Life3-10 【エルフの宝玉】を手に入れろ
「……さっきは言いそびれたけど……兄さんを殴ってくれてありがとう。じゃないと、スッキリしていなかったかも」
「あの物言いはなかったからな。流石の俺も腹が立った。それに自分の自慢の奥さんが罵られて、怒らない人間にはなりたくないから」
「それが聞けて、なおさら嬉しいよ。ジンは私のために怒ってくれるんだね」
「俺だけじゃないさ。レキもユウリも、俺がやらなかったら殴ってたと思うぞ」
二人から発せられていたのは殺気に近い怒りだったからな。
本人にも言ったが、殴ったのが俺であいつは命拾いしたのだ。
レキなんかが相手をしていたらエルフの里の端から端まで吹き飛ばされかねない。
「だから、二人にもお礼をちゃんとしてあげてくれ」
「それはもちろん――と噂をすれば」
宴会会場まで戻ってきた俺たちは談笑していた二人の元まで駆け寄る。
「あらあら。ずいぶんと仲よさそうに帰ってきましたね」
「おかえり、ジン、リュシカ」
目が笑っていない笑顔のユウリとお腹をパンパンに膨らませたレキが出迎えてくれた。
彼女のテーブルの周りには息絶え絶えのエルフ男衆とコック帽を被ったエルフ女衆がゴロゴロ倒れていたので、ずいぶんとこき使ったのだろう。
転がっている身内の姿を見て、リュシカはケラケラと笑う。
「そんなに美味しかったかい?」
「うん。エルフの里特有の料理もあってよかった。レシピ聞いたから、今度家に帰って一緒に作ろ」
「……! ……ああ。なら、美味しく作られるようにたくさん練習しないとね」
「私も料理できないから頑張る」
むふーと鼻息を荒くして、レキはガッツポーズを作ってみせた。
「もうすっかり大丈夫みたいですね」
「ああ……おかげさまで。ジンとキスも出来て、すぐ立ち直れたさ」
リュシカはトントンと自分の頬を叩く。
ビキリとユウリの笑顔が固まった。
「恩を仇で返すとはまさにこのことですか……次は私たちが相手です」
「リュシカ……【聖剣】の錆になれ」
「いやぁ、泣き得だね。こうやって一歩リードできるんだから」
「リュシカさん、バイバイ! 永遠に!」
「うぉ~!!」
ユウリは【聖杖】を、レキは【聖剣】を振り回しながらリュシカを追いかける。
だけど、今回ばかりは二人もやる気が……いや、ボコボコ穴開いてるし、剣もしっかり刺さってるな……。
……え? 本気で追いかけっこしてる?
そろそろ止めに入った方がいいかと迷い始めたところで、リュシカが二人の方へ向き直った。
レキたちはピタッと上段で構えたまま止まった。
「……改めて、二人もありがとう。あの時、私の代わりに怒ってくれて」
「……お礼を言われたからといって杖は下ろしませんよ?」
「えっ、あ、うん……。と、とにかく嬉しかったんだ。私のことを自分自身のことみたいに思ってくれたのが」
「……えいっ」
「いたいっ!?」
「追撃です」
「本当に容赦ない!」
まずレキが脇腹にチョップを打ち、かがんだところにユウリが【聖杖】を頭にコツンと振り下ろした。
「……今さら何を言っているんですか。家族が悲しい目に遭っていたら怒る。当然のことです」
「うん。別にお礼を言われることなんかじゃない」
「それでも……私が言いたかったんだ。感謝の気持ちを」
「……そうですか。リュシカさんは私とレキちゃんに感謝しているんですね」
「あ、ああ。そうだけど……」
リュシカがそう告げると、ユウリとレキは微笑みながら人差し指を立てる。
「では、貸し一ですよ。今度は私たちがジンさんと二人きりになる機会をもらいますから」
「言質取った」
「あはは……参ったなぁ」
口ではそう言うがリュシカの笑顔は晴れやかだ。
うんうん。どうにかリュシカの気持ちも底は脱したようでなにより。
俺たちは家族なんだからこんな風に互いを助け合える関係がいい。
そして、いつかおじいさんやおばあさんになった時。
記憶に残る思い出がみんな笑顔で満ちあふれている人生を過ごしたいものだ。
「おお! お待たせしたみたいだね」
「死屍累々……ほら、あんたたち。立ち上がりなさい。お客様の前でだらしない姿を見せないの」
「「お、おす……」」「「は、は~い」」
ちょうどいいタイミングでやってきたエルフォンさん。
そばにいたカルネアさんは倒れているエルフたちのケツを叩いて、撤収作業を開始させていた。
「実はこの一時間の間に見せたいものができたんだ。いろいろと話しながら歩こうか」
「父さん……歩くってどこに?」
「そんなの決まっているじゃないか。この里で最も有名な場所さ」
「……ということは」
ニヤリと口端を吊り上げたエルフォンさんは俺の言葉の続きを紡いだ。
「ああ、お見せしよう。【エルフの宝樹】を」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その偉大な生き物は空気感からしてものが違った。
ここまでエルフの里には小動物が絶えずに視界に入っていた。小鳥だったり、リスだったり、ヘビだったり……。
しかし、この目の前の偉大な生き物の周りにはそれらがいないのだ。
いや、この巨木以外の生命の気配が感じられない。
まるで己の支配するテリトリーによそ者の侵入を許さないかのように。
「紹介しよう。これがエルフの里を支える宝……【エルフの宝樹】だ」
首を真上に見上げても全貌が掴めない。
天まで伸びているんじゃないかと錯覚するほど……いや、本当に天まで達しているんじゃないか?
