逮捕してくるお姉さん
「どうもこんにちは」
「? こんにちは」
いつも通りの学校帰り、俺は突然おっさんに声を掛けられた。髪の毛が薄く頭が寂しそうで、お腹がでっぷりと出たおっさんである。当然のことながらこのような人の知り合いはおらず、話しかけられる理由にも見当は付かなかった。
「すまない、怪しいものではないんだ」
そうだね、怪しい人はみんなそう言うもんだ。けれど本当に全く怪しいとかではなくて何か困りごとがあるのかもしれない、道に迷ったとかね……そう思って俺はおっさんから続く言葉を待った。
「ちょっととある知り合いを探していてね。この辺りに“更科”という女性が居ると聞いたのだが知らないかな?」
「更科さんですか、聞いたことないですね」
「……おかしいな」
よく顔に出さなかったと自分を褒めてやりたい。
更科というのは林檎さんの名字になるわけだが……果たしてこの人はどっち側になるのだろう。林檎さんにとっての良い人か悪い人か、その判断が出来なかったので俺は直感で全く知らない風を装った。
「そうだおっ……おじさん、名刺とか持ってます? もしその更科さんっぽい人を見かけたら連絡しますけど」
ある意味賭けみたいな提案だが、おっさんは本当かいと言って何も疑うことなく懐から名刺を取り出した。
「岩崎さん……ですね。ありがとうございます」
「いいやこちらこそ助かるよ。何か分かればすぐに連絡をしてほしい。その時は何かお礼をさせてもらうからね」
そう言って岩崎さんは背を向けて歩いて行った。
受け取った名刺を見ると……聞いたことのない会社なのは当然だ。後はこれを林檎さんに見せてあげるとするか。
……マンションに帰る道の中で、ないとは思ったがもしかしてを考えて周りに細心の注意を払いながら帰路を歩く。岩崎さんみたいな人影は一切見えず、人が居たとしても近所の顔馴染みのおじさんおばさんだった。
「ただいま帰りました……っ!?」
玄関を開けて中に入った俺、そんな俺を驚愕させる存在が目の前に居た。
「真白さん帰ってきましたよ!」
「帰って来たわねたか君、あなたを逮捕するわ!」
帰った俺を出迎えたのは真白さんと林檎さん、ただし二人の装いは私服ではなかったのだ。その眩しい脚をこれでもかと見せつけるミニスカート、きっちりとした制服を着ているかと思いきや二人とも胸元のボタンを外しておりその豊かな谷間が丸見えだった。
「ミニスカポリスだと……!?」
服に関しては真白さんのコスプレコレクションの一つだろうが、それをまさか林檎さんまで着ているとは予想外だった。俺を逮捕する、そう言った真白さんは俺の方まで駆け寄ってきて抱き着いて来た。正直いつもと全く同じだけど、こうやって俺に抱き着いたことが逮捕ということらしい。
でも一つ言わせてくれ……こんなエッチな警察は居ないでしょうよ。
「流石にエッチすぎません? いや今更なんですけど」
「うふふ~♪ そう見えるようにしたものね」
「まさか私まで着せられるとは思わなったけどね~」
ご満悦の様子で俺に抱き着く真白さんの向こうで、口ではそう言ったが満更でもなさそうに笑っている林檎さんに俺は苦笑する。
「ほらほら隆久君、私の体はどうかしら~?」
林檎さんは挑発するように前傾姿勢になりながら胸元を強調させた。実を言えばドキドキはするものの、極端なものではないことが不思議だった。おそらくだけど既にこういうことに対して耐性が付いているのだと思われる……ずっと傍に真白さんが居たらそりゃそうなるよって話だ。
「エッチですね」
「……なんか淡白ね」
そんなつもりはなかったが林檎さんにはそう見られたらしい。
「たか君が興奮するのは私だけなのよ! 残念だったわね林檎ちゃん!」
ででんと効果音が聞こえるかのように胸を張ってドヤ顔をした真白さん、そんな彼女の姿に俺と林檎さんは揃って微笑ましいものを見るように苦笑するのだった。
さて、場が和んでいるところ申し訳ないが俺は聞きたいことがあったので林檎さんに改めて視線を向ける。
「林檎さん」
「なに?」
「さっき岩崎さんという人に会ったんですけど……」
「っ!?」
岩崎、その名前を聞いてビックリしたように林檎さんは目を見開いた。首を傾げる真白さんも連れて俺たちはリビングに向かい、先ほどあったことを林檎さんに伝えるのだった。
「そう……ごめんね隆久君。気を遣わせちゃって」
「いえいえ、でもその様子だとやっぱり?」
「そうよ。前の会社で私にセクハラした親父……ちっ、めんどくさいなぁ本当に」
つまりここまで追っかけてきたってことか? それってストーカーでは……でも俺としては林檎さんのことは確かに心配だ。けれどそれ以上に、もしそんな人が真白さんを見て何かあったらと思うと気が気でない。
「大丈夫よ」
「真白さん……」
別に真白さんを見たわけではない、それでも俺の不安を感じ取られたらしい。俺の手を握って安心させてくれる真白さんに感謝していると、林檎さんもそんな俺たちを見つめて楽しそうに笑みを浮かべていた。
取り敢えず何か問題事が起きる前に何かした方がいいか、そう思っていたが林檎さんスマホを取り出した。
「もし前の会社絡みで何かあったらパパに言いなさいって言われてるのよね」
「?」
「林檎ちゃんのお父さん、警察官で結構お偉いさんみたいなのよ」
「……なるほど」
それなら安心……なのか?
