第4話

そうやって腹をくくり、構えて待っているというのに、いつまで経ってもやって来る気配はない。


夜はとうに更けた。


絶対に起きて待っていようと思っているのに、眠気に押されてしまっている。


やがてウトウトとしてきた。


話す内容をもう一度復習する。


今日の夕餉で美味しかったと思ったところと、明日の朝餉のこと。


それなら毎日聞けるし、返事にも困らないだろうから。


朝餉に添える漬物の話しをすれば、ちゃんとあの人の望み通りに出来るし。


白菜と大根の漬物があるから、それのどっちが好きかを聞いて、お義母さまや台所を手伝う奉公人さんたちにはバレないように、こっそり多めに皿に盛ってあげれば……。


そんなことを考えながら、いつの間にか眠ってしまっていて、目を覚ました時にはすでに朝日が昇っていた。


私の上には布団が掛けられていて、衝立の向こうのあの人の布団は、なに一つ乱れていないままだ。


朝餉になっても、食事に現れない。


「晋太郎さんは、どうしたのでしょうか」


空席のままになっている隣の席で、味噌汁はすっかり冷めてしまった。


「さぁ、私に聞かれても分かりません」


いつも元気なお義母さまは、今日は味方になってくれないらしい。


助けてくれるって言ったのに……。


「あの、私が行ってみても、大丈夫でしょうか?」


「どこへ?」


「奥の部屋へ……」


義母はあっけにとられたような顔をする。


「そんなこと、私に聞く?」


義母は一番に朝餉を食べ終えると、ため息をついた。


「行きたいなら、行ってきなさいよ。夫婦なんでしょ?」


今朝のお義母さまは素っ気ない。


滅入りそうな私を見て、お祖母さまが口を開いた。


「晋太郎は優しい子だから、志乃さんのことも悪くは思ってないはずですよ。気にせず行ってらっしゃい」


そうだ。そうだよね。


遠慮はいらないと言ったのだから、私だって遠慮する必要はないのだ。


どうすればいいのかなんて、考えたって分からない。


分からないことは考えてもしょうがないので、考える必要もない。


正直、待っているのは私の性に合ってないんだった!


「はい! では、行って参ります!」


私と晋太郎さんは、ちゃんとした夫婦なんだから! 


お義母さまとお祖母さまの応援を受けて、気合い入れに帯をバシバシ叩く。


あの人の好物だという籠八屋のあん餅を武器に、いざ敵地へと赴かん!

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