一緒に配信するお姉さん

 過去に真白さんと出会っていた。

 それを知ったからと言っても、今更何かが変わるわけでもない。覚えていなかった俺自身が彼女と共に紡いだ時間、それは嘘ではないからだ。


「ねえたか君」

「何ですか?」


 公園から家までの帰り道、ふと真白さんに呼ばれたので視線を向ける。彼女は空に浮かぶ綺麗な星々を見上げながらこんなことを口にした。


「この道の先は私とたか君の家に続いている。もちろん距離は離れているし、歩いてすぐに着くほど近いわけでもない。でももしかしたら……私たちは同い年で、一緒に登下校していた世界もあったのかもね」


 確かに、そんな世界もあったのかもしれない。

 同い年の真白さんというのがあまりイメージ出来ないけど、今みたいにお姉さんみたいな彼女ではなく、同い年だからこそ遠慮なく甘えてくるそんな姿も見れたのかもしれないな。


「まあでも、俺は今の真白さんしか知りません。だから今の真白さんが好きです。お姉さんみたいに頼れる人、甘えさせてくれる人、そして甘えてくれる真白さんが」

「……ふふ、もうこの子ったら」


 嬉しそうに、照れくさそうに真白さんは笑った。

 そうして俺たちは深夜ということもあって寄り道なんてことはもちろんせず、そのまま真っ直ぐに帰って来た。玄関の開ける音や廊下を歩く音に父さんたちが目を覚まさないか不安だったが大丈夫だったらしい。


「ちょっと眠気が飛んじゃったわね。当然だけど」

「そうですね……」


 いくら寝ていたからといっても、あんな風に外に出て話をすれば眠気なんて吹き飛んでしまう。真白さんの場合は酒も入っていて眠気は残っていると思ったんだけどそうでもないらしい。


「お姉さんあんなに酒飲んだのに、みたいな顔をしているわよたか君」

「いやまあ……本当に眠くないですか?」

「うん」


 本当に大丈夫そうだな。

 それならと部屋を見渡してみるが、据え置きのゲームや漫画などはほとんどここには残っていない。あるとしたら積み上がった少年誌くらいだけど、随分昔のものだし今更読んでもなって気がしている。

 色々と考え、俺はあっと閃いたものがあった。


「真白さん、配信しませんか?」

「配信?」


 目をパチクリとさせる真白さん。

 当たり前のことだがこの部屋にはパソコンはないし、そもそも配信用の機材すら揃ってはいない。ならどうやって配信をするかだが、最近はスマホだけでも配信が出来るアプリもたくさん出ている。だから今日はこれを使うことにしよう。


「イージーライブってアプリがあるんですよ」

「へぇ……あぁでもSNSでちょっと見たことあるかな」


 配信ってなると基本的にはパソコンを使うことが多いだろうけど、機材を用意しなくてもスマホやタブレット単体で配信は行うことが出来るのだ。

 もちろんパソコンで行う配信のように高画質には出来ないが、簡単に配信が出来るという点では便利なものだ。


「そんなのがあるのねぇ」

「真白さんたちがしているものとは圧倒的に規模は小さいですけど、このアプリでも収益化出来てる人はいるみたいですね」

「ふ~ん」


 ま、そんな人たちは限りなく少ないみたいだが。

 さて、俺がどうしてこのアプリをスマホに入れているかだけど、別にこれで配信をしようとか思ったわけではない。単純に何か面白い人が居ないか、或いは時間を潰す時に簡単に見たいと思ったからだ。


「やっぱりスマホの画面をそのまま映すので画質は悪いし音も悪いですけど、まあちょっと暇つぶしみたいなものです。どうですか?」

「いいわね。たか君と一緒に配信かぁ……まさか今日その夢が叶うなんて♪」

「見る専門なので俺のフォロワーは……なんで十人くらい居るんだ? まあそれはともかく、人は誰も来ない可能性もありますけどね」


 こんな深夜帯でも配信している人はそこそこ居るのもあるが、全く配信をしてないからこそ繋がりがない。だから誰も来ないってことも考えられる。けれど俺も真白さんもどうやら今だけは暇つぶし程度、静かに出来れば良いというのが共通認識だ。


「ガードナーチャンピオンのモバイルでもやりますか」

「全然触ってないわ私」


 ちなみに、このガードナーチャンピオンというのは真白さんが得意なFPSゲームでよく配信もしているやつだ。今日はそのモバイル版をやってみることにしよう。

 スマホで配信を始める準備として、とりあえず通知が出ないように設定してからゲームを起動した。そして配信の方もアプリで設定し、真白さんと頷き合って配信を開始するのだった。


