第11話 マズイVSフツウ

「では、高貴な私が、お菓子を決めてやろう!」


 なんか、いちいち右左とポーズを変えながらしゃべってる。

 動作がうるさくてムカつくな。

 つーか、なんで伯爵が仕切ってんのよ。


「対戦する菓子はぁー」


 両手を交互にエアドラムしてドゥルドゥゥルと口で効果音を出し雰囲気作りする伯爵。伯爵ドラムがドゥダンッ!と切った後、色白チャイナ娘が元気よく手を挙げた。


「イチゴー!」

「いや、それ素材じゃん」


 マオちゃんが食べたいだけでしょ。


「ホットォケゥェーキィー!!」

「伯爵、ちゃんと言ってください」

「雰囲気が台無しだぞ!ホットケーキだ、ホットケーキ」


 雰囲気ってただのお菓子対決ですよね?

 伯爵絶対面白がっているよね!?


「ふっ、朝飯前ですよ」


 得意分野か何か知らないけど、爽やかに前髪をかきあげる。


「ホットケーキの元で作っている人がドヤ顔してどーすんのよ」


 ホットケーキミックスで俺出来ます的なオーラ出さないで欲しい。ホットケーキミックスが優秀なだけで、店長は違うから。


「君こそ余裕だな。味が楽しみだ」


 アゴに手を当てて上から目線をキープしたまま鼻で笑った。

 キィー!圧倒的に不利なヤツがドヤッてんのムカつくっ。

 みてなさいよ!叩きのめしてやるんだかんね!


「ここのキッチンは広い。二人同時に作ってもらう!」

「勝手に決めないでください。まぁ、時間もない。不審者、キッチンを壊したら、更に借金追加するからな」


 ヒドっ!信用どん底じゃん!手伝ってあげているんだからミリぐらいはあるでしょうがっ!!


「そんな事しないし!店長こそ、あたしの方がおいしかったらお菓子作り、手伝わせてよね?」

「良いだろう。なんでも聞いてやる」


 よっしゃぁ!!言質とったあ!

 ガッツポーズをしっかり決めてから、必要な素材をキッチンに並べた。


者共ものども位置について、よーい、ドンッ!」


 伯爵の合図で料理開始!

 店長はさっそく、出来上がったケーキミックスの粉を取り出す。

 あたしは元から作っちゃおう。

 薄力粉とベーキングパウダーを振るいにかけて、塩、砂糖を混ぜて、粉は完成。粉に牛乳と卵をあわせ、ハンドミキサーでさっくり切るように混ぜていく。少し馴染んだところへ蜂蜜をドバーっと投入!

 砂糖の甘味はあるけど、蜂蜜がよりなめらかな甘さにしてくれて、あたしは好きなんだよね。後はみりんを少し追加して生地は完成。

 店長も手際よく材料をボウルに入れている。今のところ、互角って感じ?店長の事は気にせず、コンロへ移動。バッチリの焼き加減で差をつけてやる!

 まずはフライパンを中火で熱し、少し温めてから一度火から上げる。ぬれた布巾であら熱を取って、もう一度コンロへ。弱火でじっくり温めていたフライパンの中心めがけて高めの位置から、生地をゆっくり入れていく。高い所から生地を入れると、キレイな丸になってくれるんだよね。

 生地を入れて3分ぐらい待って、小さな気泡が出始めたら、フライ返しの出番。ここからが腕の見せ所!

 キレイに生地が焼けていると信じて一気にフライ返しをホットケーキの下へすべらせて、勢いよくひっくり返す!


「やった!あたし天才じゃん!」


 ホットケーキの表面がキレイにキツネ色になってる。大成功!

 後は余熱で火を通してー完成!

 ふふふ。

 色ツヤどっちも完璧じゃん。店長なんかビックリしてエプロン食べちゃうかも?

 店長も一通り調理が終わって、飾り付けのみ。

 あたしも白くて縁に花柄模様が書かれた丸いお皿の上にホットケーキをそーっとのせる。あったかいうちに、四角いバターをホットケーキのてっぺんに乗せて、サイドには真っ白ふわふわホイップクリームをそえる。最後にメープルシロップをホットケーキ全体にたっぷりかけて出来上がり!今すぐ食べちゃいたいけど、店長に負けちゃうのやだし、がまんしなきゃ。


「あたしは出来たよ!」

「僕も出来ました」

「よし、食してやろう」


 伯爵がどっから取り出してきたかわかんないナイフとフォークをかまえた。てか、作ってもらったのに、もっと他の言い方あるでしょ?


「ではでは~小娘のホットケーキから食べてみるとするか」

「マオもリンのたーべーるー!」


 伯爵とマオちゃんの前にあたし特製ホットケーキを置く。

 伯爵がフォークとナイフで切り分けてマオのお皿に盛り付けた。


「リン、おいしソウ」


 言葉だけ聞くと怖っ。

 あたしが食べられるみたいじゃん。

 マオちゃんは気にせずグーでフォークをつかみホットケーキの真ん中に突き刺す。持ち方がちびっ子じゃん。

 伯爵はフォークとナイフで小さく切り分け上品に食べた。


「ふむ」

「リン、美味しいー!マオこレ好き」


 だから、あたしが美味しいって聞こえるんだけど?あれかな、マオちゃんがあたし見ながら食べるから余計にそう聞こえるのかも?


