第17話 脳内ミシェパは本当にいるって言ってるだろ!

 アレスに脳内ミシェパのことを話したよ。


 最初は「とうとう頭がおかしくなっちゃった!?」という悲しい目をアタシに向けていたアレスくんだった。


 でもミシェパとアレスだけしか知らない話や、アタシが知るはずのない昔の思い出話が、アタシの口から語られるのを聞きくと、腰を抜かさんばかりに驚いてたよ。


 それでもまだ信じられないといった顔のアレスくんだったけど。


(仕方ない。それではシズカよ。去年、アレスヴェル様がおねしょをしてしまったシーツを、ミシェパが誰にもわからないように部屋で陰干しした話をしてやってくれ)


「……で、涙目のアレスに、ミシェパが『見事な大陸地図を描かれましたね! さすがはアレスヴェル様。おねしょでも大陸全土を支配されております!』って言ったんだよね」


「わーっ! わーっ! わーっ!」

 

 途中から必死になってアタシの口を押さえに掛かってくるアレスくんを、アタシは華麗に避けながら話を続ける。


「えっ!? アレスって、5歳になってもラミア族の乳母のおっぱいを吸ってたの!? もしかしておっぱいスキー!?」


「わーっ! わーっ! わーっ!」


「ふむふむ。まさかアレスにそんな性癖があったとは……」


「わかったよ! もうわかったから! ミシェパ! もうシズカに変なこと話さないでよ!」


 とうとう観念したアレスくん。肩で息を切らしながら、恨みがましい目でアタシを睨んでくる。ふん。いくらそんな目を向けたところで、カワイイだけだかんな!


「もうアレスヴェルの話はしないって。ミシェパがそう言ってる」


「……」


 その言葉が本当なのかどうかを知ろうと、アレスくんのコバルトブルーの瞳がアタシの目を覗き込んでくる。顔が近い。チューしていいのかな?


 ンチュー!


 アタシが唇を突き出すと、バッ! とアレスくんは後方に飛びのいた。そこまで警戒せんでも……。まぁ、あと一秒逃げるのが遅れてたら、肩をガッチリと押さえて唇をいただくつもりだったけどな。


 しゃーない。チューは諦めて、ここはミシェパの言葉を伝えてやるとするか。


「……ありがとうだって」


「えっ?」


「ミシェパが、自分のことを信じてくれてありがとうって。そう言ってる」


「……」


 再びアレスくんの瞳が、ジッとアタシを見据える。


 しばらくすると、アレスくんはトコトコトコと自分の方からアタシの方へ近づいてきた。そして胡坐をくんで座っているアタシのうえに、チョコンと腰を下ろすと、アタシの両方の腕をつかんで、マフラーのように首に巻き付ける。


 くっそカワイ過ぎて思い切りワシャワシャしたかったけど、そういうことじゃないんだろうと思ったアタシは、黙ってアレスくんのしたいようにさせていた。


「ありがとミシェパ……ずっとぼくの傍にいてくれて」


 小さなその声をアタシはちゃんと聞き取れなかった。


 けどミシェパには伝わったみたいだ。


 彼女の目から滝のように流出す涙を見ればわかるよ。




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