第62話 食いしん坊さん

 まだ旬には早い事もあってスグリの実はそこまで採れなかった。


 籠の底を覆って少しと言うくらいだ。デザートとして三人で摘まむ位なら充分かな。


「そろそろ戻ろうか?」


 暗くなる前にご飯も終わらせないといけないしね。


「うん!」


 そうしてエンケリンちゃんとお手手を繋いで来た道を戻る。


 往きは私のずっこけにエンケリンちゃんを巻き込んではいけないと、お手手を繋いでいなかったが、これまでの感じならその心配も無さそうなので、当然機会は逃さない!

 という訳でエンケリンちゃんと二人で森林浴としゃれこむよ。



 そんな感じでゆっくりと馬車の所まで戻って来た。

 それでもまだ日が沈むには時間が有るみたい。空の色が変わってないからね。


「大分掛かったのう。そんなに遠くまで行っておったのか?」


 待ち草臥くたびれたのか、オーパ爺がそんなことを言いながら迎えてくれた。


「ううん。そんなに遠くじゃないよ。帰りはゆっくり歩いたからかな? 時間はまだ大丈夫そうだったから」


「そうじゃったか。まぁそうじゃのう」


 納得したと言うような感じのオーパ爺。


「すごいんだよ! 実が光ってるの!」


「んむ?」


 そこに話したくてしょうがない、と言った感じでエンケリンちゃん。

 それに対して困惑気味のオーパ爺。


 そうして、興奮気味にスグリの実が光ったことや、それを採った事。そして、それがとっても美味しかった事を語っていた。


 ……美味しかった?


「エンケリンちゃん?」


 思わず言葉が零れる私。


 私の言葉に反応するエンケリンちゃん。


 途端に先程までの興奮は治まり、しょんぼりしてしまった。


「ごめんなさい。リーベスお姉ちゃん。とってもおいしそうだったから……」


 本当に食べたのか、あの光った実を? 美味しそうだった? ……独特の感性だね。


「いや、食べたのはいい……くはないのか? 一応魔法が掛かってた奴だから、食べる前に聞いてほしかったかも。体は何ともないんだよね?」


 見た感じはなんともなさそうだけど……。


「え? うん。おいしかったよ?」


 恐々こわごわとした雰囲気で答えるエンケリンちゃん。


 いや、味はいいんだけど、まぁ大丈夫そうかな。エンケリンちゃんに何かあったら、私の精神が持たないよ? まったく食いしん坊さんめ。


「今回は何とも無かったから良かったけど、何があるか分からないから、今度からは魔法が掛かった物は食べちゃ駄目だよ?」


「うん……」


 あぅぅ、すっかりしょんぼりしてしまった。


 私はエンケリンちゃんの頭をなでなでしながら話す。


「エンケリンちゃんならちゃんとわかってくれると信じてるよ」


 最後に笑顔を決める。ニカッ!


「うん!」


 良かった。何とか気分が上がってくれたようだね。暗い顔をしたエンケシちゃん何か見ていたく無いからね。


「では、そろそろ夕食の用意をしようかのう」


 そこにタイミング見計らっていたかのようにオーパ爺が声を上げる。まぁ見計らっていたのだろう。


「うん!」


 元気に答えたエンケリンちゃんは早速お肉をさばきに掛かる。


 んじゃ、私は火でも起こしてますか。


 そして竈に向かおうとしたところで、ふと思う。


 あの肉は綺麗なのか? 今まで放置されていたようにしか見えない。そう、オーパ爺が待ち草臥れるほど。

 それにエンケリンちゃんが手にしているナイフは家で使っていたのとは違う気がする。あれも綺麗なのか? あ、あのまな板も!

 まぁ菌が居ないから大丈夫かもしれないけど、何かやだよね?


「待ってエンケリンちゃん」


「え? どうしたのリーベスお姉ちゃん?」


 私の掛けた言葉に不思議そうな顔をして答えるエンケリンちゃん。うぅん、その顔も良いね!


「えっと、切る前に洗浄掛けても良いかな?」


「いいけど……?」


 何で? って感じで小首を傾げるエンケリンちゃん! 可愛すぎでしょ!


「こほん。えっと、洗浄!」


 ナイフとまな板、そして兎肉を洗浄する私。


「え!? お肉も!?」


 そこで驚きの声を上げるエンケリンちゃん。


 洗浄の水が消えて、ナイフもまな板もお肉もびかぴかだ。


「邪魔してごめんね、エンケリンちゃん。ありがとう」


「う、ううん……。」


 なんだろう。何でお肉も洗ったんだろうっていうのが、エンケリンちゃんの中で渦巻いているような気がする。


「えっと、今までそのまま置いてあった訳だから、砂埃とか付いてるかもでしょ? 食べるときじゃりじゃりしたら嫌だからね?」


「そっか!」


 成程納得と言った感じのエンケリンちゃん。ふう。納得してくれたみたいで良かったよ。

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