第24話 フローラ

 僕は唇をなぞる。ローズさんの感触が残っているのだ。とても柔らかかった。ローズさんでこんなに呆けてしまうんじゃ。


「シリカしゃんとしたらもっと・・・シリカしゃんともしたいな~」


 ロクーデを鐘に縛り付けて。僕はローズさんの唇の感触の余韻にポケ~っとしている。


 はっいかんいかん!当初の目的を達成しなくては。


 僕は鐘の下からシュミット中央の巨大な教会へと足を踏み入れた。


「おじゃましましゅ・・・」


 ペタペタと階段を下りていく。しばらく降りると二階まで吹き抜けになっている大聖堂についた。二階から下を覗くと正に教会といった椅子がならんでいる。お~神よって感じの石像も立っているね。


「あなた、だ~れ?」

「アイ?」


 え~僕、[暗殺家業]の効果でほぼ見つからないはずなんだけど、どなた?。


「可愛い~」

「ア~イ?」


 僕を見つけたのは可愛い幼女だった。5歳くらいだろうその子はブロンドの髪を一つに結っている。その子は僕を抱き上げると頬をスリスリと僕の頬に擦り合わせてくる。とても可愛いが何故バレた?。


「お父さんにも見せてあげよ~」

「アウ~」


 え~ちょっと嫌な予感・・・。


「お父さ~ん・・・・キャ!・・・うえ~ん」

「バブ・・・」


 女の子は僕を抱えたまま走った為転んでしまう。階段3つくらいの高さから転んでいます。僕は女の子と床に挟まれて声がもれた。女の子は僕がクッションになったので痛くないはずだがびっくりして泣いちゃったみたい。


「あ~、フローラ。だから上にはいくなと」

「お父さん~」


 女の子は僕を抱え直してお父さんと思われる人の元へ走った。僕は降ろしていいんだよ~。


「ははは、ん?この子は・・・神に嫌われた子じゃないか。何故そんなものがここに?」


 女の子のお父さんと思われる人は僕を見て顔をしかめる。


「フローラ、この子はどこにいたんだい?」

「え?二階よ」

「そうか・・・ではすぐに出ていってもらいなさい」


 女の子のお父さんは扉を指さして僕を外にと促す。やっと解放されそうだな、と僕は安心したんだけど。


「嫌よ、私はこの子と遊ぶの」

「フローラダメだよ。その子は神に嫌われているんだ。フローラも嫌われてしまうよ」

「いやったら嫌なの。私はこの子と遊ぶんだもん!!」

「ああ、フローラ。お転婆な子だ・・・誰に似たのやら・・」


 僕を抱えたまま女の子は聖堂の奥へと入っていく。


 わ~何にもしてないのに潜入できた・・・というかこのフローラちゃんなんで僕の事わかったんだろ?。


 僕の[暗殺家業]はご存じかと思うけどローズさんにも気づかれないほどの能力値になってるんだよね。確かに目視できるような所に居ればわかるかもしれないけど、こんな子供に僕を捉えることができるのだろうか?否それは出来ないはずという事はスキルの類いだろう。ララさんのような感知系スキルの上位を持っているのだろう。


 僕はそう予想してフローラに抱えられたまま教会の奥へと進んでいく。


 奥に進むと空が見える中庭に着いた。中央に噴水があるその中庭で遊ぶようで僕をベンチに座らせてくれた。


「私はフローラ、赤ちゃんはお名前言える?」


 フローラちゃんは可愛く首を傾げる。どうしよう、名前言っていいのかな?。でもこんな無邪気なお目目で見つめられると・・・・。


「僕はジーニだよ」

「わ~ジーニって言うのね・・・可愛~」


 いやいや~、僕も可愛いけどあなたの方が可愛いよ~。


「じゃあ、ジーニちゃん何して遊ぼうか?」


 フローラは無邪気に僕を遊びに誘う。僕は考える、とりあえずこの教会の一番の人を探さないと。


「フローラちゃん、僕鬼ごっこがしたいな~」

「え?・・鬼ごっこってな~に?」

「へ?」


 わ~お、そうだった。この世界の子供の遊びに鬼ごっこはないのか。


「ごめんなさい、私初めて他の人と遊ぶからわからないの・・・」

「あ~・・・」


 フローラちゃんは目をウルウルさせている。僕は泣かせまいとあやし始める。


「は~い泣かないで~、ほらほら僕浮けるんだよ~」

「わ~、すご~い。なんで~どうやってるの~」


 僕が宙に浮くとフローラちゃんはさっきまで泣きそうだった顔が輝き僕を見つめている。


「フローラちゃんも飛べるんだよ。ほら~」

「キャ~、凄~い」


 フローラちゃんの手を取り僕は噴水の上へと移動する。フローラちゃんはとても喜んでいる。フローラちゃんにも僕の魔力の膜をはり浮いているよ。実はこの飛空術はかなりのMP消費が高いらしく普通の人は使わないみたい。普通の人達はジャンプする時とか走る時に使用して脚力の強化が主流らしい。あらいやだ、僕は邪道の方だったみたい。


「凄い凄~い、ジーニちゃんは天使さんなんだね」


 フローラちゃんも天使だよ。と言いたかったがすぐにお父さんと言われていた人が何人か僧兵を連れて現れた。


「フローラ!!」

「ベンジャミン様。落ち着いてください」


 何か下で騒いでる・・・。ってベンジャミンってここの賢人のベンジャミン?。ソフィアさんのお父さんだよね?。


「ジーニちゃん降ろして。お父さんが泣きそう・・・」

「うん、そうだね」


 僕はフローラちゃんと一緒にベンジャミン達の前に舞い降りる。するとベンジャミンの顔は凄く殺気を帯びていて今にも僕を絞殺さんばかりだ。ぷっぷー、そんな怖い顔したって平気だもんね~。


「お父さん、ジーニちゃんと遊んでいただけよ。ジーニちゃんは天使なのよ」


 フローラちゃんはお父さんの顔を見て僕の弁解をする。するとベンジャミンの顔は優しいお父さんのそれになりフローラちゃんに言葉をかける。


「違うよフローラ。この子は悪魔の子さ。すぐに退治してあげるからね」


 ベンジャミンのその言葉に僧兵は反応する。


 ベンジャミンのすぐ横にいた僧兵と聖堂の方から僧兵がなだれ込んできた。あれ~?ただの赤ん坊にこんなにこないよね。


 ざっと見30人は来たんですけど・・・。


「すぐに捕まえろ!」


 ベンジャミンの合図で僕に向かって槍を構えた僧兵はジリジリと近づいてくる。


「僕はジーニ、今回はこれで帰るよ。またねフローラちゃん」

「ジーニちゃん!また遊んでね」


 フローラちゃんいい子だな~。空に飛んでいく僕にフローラちゃんは無邪気に手を振っている。お父さんのベンジャミン君はとても苦々しい顔してらっしゃる。


 そんな顔してもしょうがないじゃないか、僕がフローラちゃんの心を盗んでしまったのだから。


 僕はフローラちゃんに手を振り返し中庭から空へと舞い上がる。その時にいろんな魔法で攻撃されたけど魔力の膜だけでガード余裕でした。ちゃんとご飯食べてるのかな?やせ過ぎだよ僧兵さん。


 ちょっとお早いけどベンジャミンさんのお宅訪問終了です。しかし情報は少ししか得られなかったな~。なぞも増えたし。


 そしてこの時僕が外に出たのを告げるように鐘の音とロクーデの悲鳴がシュミットに響いた。




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