第41話 ただいま会議中
宴会明けのその日、ギルドが業務を開始したのは午後になってからである。突然の午前休業だったが、原因の一つが宴会に参加していた冒険者自身であったためか、文句を言われることはなかった。
昼頃になってもモール市長、ケルヴィンの両者は二日酔いでまともに会話できる状態にはなく(頑なに認めようとはしなかったが)、彼らが回復したのも仮眠を取った後、夕方になってからである。リンはあまり飲んでいなかったため元気。テトラは仮眠した後、昼から働いていた。
ちなみに
そして今は夜。人払いが済んだ一階のフロアには、モール市長、勇者タコ、ケルヴィンの三者が揃っている。(何故か
小さな丸テーブルを三角に囲む大物たち。少し距離をおいて椅子に座る
「リンたちもこっちに来るにゃん。お前たちは拙者の
「タコ様……! 分かりました今すぐにタコ様の膝に座ります!」
「やっぱりそこから動くなにゃん」
遠ざけられて、悔しそうに頭を抱えるリン。余計なこと言うから……。
「さてと。ではそろそろ話を始めようか。書簡に書かれていた内容は……全員知っているかな」
「本当はちゃんと現物を見ながら話した方が良いのですけどねえ」
「書簡なら持っているぞ」
「ロバート、そういう意味じゃありません……なんで持っているんですか。持ち歩くものじゃありませんよ。そんな大切な文書、無くしたらどうする気ですか……」
「無くしたりはしないさ。こう、ちゃんと懐にしまって……あれ、そもそも上着が無い」
「あの、上着なら干してあるのではないでしょうか? 水浸しになったので」
「…………」
リンの言葉に、モール市長は気まずそうに明後日の方向へと視線を向ける。(ちなみにそっちには天井しかない)
「まあ、濡れたくらいなら大丈夫だろう」
「大丈夫なわけないでしょう。市議会には伝えておきます。減給処分楽しみにしててくださいねぇ」
「な、貴様、卑怯だぞ。元はといえば」
「モール市長。本題に戻るにゃん。まずは書かれていたことを確認するにゃん」
白ゴリラにウホウホ言われ、モール市長は咳払いした後、真面目な表情で頷いた。
「まず
「ああ、そうだ。場所はブラウディッシュ大陸──魔族の支配する大陸だな。その北西部にあるルト平原。
「なるほどにゃん」
「そして気になるのは、タコ──勇者殿のことではなく、白くて頭が三角形で足の十本生えた軟体動物っぽい生き物らしいのだが、その着ぐるみがスケルトン軍団を率いているということだ」
「な、なるほどにゃん。足が十本……まったく心当たりのない着ぐるみだにゃん」
勇者は露骨に明後日の方向へと視線を向けた。(ちなみにそっちにも天井しかない)
「なお書簡にはこうも書いてあった。『その着ぐるみは勇者タコに寄贈したものである。世界に一つしかない』と。さてタコ殿、お心当たりは?」
勇者はうさ耳をぐにゅんぐにゅんと弄りながら、汗をぽたぽたと垂らしつつ答えた。
「知らないにゃん。魔王の勘違いにゃん」
「昨日、ギルドに来る途中に、何名かの市民に聞いてみたのだよ。すると『その着ぐるみなら見かけたことがあります。確か勇者タコ様がこの街に来た頃ですね』と言っていたよ」
勇者はうさ耳を──表現し
「たぶん見間違いにゃん。きっと足が十本のシロクマが街に侵入してたにゃん」
「そんなはず……その前になんだその生き物は。怖いのだが。シロクマはこの大陸にいないし。ええでも、分かった。そういうことにしておこう。ところで勇者殿。そういえば二ヶ月前に荷物を紛失したと聞いているが、魔王からもらった着ぐるみはその中にあったと考えてよろしいかな」
問い詰めるモール市長。だがタコはあくまでも「着ぐるみなんて知らないにゃん」と否定する。しかし焦りからかぽろぽろと……全身の毛が抜け始めている。
え、なにそれ怖……。
「分かった。じゃあタコ殿の知らないうちに、そういう着ぐるみが荷物に入っていたとしよう。そしてその荷物はギルドの受付嬢アイラの転移魔法により、世界のどこかに消えた。ケルヴィン、ここまでは間違いないな?」
「その事件が起きる前にアイラはクビにしていますよ。関係者でもない女性の行動など、私の預かり知らぬところですねぇ」
「貴様ら……あくまでも隠す気か。まあいい、推論だけは言おうか。アイラは無名であったが、転移魔法を
「なにが言いたいにゃん?」
「つまり、魔王の領地で暴れ回っている着ぐるみの正体は、魔術師アイラだということだ!」
その言葉に──
「それはないにゃん」
「それはないですねぇ」
「それはないですよ」
「それはないな」
タコ、ケルヴィン、
「何故だ? 状況証拠は揃っているぞ?」
「証拠? そんな馬鹿げたいものに踊らされているんですか? ロバート」
「なんだと」
「ロバート、あり得ないんですよ。謎なら
そして四人は同時にそれを告げた。
「ただのアホだから」
*****
「ふぇっくしょん!」
着ぐるみの中で、
「おい、アイラ。盛大に胞子をばら撒くんじゃない」
「そんなこと言われましても、急に傘がむずむずして」
不死族となってしまった着ぐるみ。それに迫られ絶対絶命のピンチに陥ったミーナであったが、何故か襲われることなく、むしろその着ぐるみの中へと誘われた。
そして着ぐるみを着込んだミーナは、スケルトンたちとともに草原を闊歩している。着ぐるみの中のミーナはどういうわけか食事をしなくても生きていけるらしく、幼女化したままの彼女であってもなんとか生存できている。
「もう着ぐるみの中はキノコで一杯なんだぞ」
「それはわたくしだけのせいではないでしょう。胞子をばら撒き続けたのはあなたも同じではなくて?」
「そうだけども……。というかミーナ。俺たち以外のキノコはぽいぽいしちゃって良いんだぞ?」
着ぐるみの中はキノコの王国となっていた。じめじめして程よく空気が出入りするものだから、
なお全部、
だからといって、我らの子供ではない。断じて。
「ぽいぽいしないよ。だって、ゴキブリおにいちゃん」
しかしミーナは情け容赦なく──たぶん無垢な笑顔で、こう言うのだった。
「ゴキブリおにいちゃんとアイラおねえちゃんのこどもだもん。すてたりできないよ!」
「ミーナ、語弊のある言い方をするな!」
「そうですわ! それじゃまるでわたくしたちの性交渉により生まれた子供みたいに聞こえますわ! キノコは無性生殖!」
青空のルト平原。勇者たちの悩みも知らず、今日もキノコたちは元気に胞子をばら撒きながら、わーわーぎゃーぎゃー騒ぐのであった。
(注)キノコは有性生殖をします(雄と雌で子供を作る、みたいなこと。キノコの場合は少し意味が違うみたいですが)。ただ花とは仕組みが違うため、離れたキノコ同士で生殖することは通常ありません。通常はね……。
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