ありがとう。じゃ、こっちを使わせてもらおうかな」
冷蔵庫の中からイチゴジャムを取り出し、カウンターに置く。続いて棚の中から丸いステンレス製の型を取り出してカウンターに置いた。バターと焼きたての甘い香りが漂ってきた。
「さて、そろそろかな?」
田中さんはシンクのそばにあった菜箸をつかみ、ワッフルメーカーを少しだけ開く。
「うん。上出来だね」
一つうなずいて、ワッフルメーカーから菜箸を使って丁寧に生地を取り出した。
「うはっ!いい匂い〜」
取り出されたワッフルはこんがりきつね色に焼かれている。
「おいしそっ!食べていいの!?」
「このまま食べたい気持ちはわかるよ。でもちょっと待ってね」
「え?」
田中さんはワッフルを丸い型の上へ置き、真ん中を押しながら型にはめ込んでいく。一、二分ほど待ってからワッフルを取り出しらワッフルカップの完成。
「ワッフルの器ってこうやって作るんだ!?」
「結構簡単に出来るだろう?おいしい
「ちょ~豪華じゃん……」
ワッフルの器に桃アイス。横には少しいびつだけど食べやすい形にカットされているイチゴやパイナップル、バナナを添える。アイスとフルーツの間にはつやっつやのつぶ餡。これぞ宝石箱よ!!
「さ、味見もかねて召しあがれ」
「ほんとはパンケーキ作んなきゃだけど、味見ならばしよーがない!いただきまーす」
「まったく。理由をつけなくても食べていただろ……」
「『僕は関係ありません』みたいに突っ立っているけど、君も食べるんだ」
「え?」
「あたふぃまふぇじゃぅ」
「はぁ?」
「凛ちゃんの言う通り。この店の店長なんだから、商品の味をチェックするのは当たり前だよ。ずべこべ言わずに食べなさい。はい、君の分」
店長の前には、パイナップルアイスとバナナ、イチゴが盛られ、最後にハチミツをかけたワッフルカップが置かれた。
んーあれも美味しそー!
「じゃぁ、いただきます」
いい音が鳴るぐらい勢いよく両手を合わせてお辞儀する店長。
デザート食べるだけなのに気合い入りすぎ。不味くないから思いっきり行けばいいのに……。しかも、両手を合わせたまま固まっちゃった。
「大丈夫。今の君ならわかるよ」
田中さんを見て頷き、やっと一口アイスをすくって食べた。目を閉じて、ゆっくりと味わい飲み込む。
「どうだい?」
「爽やかな酸味が心地良いです」
「そうか。それは良かった」
田中さんがニコニコ微笑んで店長を見た。
「……はい」
返事を返したら、少しうつむいたままパフェを食べる店長。
「どゆこと?」
「そーゆー事さ」
分かんないよ。
あたしが混乱している間に、きれいに食べきった店長が田中さんをまっすぐ見る。
あれ?なんだか、さっきより瞳がキラキラしている気が……?
「田中さん。コレ、いただいても良いですか?」
「いただくも何も、全てこの店で君達が作った物だよ?私に許可はいらないさ」
「ありがとうございます」
「えーっと、どゆこと?」
「パンケーキ作りは終わりだ。ワッフル作るぞ」
「へ?」
なんですと?
「察しの悪い奴だな。美味しかったんだろ?ワッフルパフェ」
「そりゃ、もちろん」
秒で完食しちゃうぐらい美味しかった。
「じゃ、作るまでだ」
「ん?あ!さえずり祭のお菓子をワッフルパフェにするってはなし!?」
「そーだ。田中さんと不審者のお墨付きだし、時間もあまりない。少し準備がかかるが、量を作っておけば、当日はなんとかなるだろう」
不審者のお墨付きってのは気になるけど、パンケーキと同じ材料で出来るし、何より店長がやる気ならワッフルカップでチャレンジするっきゃないでしょ!
「この調子なら、祭りの審査会に間に合いそうだね。二人とも参加するかい?」
「するっ!」
「じゃぁ、祭りの担当者には私から話しておくよ」
「よろしくお願いします」
「あぁ。じゃぁ後は二人で頑張って。審査会、楽しみにしているよ」
「うん!まっかせといて!」
田中さんはニコッと私達に笑いかけて帰っていった。
よぉおおし!メニューも決まったし、後は審査会までに完璧に仕上げないと!
「頑張ろうね、店長!」
「まかせた、不審者」
いや、なんでよっ!?
「ビィィィッ!」
カウンターの隅で寝ていたオカメインコも羽をばたつかせてあたしを威嚇してるじゃん。
なに?それはあたしが一人で馬車馬みたいに働いてとーぜんって言ってるの!?
「あたしに丸投げしてどーすんのよ!お店の存続がかかってるんでしょっ!?」
「ジョークだ。真に受けるな」
これまでの行いのせいで冗談に聞こえないんだけど。
「さ、冗談は置いといて、やるぞ」
ま、店長がやる気なら大丈夫、かな?
残りのワッフルカップを食べて、再びキッチンへと戻った。
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