第3話
「あなたが気にするほどのことではありませんよ」
「左手です」
動こうとしないその人の、袖から伸びた拳にそっと触れる。
ずいぶん大きな手だ。
ゆっくり開くと、何ともなっていないように見える。
「やけどを、してはいないのですか?」
「……。あなたの手は大丈夫でしたか」
パッと手を離した。
私の手は、取っ手をつかんだ部分が一直線に赤くなっている。
「わ、私は、大丈夫です」
痛みがないわけではないけど、余計な心配もかけたくない。
寝巻きの袖を引っぱって、見られないように隠した。
晋太郎さんはそんな私を、じっと見つめている。
「私の手をみたのですから、あなたの手をみてもいいですか」
「え?」
大きな手が伸びてくる。
晋太郎さんの手が私の手に触れ、それを開いた。
「あぁ、赤くなっているではないですか。利き手がこれでは、今日の仕事は辛かったでしょう」
触れられている手の方が熱くて、すぐに引っ込めたい。
「そ、そんなことはないです」
どうしていいのか分からなくて、おずおずとその手を引っ込めた。
恥ずかしさに背の後ろに隠す。
「やはり女人には、気安く触れるものではありませんね。失礼しました」
「わ、私は大丈夫です!」
「あなたが大丈夫なら、わたしも大丈夫ですよ」
「でも……」
「でも?」
立ち上がったその人を見上げる。
「あなたも疲れたでしょう。早くおやすみなさい」
「……。はい。おやすみなさい」
この人は衝立の向こうへ行ってしまう。
横になると、すぐに背を向け布団をかぶってしまった。
行燈の明かりを消す。
真っ暗になった部屋で、私も布団に潜り込んだ。
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