女性のストーカー問題であまり警察が動いてくれないみたいなのを事件で見ることがあるけれど、それくらいの立場の人が身内に居るのなら大丈夫そうか。まあでもだからといって気を抜くことはせず、本格的に解決するまでは俺自身気を付けていた方が良さそうだ。
「……もしもし、パパ? 実は――」
電話の為に立ち上がった林檎さんを見つめながら真白さんが口を開く。
「何か被害が出たわけじゃないけどストーカーって怖いわね」
実際に当事者ではないが、確かに怖いし気持ち悪いと思う。真白さんとしてもネットの世界では有名人だし、彼女をモノにしたいと考える人がそこそこ居ることはSNSなどを見ていれば誰でも分かることだ。有名人だからこそ付き纏う何かがある、それを大きく実感した出来事だった今回のことは。
「たか君の目から感じる優しさと思いやり……凄く嬉しいわね」
「当然のことを思っただけですよ」
「それでもよ。好きよたか君」
チュっと頬にキスをされた。
それから電話が終わった林檎さんが戻ってきた。
「後はお父さんに任せなさいって言ってたけど……どうなるのかな」
「結構親馬鹿なのよね確か」
「そうですねぇ。忙しいはずなのにママと私のために可能な限り時間を作ってくれるような人ですよ」
そう言った林檎さんはとても嬉しそうで、ポッと頬を赤く染めていた。その様子はまるで恋する乙女のようで……俺と真白さんはそっと顔を見合わせた。
「真白さん、これはもしかして……」
「もしかするともしかするのかしら?」
俺はともかく、真白さん目がキラキラしすぎじゃないですか? 俺たちの様子に何を話していたのか察したらしい林檎さんは違いますと手を振った。
「流石に父親にそこまでの感情はないかな。ただ、こんな人と結ばれたいっていう願いはあるって感じ。家族との時間を大切にする優しさもそうだし、心と体の強さも尊敬してるの。こう言うと強面のパパは顔を真っ赤にして照れるんだけどそこもまた可愛くて!」
それからしばらく、俺たちは林檎さんの家族についての話を聞くのだった。
林檎さんが部屋に戻り、改めて二人の時間が戻ってきた時のことだ。相変わらずエッチなミニスカポリスの姿をしている真白さんが傍に居る。何かを思い付いたのか真白さんはポンと手を叩き、俺の腕を抱きながら空いた手でスマホを手に取った。
カシャっと音を立てて写真が撮られ、それを真白さんはSNSに投稿した。
「ふふ、今日も可愛い彼氏を捕まえて離しませんって感じね♪」
今の投稿に対し、凄まじい速度でハートとリプが送られてくる。自分も逮捕してほしいであったり、逆にエッチすぎて真白さんが逮捕されるなんてものが数多く届けられた。
「……そう言えば手錠もどこかにあったかしら」
「何するんですか?」
「え? たか君に私を逮捕してもらおうと思って♪」
えっと……まだそういうプレイは早いのではないかと愚考します! などと言いながら時間は経過し、少し汚れてしまった服を洗うために立ち上がった真白さんにこんなことを言われた。
「そう言えばたか君、前に言ったたか君が中心で配信してみるってやつだけど」
「あぁはい」
「雑談みたいな感じで早速やってみる?」
それは……でも、これもまず一つの挑戦というやつか。
俺は真白さんの問いかけに頷いてみるのだった。
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