「こんな感じなのね……あ、私の端末でも見てみようっと」


 このアプリは登録してなくても見れるから便利だ。なので配信をした俺の横で真白さんが自分の端末で覗いてくれたのだが……まあ画面はやっぱり荒れていた。見れないレベルではないが、動画サイトの画質設定における一番下から二番目程度の画質と言えば分かりやすいかな。


「まあこの通り人は来ないですね分かっていましたけど」

「でもいいわねこれ……私も一番最初の配信を思い出すわ」


 あぁそうか。真白さんは今ではこんなに有名だけど、やっぱり一番最初は無名だから人も集まらなかったんだろうな。


「適当にやっていきましょうか。誰か入ってきたら分かるので」

「うん。お姉さんは隣で彼の華麗な操作を眺めているわね♪」

「やり込んでないのでそこまで上手くないですよ」


 暇つぶしでやっていた程度だからな。

 それから俺は真白さんが眺める横でゲームをプレイしていた。誰も視聴者は入ってこないので真白さんとおしゃべりをしながらである。正直実況しながらゲームをやるより、こうして真白さんと話をしながらゲームをする方が楽しい。


「ねえねえたか君、たか君は呼び方これでいいの?」

「別にいいんじゃないですか?」

「そっか。私は……」

「……姉さんとか?」

「姉さん……姉さん……うん、いいわね!」


 はい、この配信のみ姉さんと呼ぶことになりました。

 たか君、姉さん、なんて二人で呼び合いながらゲームをプレイしていく。途中から配信していることを忘れるくらい話し込む俺たちだったが、そこでまさかの視聴者が一人入って来た。


:こんばんは!


「あ、こんばんは」

「こんばんは~♪」


 真白さん、今の声マシロまんまだったけど……まあ流石にこの配信に有名配信者が居るなんて思われるわけないか。


:お二人はカップルなんですか?


「そうですよ~。ラブラブのカップルです♪」

「あはは……」


 俺の持つスマホの画面にコメントで映るからこそ真白さんのレスポンスの速さだ。

 カップルなのか、そのコメントに嬉しそうに返した真白さんは肩をくっ付けるように近づく。少し暑かったので冷房を付けたが……果たしてこの暑さは夏だからなのかそれとも。


「よし、ノックアウト」

「上手ねたか君」

「まあ相手は同じランクですからね」


:ないすぅ


 俺と真白さん、そして一人の視聴者さんだけの時間が進んでいく。ゲームをプレイする俺もそうだが、真白さんの方がどっちかと言えばコメントを拾い会話をしているようなものだ。割と心配になるレベルでマシロそのものの声だけど……視聴者の人が何も言ってこないということはそもそも知らない可能性もあるのか。

 なんて、油断していた時だった。


:女性の方、声が配信者のマシロにそっくりですね


「あら、そうですか?」


 真白さんは驚いたりするようなことはなく、面白そうに笑っていた。けれどもやっぱり本物とは思われていないようだった。

 それから数分ゲームをした段階、ちょうど相手に倒されたところで隣を見ると真白さんは目を閉じていた。


「ま、そうなるよな」


:どうしたの?


「姉さんが寝ちゃったんですよ。なので今日はこんなところですね」


:なるほど、お疲れ様!


「ありがとうございました」


 そう簡単に挨拶を済ませて配信を終わらせた。

 俺は真白さんをベッドに寝かせるために持ち上げようとしたのだが、まるで真白さんに押し倒されるようにして俺が使っていた布団の上に横になった。


「……すぅ……すぅ」

「やれやれだな……今日はこれで寝るとしよう」


 こうなった以上動かすのは至難の業だ。

 冷房のタイマーを入れて電気を消し、そのまま真白さんに引っ付かれる形で俺は目を閉じた。真白さんの放ついい香り、けれどもそれに混じる僅かな酒の臭いが気になってしまうが、まあそれは仕方ない。


「おやすみなさい……まーちゃん」


 なんて呼んでみるが当然真白さんは返事を返さない。何の夢を見ているのかは分からないが、なんとも幸せそうにしている真白さんの顔を見て俺も目を閉じる。そうしてすぐに眠気が襲ってきた。


 配信というものが俺個人としてはしたことはなかった。でもやっぱり……あんな形であっても、真白さんと配信をするのは楽しいなって俺は確かに思ったのだ。

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