第42話

「ふむ、帰ってきたか。この気配は葛西の女狐か。久しいとは思わぬか天狗よ。」


『おぬしの考えておることは解らん。せっかくの刀赤の器を台無しにする計画を企てたかと思えば神の入った器を育てるのだから。」


「神に魅入られてしまったのは失敗だった。

 だから仕方なく神を入れるほかならなかったのだ。

 我ら刀赤の血筋は神のを封ずる器には成りえるが神の好む器にならぬ筈であった。

 いつまでも神問一族礎になる機はせぬ。」


『しかし神をも封ずる器なぞ中々に生まれる者ではないぞ。

 おぬしの孫は神に匹敵するモノを複数体封印する器として最適という形で魅入られたのだ。

 おぬしの憎む神がそれを認めたのだから良いのではないか?」


「違う。刀赤の器は神から嫌われることで封印を可能とする器を形成している。

 神に魅入られては本末転倒ものよ。」


『私も神の先兵としていたが確かに最初はとても息苦しい場所だったなお前の中は。』


「ふん、丸くなったと思うならそう思っておれ今からここは戦場になるのでな。」


『戦場?いくらあのばあさんと仲が悪いとは言えそんなことには……。』


やっと天狗は気が付いた。


「お久しぶりですね。狸爺い!」

「腐れ婆はとっとと死んでおけばいいものを。老害は技術の伝承を施せば後は枯れゆく美学を知らんのがな。」

「ほう、あなたの息子に技術の伝承をせずしてよく言えたものです。」

「技術の伝承は皆模倣に始まり模倣を超えた創作に終わる。

 貴様こそ模倣しかさせていないのではないか。

 私は数人の弟子を取ったがどれもみな自分なりの答えを見つけることができていたが貴様の孫はどうだ。

 所詮模倣を強制されただけの劣化品に過ぎぬ。」

「ならばうちの孫とあなたの孫どちらが強いか今一度勝負いたしましょう!」


「無理ですクソババア!私はこの人居なかったら死んでたぐらいの窮地に立たされたんです。勝てるわけねえだろバーカ!」


「たっく口ばっかり悪くなって。」


「クソババアが刀赤さん、もとい幹さんに勝てるなら私も戦いましょう。」


「ち、しょうがない。幹さん一手手合わせ願おうか。」


某銀色の向上心の一切ない主人公とその仲間とかつての盟友的ライバルの部下から言われる桜と名の付く映画の最後らへんのワンシーンみたいなセリフを吐いて結局最後の最後でかっこつけて死ぬキャラ的なセリフを吐いて死合い開始のゴングを鳴らしました!


「クソ小娘!内容が具体的すぎるんだよ!」

「いきなりですね。」


詩さんが言う前には既にどこからか出した薙刀を用いて攻撃してくるクソババアさん。


「本音漏れてんぞ。刀赤の孫!」

「良いぞ!幹さんそのままおばあちゃん事相打ちにするんだ。」


どっちも死ねって意味にしか聞こえません。

性格が致命的に歪んでいるのかそれとも祖母である漱歌にとてつもないトラウマを植え付けられているのか。

しかし、それでも相打ちにはできるという信頼があるのか応援しているようにも見えた。


「余所見されるとは年を取りたくないもんだね。」

「見る必要が無いのでね。」

「小生意気な小僧だよ。」


蹴りが風を切る。

五覚で感じ取ったのは斥力。

恐らく結界を纏って空気抵抗を少なくしていると思われる。

難なく対処は出来るが如何せん気迫が凄い。


この人もこの人で戦闘になるととてもハイになるのかじいちゃんとは似て非なる力の使い方をしているのがよくわかる。

ミウスさんの猪突猛進とはまた違う。

彼女は彼女なりの冷静さを持っているが今目の前にいる老婆は明らかに自我を壊すことで力を発揮するタイプだ。


「結界が無ければ既に自殺を何回繰り返しているんでしょうかね。」

「ふん、刀赤らしい発言だね。」

「いえいえ、自分もやりますからじいちゃんにはまだまだ遠く及びませんよ。」


時偶流の技には自信と同じ境遇に近しいものが編み出した技があった。


「【己牢】と呼ぶらしいんですけどこの技だけは最初から使えていたような気がするんですよね。」

「アンタも大概だね。刀赤の小僧。」


漱歌は感じ取った自分以上の自我を崩壊させなければたどり着けない境地を。

普段温厚な人間が怒りのリミッターを外れっぱなしにしたらどうなるか。

到底人間とは思えない身体行動時間を実現するだろう。

脳のリミッターは存在するかどうかの証明は出来ていない。

しかし脳内麻薬の生産は疲れを忘れさせることはほぼほぼ証明できている。


「脳が酸素不足の苦痛すらも忘れて行動し続けるロボットのようになる殺人人形になるなんてことは私だってしたくはないさね。」


同種の技を使うものとして自我を崩壊させ続けた先にあるのは破滅しかないのは従順承知している。

孫の詩にもそのように教え自身もある程度の制限を設けている。

目の前の人物はその制限(ブレーキ)などクソくらえとでも言うかのように疾走(アクセル)を思いっきり踏み込んでいった。


「ahahahaha!」

「怖いですねえお嬢様。」

「刀赤さん。」


半狂乱になった刀赤 幹を見て彼女は静かに自身の人生と照らし合わせていた。


「背中がとても力強くうねっているように見えます。」

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