戦記物として傑作
- ★★★ Excellent!!!
(結構な長文になってしまったのですが, 本編の長さに比例する&まだこれで3作品目のレビューなので許してくださいの気持ちです)
内容に比して星が少ない, という感想を抱くのはこれが2作目なのですが, レビュー時点で100ちょっとというのはギャップが非常に大きくて驚きというのが素直な感想ですが, たぶんその理由はこのレビューを見に来た人はわかるんじゃないかと思います. もし私と同じ経路を踏んだ方ならこうなっているはずです:
1. なんかカクヨムからのおすすめに``今どき''じゃない感じのタイトルのやつがあるな
2. ~記みたいなやつっていい感じの長編だったりしがちだよな. 長編好きだし覗いてみようかな
3. へー毎日更新って書いてあるし, 実際最近更新されてるから未完だけど更新期待できるなら長めでも読んでもよさそう
4. まぁ長編ならすでに100話くらいはあるといいな, お, 150話超えてるのか, よさ......なんか桁おかしいな......1500話オーバ???
そう, このレビューの時点で1526話あるんですよ. しかもまだ毎日更新されてるっぽいんですよね. レビュー書いた時点では全部読んでいますが, 1ヵ月強かかっています. 大体長編の類って個人的には面白いと2日から1週間くらいで読んでしまうのですが, 初めて面白いからって集中して読んでもそんなすぐに終わるわけないっていう認識を持ちました. 文字数にしたら500万文字以上あるらしいですね. 10万文字程度で小説1冊とよく言われるので, 50冊ほどになるわけです.そら時間かかりますね()
レビューや星が少ないのは, たぶんあまりの長さに内容の質に疑いを持ってしまっているから, というのがあるのではないかと思います. 正直なところ, 読み始める前は私も思っていました. しかし, 実際のところは始まりから現時点の最新話まで, 特に質が落ちるようなところは全く見受けられなかったことを一読者として保証します. もし最初の一章を読んで読むに値すると思われる質であれば, 三十八章までその質は保証されるものと思って読み進めて問題ないかと思います. しかし, 1500話を超える物語の内容を測るのに, 最初の25話だけというのも無理があると考える方もいるでしょう. そういうのが払しょくされるとよいな, というのがこのレビューの目的です.
最初に, この作品を好きな人は多分「紅旭の虹」と「戦乱の帝国と、我が謀略 ~貴族の悩みと根回し合戦~」あたりも好きなんじゃないかと思います. まぁ全然色は違いますが, web小説として読める戦記物の枠として.
物語のクオリティとして, もしかすると誤字脱字や段落構成などの読みやすさが気になる方もいらっしゃるかもしれませんが, 第一章を見ていただければわかる通りそういうことを心配される必要はないかと思います. もしかすると応援コメントで私が誤字などを報告している姿が目につかれるかもしれませんが, 個人としては今までweb小説で誤字脱字をみつけても報告したことはなかったので, どちらかというと全体のクオリティが高すぎてしっかり読んでいたので, わずかなミスが目についてしまったという認識です. 内容が面白いので読み進めてしまって, 誤字を見かけた記憶はあるけどどこかわからなくなったケースも何回かあります......少なくとも内容より気になってしまうようなeditorial qualityの問題はないと思います.
他のレビューを見た方であると, これは古代ローマをベースにした物語なのか?という疑問を持たれる方が多いのではないかと思います. 残念ながら私はあまり歴史に詳しくないものでして, ふんわりとしかモチーフはわからないのですが, 例えば執政官, 元老院,重装歩兵や風呂といった古代ローマに詳しくない人でも古代ローマを想起させられるようなモチーフが随所に, 物語の骨子として入っているのは間違いがありません. 実際もっと詳しい人であればこれはそういうモチーフか?となるものはもっと多いかもしれません. しかし少なくともいえることは古代ローマをよく知らないとわけがわからないものは見受けられませんし, あくまで発想のもとでしかないものかと認識しています.
もう一つ読もうと思った時に気になることとして``ファンタジー''要素があるのではないかと思います. この作品で出てくる主なファンタジー要素は, ``オーラ''と``神託''という認識です. しかしそれらが戦記として特に戦場の描写において本当の意味で根幹になることはありません. 物語の舞台となるアレッシアの軍における誇りは盾と鎧であり, 高官においてもそうしたファンタジー要素が重要視されるわけではない, と述べればよいでしょうか.
もう少しそれらの設定について触れておくと, オーラには赤黒青白緑紫の6色がありますが, レビュー時点で隠された色が実はある, とかはありませんし, オーラを使った必殺技とかはありません. もちろんオーラを利用した戦い方というのはありますが, 最も印象的なオーラの使い方というのは, オーラが光ることを利用した軍団の指揮です. 戦記ですので個人の武勇としてオーラが重要な役割を果たすこともありますが, めちゃくちゃ剣術がうまいとかいうのと同じ程度の温度感の認識です. しかし同時にこのオーラが話の根幹に深くかかわっているのも真です. 特に主人公の一人である(という表現についての言及は後に置きます)エスピラはオーラが使えることもその色も周囲に隠しています. このことはアレッシアの高官でさえもオーラが必ずしも使えなくとも不思議ではないことの示唆(実際使えるのかわからない人物が多い)であると同時に, なぜそうしなければならないかという秘められた真実の物語でもありますので, ぜひご自身の目で確かめてください.
神託については, あくまで巫女が占って出てくるもので, 物理的に干渉する実在する神がいて, 言葉を述べるとかではありません. しかし神託は要所要所で現れては, 物語の行く末を暗示しています. この予言はどういう形で結実するのか, あるいは外れるのかということを読者に考えさせながら読ませてくれるいいフレーバになっているものと思います. アレッシアの神々の誰を信奉するのか, というのはエスピラ含め何人かの人物のありようにも影響していますが, 話として出てくるのは処女神, 運命の女神, 狩猟の女神程度で, すべての人物が強く影響を受けているというようなものでもありません.
さて, ちょっとしたネタバレになってしまっていますが, 上では『主人公の一人』という表現を使いましたが, これは群像劇という意味ではなく, 主人公の主観で話は進んでいきます. 上の言葉の意味としては, この物語はエスピラの物語ではなく, タイトルにあるようにウェラテヌスの物語である, ということと, 1500話以上あるという事実だけに言及するにとどめたいと思います.
嘘になる表現を避けたかったのでこうなってしまいましたが, 作中では外交のためにわざと誇張や嘘を入り交え, 地の文ではそれを自白しているのもこの作品の特徴だというのもついでに述べておきましょう.
この物語はウェラテヌスという家の物語と述べましたが, 序盤は家族といえるのは妹のカリヨ・ウェラテヌス, 妻のメルア・セルクラウス・ウェテリ, 義父のタイリー・セルクラウスくらいしかいません. これは物語開始前に家が没落してしまったからなのですが, ここからどうやって家を興隆していくのか, という余地が大きく残された形で始まります. 全体としては``家族''というものを常に意識させられる物語になっていていて, そのこともこの作品の大きな特徴かと思います.
さて, 最後に自分のメモの意味と物語の雰囲気を感じられるものとして, 個人的に気に入っている, この物語で要所で繰り返し出てくる言葉を3つ触れておきたいと思います.
「アレッシアに、栄光を!」 「祖国に、永遠の繁栄を!」
「気は長く、雌伏は吉。慎重は美徳。短気は勇敢では無い」
「指揮官とは、誰よりも情が深く冷淡であり、誰よりも自分に酔いながら自身の決断を疑い、誰よりも利を分配し己の利益に強欲でなくてはならない。」