「小娘はメイドをしていたのか?」

「ないよ。つーか、なんでメイド?」


 学園祭のコスプレとかはあるけど、ガチのやつはない。 あってもヤダ。


「メイドも時々食事や菓子を作るだろう?その年で苦労しておるな。メイドにしては良い方だ」


 うっわ、伯爵の自宅ってメイド付きのお宅なの?

 メイドさんが居たお宅に住んでいた人の感想じゃん。ブルジョア恰好は冗談じゃなくてマジもん!?つーか、どこにも仕えたことないし。


「……あたし、この店が初バイトなんだけど?」

「なんだと?!では、小娘オリジナルなのか?」

「そーですぅ。ちっちゃい頃からお母さんに仕込まれてたんだよね」

「なるほど、母君の教育が良かったのだな。うまいぞ」


 上から目線が気になるけど、家族を褒めてくれるのは素直に嬉しいな。


「では、次はネルロだな」

「はい。僕はシンプルですよ」


 店長が審査員二人の前に出したのは、本人も言った通りいたって普通の二枚重ねのホットケーキ。

 きつね色に焼きあがったホットケーキの上に四角いバターが一つ、ゆっくりと溶けておいしさを引き立てている。


「ほー。確かにシンプルだ。シロップはつけなくていいのか?」

「えぇ。中に練りこんでいますので、そのまま召し上がってください」

「なら、食べてみるか」

「ネルロのもおいしそう……」


 あたしの時と同じく、伯爵が丁寧に切り分けてお互いの取り皿に盛り付けた。

 二人とも同時にホットケーキを口に入れた。


「んぐっ!?」

「ホギャッ」


 なんか、不思議な音が聞こえたような……。

 伯爵の顔が心なしか青いような気がする。マオちゃんは元々青白いから分かりづらいけど変な顔している。


「……ネルロ。味見はしたか?」

「もちろん、しています」

「ネルロ、舌おかしイィ」

「は?おかしい?」

「味見をしてコレなのか?」

「そんなに?あたしも食べたい」

「あ、おい!」


 カトラリー入れから適当にフォークを選び、伯爵の皿から一切れ取って食べてみた。


「んげっ、あっまぁすぎぃ……」


 砂糖のシロップ原液をそのまま食べた味がする。

 甘過ぎて一枚食べただけで病気になりそう。


「ホットケーキだから、甘いのは当たり前だろ」

「いや、これはホットケーキじゃない。砂糖漬けのスポンジだ!一体なにを入れたのだ?」

「え?ホットケーキシロップと蜂蜜、練乳も混ぜて隠し味にチョコレートシロップも混ぜました」

「馬鹿者!甘味を入れすぎだ!高貴な素人の私でもわかる!」


 高貴な素人って何よ!?

 まぁ、気持ちはわかる。砂糖そのまま入れて砂利みたいな食感にならなかっただけマシ?つーか、チョコ感が全然ない。隠し味が隠れたまんまなんだけど。


「これは文句無しで小娘の勝利だな」

「え!どうしてです!?」


 病院送りになりそうな砂糖ケーキ作った奴がそれ言う?って話よ。


「当たり前だ!客側にどうしてこうなってしまったのか問いただされる料理を出した時点で負けは確定している!大人しく、負けを認めよ」

「マオ、前のイチゴがよかっタ」


 あ、追い討ち。

 店長、またショックで固まっている。

 今のうちに叩き込んでお菓子作り参加させてもらおう!


「フフフ、店長!約束どおり、私のお願い聞いてもらうからね!」

「嫌だ」


 おいっ!


「往生際が悪いぞネルロ。マオを見習え?マオは私の言うことをちゃんと聞いて実行するぞ」

「そりゃマオさんはあなたの物だからでしょ……?」

「あたしのお願いはただ一つ!」

「おい、不審者!無視してさっさと進めるな。僕はまだ了解し……」

「うるさい!」

「う、うるさい!?」

「店長グルグルずーっと文句ばっかり!本当はどうしたいの?美味しいお祭りのお菓子作らないと瑠璃亭なくなっちゃうんでしょ?せっかく再開できたのにまた閉まっちゃうなんて嫌じゃないの?」

「そ、それは……」

「あたしは嫌!店長偉そうだし、いつもバカにしてくるけどさ、このお店が大切なのは見ていたらわかるよ」


 カウンターで一人苦しむ姿を見たら、嫌って言うほどわかる。

 この人は独りで戦っているんだ。


「あたしも店長とはちょっと違うけど、しんどい時あったもん」


 今は、ちょっと食いしん坊のトキメキJKだけど、昔とってもしんどかった。辛いところから抜け出したくて、家族でこの街に来た。偶然、助けてくれる人に出会えた。だから、今、笑っていられる。

 あたしは目を軽く閉じて昔を思い出した。

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