Life3-11 みんなでおやすみ

 あの後、俺たちは開いている大木の家を一つ貸してもらい、そこで生活することになった。


 階層ごとの面積もそこそこあるのに、それが4つもあるので四人で暮らすには十分すぎる広さだ。


 中の家具もエルフらしいこだわりで全て木製。


 リュシカによると大木の切り抜いた中身で製作しているらしい。


 そんなツリーハウスの四階。寝室にあたる階に俺たち四人は集まっていた。


「いやぁ……まさかこんなことになるとは思いませんでしたね」


「あぁ、そうだな」


「【エルフの宝玉】……結婚式のためにも絶対に手に入れないと」


「あぁ、そうだな」


「しかし、条件が曖昧すぎる。偉人たちはもっと詳しく校正のために資料を残してもらいたいね」


「あぁ、そうだな」


「……ところで、ジンさん」


「あぁ、そうだな」 


「こっち、向いても良いんですよ?」


「絶対にしない……!!」


 さっきから心を無にして、俺は「あぁ、そうだな」と繰り返すだけの男になっていた。


 なぜなら、俺が背後では三人が寝間着に着替えているから。


 さっきから下着を身につける布きれ音がして、とても精神によろしくない。


 もう何度も共に夜を過ごした――健全に――が、いつまでたっても俺はドギマギしてしまう。


 おそらく童貞を卒業した大人の男ならば心に余裕が生まれるのだろう。


 残念ながら俺は童貞である。


 きっと卒業するまで一生こういうイベントには慣れないんだろうなという予感があった。


「どうして誰も浴場で寝間着を着てこないんだよ! おかしいだろ!」


「だって、私たちの使命は【エルフの宝樹】に純粋な愛を見せること」


「そのためにもジンさんにはいっぱいムラムラしてもらって欲望を貯めてもらわないといけませんからねっ」


「はい! この愛は欲望に穢れてると思います! 純粋じゃないです!」


「そうでしょうか? 一糸まとわぬ体と体の交わり……まさに純粋な愛だと思いませんか?」


 さすが変態ユウリ……! すぐにそっち方面に理論をつなげてくる……!


 むぅ~と抗議の声が聞こえてくるが無視だ、無視。


 ……ったく、ユウリは男の性欲を舐めている節があるんじゃないか。


 旅をしているときは本当の意味で心安まる瞬間が少なかったからそういう衝動に駆られたことはなかったが、最近はその反動なのか何でもかんでも反応しがちである。


 はやく元の感覚に戻ってほしい……。


「ジン、いいよ。髪乾かして」


「……あー、うん。【清風ウインド】」


「~~~」


 寝間着を着て、ひざの上に座ったレキの髪を風属性魔法を使って乾かしていく。


 彼女の寝間着は前後の生地をつなぐのが二本の肩紐だけというずいぶんと涼しげなタイプだ。


 ……ところで、俺とレキの座高の差は結構あるのをご存じだろうか。


 彼女をこうやって座らせたら頭のつむじが見えるくらいには離れていたりする。


 つまり、俺は真上から彼女の胸元なども丸見えなわけで……今みたいに適当に着ただけじゃダランと胸元に隙間が出来るんだよ、畜生!


【清風】を止めて、俺はレキの寝間着の肩紐をしっかりと引っ張って結び直す。


「ん? どうしたの、ジン?」


「医療行為」


 主に俺のための。


「ふーん。変なジン」


「……レキ、今度一緒に新しい寝間着を買いに行こう。俺が選んでもいいか?」


「……それってデートのお誘い?」


「そうだな、デートだ」


「やった~。行くっ!」


「なら、決まりだな。ほら、続きやるぞ~」


 よし、これで髪を乾かす際の視線の居所問題も解決しそうだ!


 レキがお風呂上がりに髪を乾かしたり、朝に髪を結ぶ時間を好きなのはわかっていたから、そこを削らずになんとかしたかったんだよなぁ。


「え~? レキちゃんだけズルくありませんか、ジンさん」


 後ろから首に腕を回して、しなだれかかってくるユウリ。


 暴力的な乳圧が俺の理性を襲うが、とっさに右足を左足のかかとで踏み抜いたおかげで平常を保つことが出来た。


 痛みで性欲は相殺できる。王城で一緒に暮らすようになってから身につけた知識である。


「ん? じゃあ、ユウリもいこうか」


「もちろんレキちゃんとは別ですよね?」


「ははっ、流石にそれくらいはわかるよ」


 ここでレキの買い物と一緒に! って言い出すのは鈍感を通り越していて、人の機敏に疎すぎると思う。


 前までならためらっていたが、これでもプロポーズをして何ヶ月も経った身。


 デートくらいならお安いご用だ。


「私は……今回は身を引こうかな。さっきの借りをここで消費させてもらう」


「ぶ~! ダメです~! 貸しを使うタイミングを使うのは私たちなので」


「……それもそうか。なら、ジン! 私も王都に帰ったらデートに行くぞ!」


「わかった。日程は王都に帰ってから追々決めるとしよう」


「だね。その王都に帰れるのもいつになるかわからないのが現状だからね……」


「だから、言っているじゃないですか。全裸で合体! これ以外にありません!」


「……一応、本当に最後の最後の最終候補としてそれも残しておく」


「本当ですか! やった~!」


「嬉しいのはわかったから指で作った円に指を突っ込むのをやめなさい!!」


「は~い」


 ボフンと音を立てて、ユウリはベッドに飛び込む。


 ちなみにここでもベッドは一つしかない。


 なぜなら、三人がエルフォンさんにそう要望したからだ。


 当然、俺も反対したが残念なことに三対一。絶対に勝てない運命にあった。


「……はい、できたよ、レキ。毛先までバッチリ」


「ありがと。……うん、スッキリ」


 固まることなくなびく綺麗な金色の髪。


 ひざの上にあったぬくもりがなくなると、今日も一日が終わったのだと実感する。


 とりあえず、明日から何をするのか考えよう。今日はいろいろとあって疲れた。


「ほら、ジン。はやくこっち」


「ちゃんといつものポジション開けていますよ~」


「ここのベッドも王都のものに劣らないふかふかだ。よく眠れると思うよ」


 眠れないんだよね。君たちに挟まれるから。


 と思いつつも、抵抗してもあそこに押し込められるのがわかっているので俺もベッドへとあがって真ん中に寝転がる。


 両腕をリュシカとユウリに抱きしめられ、レキが毛布と一緒に俺の上へと倒れ込んだ。


 うん……本当にいつも通りの夜の光景。


「ジンさん、おやすみなさい」


「……すぅ……すぅ……」


「相変わらずレキは一瞬だね。ジン、おやすみ」


「……あぁ、おやすみ」


 今日も耳元に彼女たちの寝息が聞こえてくるまでの戦いが始まった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る