配信中ですよお姉さん

「まさか俺がここに座る日が来ようとは……」

「ふふ、いい感じよたか君」


 真白さんにメインで配信をしてみないかと言われ、その提案に頷いた日の夜だ。夕飯を済ませて俺たちは配信部屋に向かい、いつも真白さんが座っているはずの椅子に座らせてもらっていた。顔が映らないようにカメラの位置を調節し、念のためにマスクも付けての配信になる。


「角度はこんな感じかしらね……どうかしら」

「いいですよその位置で……よし!」


 とはいえ、今は学生ということもあって顔は隠すことになるのだが、卒業してからは真白さんとも話をして俺も顔を出すつもりではいる。もちろん視聴者のみんなの反応を見ながらになるが、順調に行けば真白さんと同じように俺もその土俵に立つことになるというわけである。


「……ふぅ」


 初めてのメインでの配信、ゲーム配信などではなくただの雑談だがプレッシャーもそうだし緊張感がとにかくヤバい。大きく深呼吸をしたことで傍で見守ってくれている真白さんにも俺の緊張は伝わったのだろう。


「たか君」

「はい……むぎゅ!?」


 名前を呼ばれそちらに顔を向けた時、俺の顔を包んだのはとんでもなく柔らかいものだった。俺の顔をその大きな胸で包んだ真白さん、頭を撫でるように抱きしめてくる彼女の温もりに心が落ち着いてくる。


「お姉さんが傍で見守っているわ。だから大丈夫、SNSの反応を見る限りみんな楽しみにしているわよ」

「……そうですか」


 ホッとため息が出た。

 ……とはいえある程度落ち着きはしても緊張は解けないな。なので俺は真白さんにこんな提案をしてみた。


「真白さん、もう少し傍に居てくれませんか?」


 時々真白さんが俺にする提案、それを今度は俺からしてみたのだ。真白さんは何やら鼻を抑えたものの、すぐに落ち着いて表情を戻し俺の提案に嬉しそうに頷いてくれた。


「もちろんよ! 頑張りましょうたか君!」

「……やっぱりその笑顔なんだよなぁ」

「??」


 首を傾げる真白さんに俺は言葉を続けた。


「その笑顔にいつも力をもらっています。あなたが傍に居るから俺は……って改めて言うと恥ずかしいですねこれ」

「……たか君!!」


 ガバっと再び抱き着かれた。

 絶対に離さない、離してやるものか、そんな強い意志を感じさせる抱擁の末に真白さんはこんなことを言いだした。


「たか君、配信をやめてお姉さんとくんずほぐれつイチャイチャしない?」

「落ち着きましょう真白さん」

「……く~ん♪」


 完全にスイッチが入りかけた真白さんを落ち着かせるように、俺は頭を撫でたり顎の下を撫でた。まるで動物にするそれだが、真白さんは犬のような鳴き声を上げてもっとしてと甘えてくる。

 取り敢えず、告知していた時間まで俺は真白さんとそんなことをしながら時間を潰していた。そして、ついにその時がやってきた。


「サブチャンネルなのに結構人が居るんですね……」

「まあ告知したからねぇ」


 待機している人は二千人くらい居た。真白さんがやる時みたいに何万人って人がいるわけではないが、それでも俺からしたら普通に多いなと思う。


「これを機にたか君自身のチャンネルを作ってみるのもいいんじゃない?」

「……それはもう少し考えてみます」


 取り敢えず、今回の生配信はサブチャンネルで行うことになっている。最初は真白さんのメインでどうか、みたいな提案はされていたけど流石に断った。メインはあくまで真白さんが主役、だから俺がメインで出るのは少し違うと思ったからだ。

 刻々と近づく時間、すぐ傍で見守ってくれている真白さんを感じながら……俺は配信開始のボタンを押すのだった。


「ど、どうもこんばんは~」


:きたああああああああ!!

:たか君こんばんは!

:たか君メインと聞いて

:10000¥ 待ってた

:こんばんは!

:いつも返事を返してくれてありがとう!

:変な人から絡まれてない?


 何か一つくらい……いや、コメントの流れを全て目で追うことは出来ていないので心無い言葉もいくつかはあったかもしれない。けれど俺が見た限りどれもこれも温かい言葉で溢れていた。


「……あったけえなぁ」


 なんて、心から素直な言葉が漏れて出た。

 隣でクスッと笑った真白さんに目を向けると、だから大丈夫だって言ったでしょと暗に伝わってくるかのようだった。


:あったけえよみんなおじさん嬉しい

:誰やねんお前

:たか君意外とおじさんに人気あるよね

:10000¥ やっとたか君に投げれるんだね!

