第54話

今まで一人で抱え込んできたものは平然と決壊する。


カウンセリングを受けられるものと受けられないものとの差はとても大きい。

それ補うために恋をしたというわけではないが幹はある意味穴埋めとしては機能していた。


でも今回のように国王が明らかに意図的に成長させるために設けた場ということを騎士が察知させてしまったのがいけなかった。


「…今は……まだ………良い………。

 …………でも…いつか…いつか…居なくなる……。

 …それが……いつになるか……わからない………。

 ……あなたの父親は……国王……毒殺…暗殺……戦争で討ち死に………いっぱいある……。」


王は常に命を狙われる。

そのことは貴族、王族であるのなら誰もが理解しなくてはならないことだ。


「……今…学べる……こと……本気で……学べ……教えられている……うちに……。」


当然、当たり前、やってて普通。

必死な学習をしたことがあるか。


極端な話もし明日世界で学べる人物が居なくなったら。

命がけの研究をしなければならないかもしれない。


「はい。

 正道のご教授感謝いたします。」

「……。」


王女リザベル・マリア・ボジタットはただ顔を俯き沈黙を保っていた。

幹たちが旅立った時に元盗賊は口を開いた。


「俺たちみたいな辺境の村の出身はいつだって命がけなんだ。」

「命がけですか?」

「騎士様も辺境都市ぐらいにまでは来るだろうけどよ山のど真ん中にある村はほとんど外界との接続を断ったところにあるんだ。

 俺は盗賊になる前の村に来る前はそんな山村に住んでいたからなあの牛の嬢ちゃんの気持ちはわからんでもない。

 あそこではな病にかかればまず治るか治らないかは患ったやつの気力次第。

 それに運が悪ければ山村丸ごと全滅しかねないから完全隔離してやるからな。

 子供のときに風にかかれば泣きわめくことばっかりだ。

 親だってすぐに死ぬ。

 何にも伝えられることなく死ぬことが大半だ。」


だから命がけと言えるのだ。

全ては命を賭けて行われる生存競争を生き抜く姿は野生と何ら変わりない。


「…っ。」

「姫さんたちも分かったようで何よりだ。

 冬になる前に俺の山村跡地に向かう休暇をもらえると嬉しいぜ。」

「許可します。」


憂うことなく休日を勝ち取った元盗賊。

平民の騎士に就任されたとはいえ故郷に帰れるのは努めて2、3年に一回だけ。

でも突然の就任に今まで帰るに帰れなかった故郷を訪れることさえできなかった。


「久しぶりの故郷に行けるのは嬉しいな。」

「男性の方はどうだったんでしょうか。」

「あれは前にも言ったが心の闇を抱えているな。

 親にも見放されたのかもしれないな。」


誰にだって知られたくない。

知ってほしくない事実はどこにでも転がっている。


◇◇◇◇


「ひっぐ、ひっぐ、うえ~ん。

 ひっぐ、ひっぐ、ひっぐ。」

「よしよしヾ(・ω・`)

 良い子良い子。」


決壊した涙腺も感情も中々に修復するのは難しい。

だから慰めることで逆に器を完全に空にする方向で進めた。


ミウスさんは泣きじゃくる子どもだ。


「Τα νύχια μου πονάνε.(爪が痛いよう。)」

「ちょっと見せて。」


牛の爪は本来歩いていれば自然と削れるのだがミウスさんは今は二足歩行をしていて靴も履いているので変な方向に爪が伸びてしまったようだ。

人間の形態なのにギネスブックに載っている人並みの爪に成長している。


「ちょっと削るしかないね。」


完全な巻き爪になっているし爪が肉に食い込んでいて痛々しい。

即刻この巻き爪を何とかするために爪切りなどで対処したほうがよさそうだった。


「爪切りは無いからとりあえずナイフで削るけどそれでいい?」

「……うん……………。」

「蹄彫りするのなんて初めてだし痛くても文句言わないでよ。」


彼女の手を掴みサバイバルナイフで爪を削っていく。


「ううん……気持ちいい……。」


極楽浄土にでもいるような脱力しきった笑みを浮かべていた。

無防備な彼女を狙ってかモンスターたちが集まりだしていた。


「面倒なのがいっぱい来てるんだけどミウスさんは何とかできる?」

「Zzzzzzzzz.....」


かなり寄せかかるようにして爪を切っていたのでミウスさんは自分に身体を預けて眠ってしまっていた。


「寝ちゃったか。

 まだ爪を削り切っていないんだけどね。」


安らかな眠りをしている彼女を起こすのも悪いと思っている。

多少盲目になり過ぎているがそれなりに共感できる境遇と彼女の生き方がどことなく信頼をさせる。


「あんまり買いたくないけど何か使うか。」


久々にショップスキルを開いた気がした。


「あれ?金額がおかしいな。」


桁が既に京を越していた。


「そのことだが俺たちの練度が上がったらしい。

 一千万くらいまでなら瞬時に換金できるようになっているからもう金の心配はしなくていいっぽいぞ。」


並列思考の俺たちが答えていた。


「そんだけあれば並列思考買い放題じゃね。」

「おうだから既に百万人くらいは作ってあるぜ。」


もうすでに世界経済動かせるどころじゃないくらいの巨万の富を得たけどイマイチ使い道が思い浮かばない。


「まあいいやとりあえず銃があればそれを買いたいかな。」

「魔力とかはやめておいた方が良いな。」

「俺たちのキャパを超える。」


並列思考そんなにいて何言ってるのと思うかもしれないが未知の感覚を付与するのは非常にリスクを背負うと思えるからやらない。

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