【エルフの宝樹】からすれば俺たち人間も小動物と変わらないんだろうな、と考えてしまうくらいの巨大さ。
光景と雰囲気もあいまって、宝樹のしなだれた生い茂る新緑はまさに天からの恵みもののようだ。
「本来ならここには代々族長の血を継ぐものしか入ることが許されていない神聖な場所だ。……だが、私たちは話し合った結果、リュシカと心を通わせる君たちならば問題ないと判断した」
「それは光栄なことです……が、いいのでしょうか? 自分はさきほどご子息を殴った身ですが……」
「ああ、あれは倅が悪い。久しくリュシカに会えるとなって興奮しすぎた面はあるだろうが、あれは言い過ぎだ。むしろ、私がするべき役目を代わりにやらせて申し訳なかった。……リュシカ」
「……なに?」
「いい結婚相手を見つけてきたね」
「……うん。私の人生を捧げられる人だよ」
リュシカがスッと腕を組む。
それに合わせてユウリが反対側の腕に、レキが背中にドッキングする。
ジン・ファミリー完全体となった俺たちを見て、エルフォンさんが豪快に笑った。
「うん、家族仲が良好なのは良いことだ。そんな最高のパートナーである君たちに頼み事がある。【エルフの宝樹】の前に連れてきたのは、そういう事情があるからなんだ」
なるほど。
ただの観光ではないと思っていたが、そういう理由があるなら納得できる。
とはいえ、全く見当がつかないのだが……。
「もちろん自分たちに協力できることであれば」
「ありがとう。今回、みんながやってきたのはリュシカの結婚報告もあったが、もう一つあったのを覚えているね?」
「うん。私たちの結婚指輪の作成」
六種族の同盟の証でもあり、メオーン王国の宝でもある。
まずはエルフ族に指輪に使用するための宝玉を貰おうと俺たちはやってきた。
まだここに来てから一日も経っていないのに、あまりにも濃い時間を過ごしていたために頭から抜け落ちかけていたが目的の本筋はこっちだ。
「そう、結婚指輪。単刀直入に言えば、その指輪に使う宝石はこの【エルフの宝樹】から産出される」
「えっ? 宝石が……ですか?」
「驚いたかい? この木はただの木じゃない。それこそエルフにとっては神様と言っても過言じゃないんだ」
【エルフの宝樹】は厳かな雰囲気をまとっているが、これはエルフたちが作り上げた伝統がそうさせているのかもしれない。
みんなの信仰を一身に受け続けて、【エルフの宝樹】は様々な面でエルフの里を支え続けてきたのだろう。
「そして、神様には必ず神話がある。当然、【エルフの宝樹】にも……これを見てほしい」
そう言って、エルフォンさんはやけに古びた一枚の紙を広げてみせた。
これは……俺には読めないな。
ユウリとレキに目配せするが二人も同じようだ。
ならば、残るは頼りになる我らが【賢者】様だが……問題はなさそうだな。
「これは古代精霊語だね。エルフでもちゃんと読めるのは一部だと思う。私も初めて見たよ。まさか使われている文献があるなんて……いったいどこに隠していたんだい、父さん?」
「あ、ああ……。それは……これがエル・リスティア家で族長が引き継ぐもので、滅多に使うものじゃないからだ」
「へぇ……読んでもいいかい?」
「頼む。ちんぷんかんぷんだ」
「大丈夫。難しいことは書いていないから。……今回は簡素すぎて、逆に難しいけれどね」
そして、リュシカが読み上げた内容を俺はポーチから取り出した革に書き連ねていく。
『【エルフの宝樹】に純粋なる愛を示せ。
さすれば、【エルフの宝玉】が与えられるだろう』
「「「……純粋なる愛?」」」
俺たち一同は首をかしげる。
なんと曖昧な言葉だろうか。それは単純に夫婦が仲良くしているところを【エルフの宝樹】に見せればいいのか。
それとも……。
「……いいですね。初体験がまさかお外でご神木に見られながらなんて……!」
興奮するユウリだが、一応! ほんとうにわずかな可能性でそういうこともあり得るんじゃないかと俺も思っている。
昔の文献なだけに、こういう簡潔な答えかもしれないと否定は出来なかった。
「ここに書かれている【エルフの宝玉】が結婚指輪に必要な宝石ってことであってる?」
「そうだ、レキさん。だから、四人に頼みたいことは一つ」
「純粋な愛を【エルフの宝樹】に見せて……」
「【エルフの宝玉】を手に入れる……!」
……どうやら俺たちに課されたミッションはとても難解なものになりそうだ。
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