:まさかあの時の頑張るぞ発言おじさん!?

:本当にやりやがったのか……


「あ~、ありがとうございます! 隣で真白さんが微笑ましそうに笑っているのが恥ずかしいですけど……うん、凄く嬉しいです」

「あ、言っちゃうのそれ」


:マシロも居るのか!

:そりゃ居るやろ

:見守られてるんだなぁ……

:羨ましい、末永く幸せになりやがれ

:たか君~! お母さん凄く嬉しいわよ~!

:おじさんの次はお母さんが現れたぞ

:草


「……げっ!?」

「??」


 何かコメント欄を見て真白さんが変な声を上げた。俺としてはそれが気になったが取り敢えず話を続けることに。


「今日は俺がメインなんですけど、やっぱり最初ということで不安もあって真白さんに傍に居てもらっているんです」


 そう言うと真白さんが手だけ映るようにした。そして少しだけニヤッと笑いながらこんなことを口にするのだった。


「始まる前凄く緊張してたのよたか君。それでお姉さんが抱きしめてあげたの。おっぱいでむぎゅってする感じで、それで落ち着いてくれたのよ♪ まあでも、その後に凄く嬉しくなること言われちゃってね。配信やめてお姉さんとイチャイチャしましょうって言ったら、真顔で落ち着いてと諭されて犬にされちゃった」


 犬にされちゃったって何ですか……。犬のくだりは置いておくとして、抱きしめられたことまで言われてしまい、きっと今の俺は顔が真っ赤になっていることだろう。幸いに視聴者の人にそれが伝わらないのがせめてもの救いかもしれない。


:おっぱいでむぎゅだと!?

:おのれマシロ! 俺のたか君になんてことを!

:だから誰なんだお前は!!

:というか情報過多だろ犬ってなに!?

:そりゃお前……犬にされちゃったんだろ!

:これはガチ恋勢発狂案件

:気にするなもっとやれ

:恋人はこれくらいイチャイチャするもんやろ

:お前恋人いるのか?

:……いねえよ

:あ

:あ

:ごめん


 コメント欄がカオスになってしまったがシーンとするよりはマシだろう。それから俺は真白さんが傍に居る安心感を感じながら、視聴者のみんなと言葉を交わして時間を潰していく。気づけば一時間ほど経過しており、夢中になって喋っていた気がして恥ずかしい。


「なんか夢中で喋ってましたね俺」


:ええんやで

:コメント拾ってくれてありがと

:ちなみにたか君がやってるゲームのやつ、天井っていくらなん?

:今は二体ピックアップ来てるから一体で四万くらいか?

:確かそんくらいだわ

:40000¥ これで

:40000¥ 確実やな!

:20000¥ 少ないけどどうぞ


「ありがとうございます本当にご無理はなさらずに!!」


 ちなみに、以前に俺が高額の投げ銭であたふたしていたのは真白さんの口から語られていた。なのでコメント欄ではナイスと言われる一方、あまり困らせてあげるなというコメントも多かった。


「……あの、しっかり貯金させていただきます」


:貯金かい!

:マシロとの生活の足しにしてもろて

:いいもんいっぱい食べるんやぞ

:しっかり寝ることも忘れずにな

:マシロとあっちの方も体力いるだろうし

:セクハラはNG

:すまんつい出来心で


「……はは」


 一先ず、初っ端では大成功と言っても良いのかもしれない。これから時々にはなるけど俺も配信をするかもしれない、そう伝えると待ってると言ってくれた人が居ることに本当に感謝の念しかない。


:ちなみに、マシロとは普段どういう風にイチャイチャしてるの?


「うぇ!?」


 その質問に俺は変な声が出てしまった。すると待ってましたと言わんばかりに立ち上がったのは真白さんだ。突撃~と可愛らしく声を上げて抱き着いてきた。当然顔は映ってないが、俺の胸元でむにゅりと潰れる真白さんの大きな胸はバッチリと配信に映り込んでいる。


「こんな風に私たちは日々イチャイチャしてるのだ!」

「ま、真白さんキスは流石に……むぅ!?」


 お、おちつけえええええええ真白さん!!

 今日の配信……大成功でいいんだよね? うん、いいってことにしておこう。

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