第7話

「これは私からの、精一杯の真心のつもりです。今は……、あなたには理解できないかもしれませんが、いずれ分かっていただけるものかと」


なんだろう。


文を受け取る。


「どうぞ、ご覧ください」


上等の紙に記されたそれを、はらりと開く。


そこにあったのは離縁状だった。


「私のことを好きになろうとか、そういった努力は無用です。あなたもそんなことは、本心ではしたくはないでしょう?」


晋太郎さんを見上げた。


自分の手が震えている。


「私のことを、嫌いになられましたか?」


「いいえ、そういうことではありません」


「ではどうして?」


「好きでもなければ、嫌ってもいません。……そんなこと、あなたは考えたこともありませんでしたか?」


その人はかすかに微笑んでから、ため息をついた。


「よいのです。それが普通で……、当たり前なのですから。私はあなたと祝言を挙げましたが、それに縛られることはありません。気に入らなければ、いつでも好きな時に離縁してくださって構いません。あなたにそれを渡しておきます。返礼はいつでも結構、急ぎはしません」


「私に出て行けとおっしゃっているのですか?」


「いいえ違います。これ以上、あなたがなさる悲しい努力を見ているのが、私には辛いのです」


「悲しい努力?」


「好いてもいない見ず知らずの者のところへ、嫁がされたことです」


それは晋太郎さんにとっての、珠代さまのことを言っているのだろうか? 


私を珠代さまのようにはしたくないと?


「家の者と懇意にしていただいて、そして嫁にきていただいて、本当にとても感謝しています」


「悲しい努力とは、一体なんのことでしょう」


「……。あなたが、ご自分の口でおっしゃりたくないのであれば、それで構いません。その文は私の気持ちを、ただ形にしただけのこと」


「分かりません!」


なぜ離縁状を渡すことが、この人の真心になるのか。


そんなこと、分かるわけがない!

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