第23話


 そんなヒューイの幸せが崩れたのは、突然だった。


 シルメとユーファが、婚約したのだ。


 年頃となっていた二人の婚約は、たくさんの人に祝福されていた。二人の婚約の話を進めたのは、双方の師匠であった。そもそも二人を結婚させる話は、彼らが小さいことから出ていた話らしい。それこそヒューイが彼らと出会う、ずっと前から。


 祝福する人々をよそに、シルメのユーファも淡々としていた。まるで、婚約の話など自分たちには関係ないかのように。


このとき、シルメとヒューイの腕前は師匠を超えていた。だが、ユーファだけが師匠を超えられないでいた。


これはユーファの問題ではなく、彼女の師匠が優秀過ぎたのが問題であった。ユーファは優秀な魔法使いであったが、彼女の師匠はそれを超える存在だった。


たった一つの問題をのぞけば、彼女の師匠は歴代最強の魔法使いであった。ユーファの目下の興味は、この師匠をいかに超えるかということだけだった。


「あなたたち、自分たちの婚約話なのに随分と他人事ですね」


 ヒューイは、シルメに聞いてみた。


 シルメは、困ったように答えた。


「結婚に関しては、子供の時から言い聞かされていたからね。ユーファに対して好きっていう気持ちはないけど、一番信用ができる異性だから婚約に対しては異論はないよ。たぶん、ユーファも同じ気持ちなんじゃないのかな。うん、そう思うよ」


 その言葉に、ヒューイは衝撃を覚えた。


 シルメは、少しだけ笑った。


「俺たちにとっては、剣の道を究めたり、魔法を次世代に伝えるほうが大事なんだよ」


 小さい頃から、そう教わったとシルメは言う。


「ヒューイも分かるよね」


 シルメは、ヒューイに同意を求めた。


 だが、ヒューイには分からなかった。


 ヒューイにとって、槍は人を殺すための手段に過ぎなかった。次世代に繋げていくだなんて、考えたことはなかった。


「私には……分かりません。私は、元々はただの盗賊です。次世代に繋げるだなんて、大層なことは考えたことはありません」


 ヒューイの言葉を聞くと、シルメは悲しそうな顔をした。


「盗賊だなんて、言わないでくれよ。今では、君は俺の大切な仲間だよ」


 そんなことを言われたが、ヒューイには自信がなかった。シルメと同じものになる自信が。


 ユーファは、本当にシルメと同じ気持ちなのだろうか。


 シルメには、それが気になった。


 ユーファにも、婚約をどう思っているのか聞いてみることにした。心のどこかで、婚約を後悔していてほしいという気持ちがあった。だが、ユーファもシルメと同じくあっけらかんとしていた。


「婚約に関しては、シルメでいいって感じよ。子供のころからよく知っているしね」


「女性ならば、本当に好きな人と結婚したいという気持ちはないのですか?」


 ユーファは、シルメの言葉を笑った。


「私は、女である前に魔法使いよ。そんな希望はないわ」


 ユーファは、そう言った。


 ヒューイは、何か希望が壊れたような気がした。


「私の希望は、魔法の発展と国の平穏。それだけよ」


 シルメもユーファも、まるで言葉が通じない異邦人にでもなったかのようだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る