第40話


 リゼリザの紹介で、シルメは剣の師匠となりギザに会うことになった。


ギザは、体格のいい男だった。何十人も弟子を抱えており、シルメはそのなかの一番下の弟子になった。今まで体力仕事をしていたシルメにとって、修行はその延長線のようなものだった。


それでも剣を振るうようになってからは、仕事をしていたときよりも自由な時間が増えた。自由な時間には、シルメはユーファに会いにいった。


ユーファは、相変わらず魔法の修行をしていた。ユーファが館を出ていった後もそれは変わらず、リゼリザと共に穏やかに暮らしていたようだった。


ユーファは暇な時間は木に登って、本を読みながら過ごしていることが多かった。シルメはユーファが登った木の下から声をかけて、彼女の地上に呼び戻すことが多々あった。


ユーファは明るい性格なのに、シルメ以外の友人がいなかった。


シルメは、そのことを少し残念になった。ユーファは明るい性格なので、たくさんの友人に囲まれていてもおかしくなかった。だが、彼女の日常は修行の毎日だった。そのため、シルメは修行仲間たちをユーファに会わせた。誰かが、ユーファの友達になってくれると思ったのだ。


ユーファに会ったシルメの修行仲間の幾人かは、一目で彼女を気に入った。


その修行仲間のうち一人はことあるごとに、ユーファに会いたがった。


シルメは、その修行仲間を何度もユーファに会わせた。きっとその修行仲間はユーファに恋をしてしまったのだろう、とシルメは思った。


ユーファは年齢にしては小さくて幼く見えたが、会話すれば誰よりも知己に富んでいた。それを魅力的に思う男も少なくはないだろう、とシルメは思った。


シルメは、ユーファに会いに行くことを控えた。


修行仲間とユーファを二人っきりにしてやろうと思ったのだ。


だが、ユーファはそれを嫌がった。


最初こそシルメの友人を歓迎していたが、シルメが来なくなるとユーファは修行仲間にも会わなくなってしまった。修行仲間は、それでユーファにフラれたと思ったらしい。彼は、ユーファに会いに行くこともやめてしまった。


シルメはその理由が気になって、ユーファに尋ねてみた。


ユーファは、頬を膨らませながら答えた。


「あの人、私に好きって言ってきたの」


 どうやら、ユーファはそのことが気に入らなかったらしい。


シルメは、それが少し不思議だった。


ユーファぐらいの歳になれば、恋愛に夢を見ていてもおかしくはない。だが、ユーファにはそんな様子はなかった。おしゃれに興味がある様子もなく、彼女はいつも白いローブばかりを身にまとっていた。


「ユーファは誰かと恋愛する気はないのかい?」


 シルメが尋ねると、ユーファは唇を尖らせながら答えた。


「恋愛なんて、魔法の修行に邪魔よ。しなくていいわ」


 ユーファは、そう答えた。


 シルメは、くすくすと笑いだした。


「そうか……ユーファが恋愛するのはずっと先のことなんだね」


「そんなことないわよ。すぐに一人前になるわ」


 ユーファは、そう言った。


「それで、この国を守る魔法使いになるの」


 恋愛はそのあと、とユーファは言った。


「シルメは、どうなの?」


 ユーファに尋ねられて、シルメは少し悩んだ。


 自分が恋愛するなんて、考えたこともなかった。


「……俺も一人前になるまで、恋愛はしないかな」


 一人前になるまで。


 一人前になって、国を守れる剣の使い手になるまで。


 ひいては、家族を守れるようになるまで。


「シルメ。今度から、私に友達を紹介するのは止めて。面倒だから」


 ユーファの言葉に、シルメは頷いた。


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