第20話 巫女の両親
「ジ~ニ様!!」
「アイ?」
シリカさんはデシウスがいなくなってから僕にべったりになってしまった。
デシウスに取られていた時間もすべてシリカさんになったのでご満悦のようだ。笑顔がとても可愛い~。
でも僕は、夜に行動を起こしていた。毎晩僕はデシウスの所へ様子を見に行っているのだがそのたんびにシリカさんと同じようにべったりとスキンシップをとってくるのだった。
シュミットへの道はアステリアよりも遠く馬車でも十日と現代の記憶を持つ僕にとってはとても長い旅だ。流石にデシウスを十日何もしてあげないのもどうかと思い毎晩ケアをしているのだった。
「あ~ジーニ様のにほい・・・」
「デシウシュ・・・」
僕はジト目でデシウスを捉える。デシウスは僕を抱きかかえる時タオルを挟むのだがそのタオルを嗅いで僕を思っているようだ。流石に本人の眼の前でやらないでほしいんだけどね・・・。ちなみに毎回僕がタオルを持ってきている、この時代にあんなタオルなんてとても高価なんだよ・・・。
「ありがとうございます。これで明日も戦えます」
「本当にデシウスさんはジーニ君の事が好きなのね・・・でも年齢に差があり過ぎると」
他の護衛の人達と離れ僕たちは話しているのだが、そこには巫女のソフィアもいる。
ジーニに恋をして見つめるデシウスを見てソフィアはその異常な光景を口に出す。確かに傍から見たらおかしな光景である。
エルフの美女が頬を染め更に目を潤ませて幼児を見ているのだから。
「本当に好きならば年齢なんて些細な事」
「本人がそうなら私は何も言わないけど。世間では幼児を本気で好きになるなんて普通じゃないのよ」
ソフィアは引き籠りだったくせに世間の常識を話す。彼女は彼女なりに世間を見ていたのだろう、その常識は確かに真実である。まあ幼児が好きだと言うのは普通に考えても異常なのだが。
「普通とは誰が決めたんだ?」
「え!?えっと・・・」
「答えられないだろ?じゃあ普通や異常なんて言うものは自分で決めつけてしまっているだけ。そんな他人の物差しを元に自分で決めつけてしまっている事に縛られていては自分の好きな物に失礼だ」
デシウスがさっきまでのデレデレ顔からは想像できないような真面目な事を話す。その話を聞いていたソフィアは何故か納得して頷く。
「そうよね。そうよ。みんな誰かに決められて誰かを好きになるわけじゃないのよね。私も自分で好きな人を選ぶ権利があるのよね・・」
「「・・・」」
ソフィアの切実な呟きを僕とデシウスは静かに聞く。するとソフィアは照れくさそうに俯き話し出した。
「私ね。アルサレムへ家出する時確かに神託を聞いたの。だけど私は引き籠り、それだけじゃ私は外に出たいと思わなかったと思う。結婚の話が無かったら」
「結婚・・・」
デシウスは、事の重大さが少しわかったような気がした。
信仰強国シュミットでの巫女の結婚とは王子の結婚とは大きく違う。巫女は神の言葉を届ける者、それは清く美しくなければいけない。巫女とは穢れてはいけないのだ。
巫女が穢れるという事は新しい巫女が生まれたか神の言葉が要らなくなったかである。そしてこれがデシウスが思った事だ。
「自国以外を滅ぼす時・・・」
「・・・」
そうである。信仰強国シュミットの王である賢人ベンジャミンは神のお言葉を得たと嘘をつき。自国以外は悪魔であるとベンジャミンは声高らかに唱えたのだ。そしてソフィアはそれも重なり今回の事を思い立ったのだった。
そして巫女の子は強大な力を得ると信じられている為。信仰強国シュミットで一番強い者と結婚させられ子をなさなければならなかったソフィアはその事を嘆いたのだった。
デシウスはソフィアに同情をする。ただ魔眼を得ただけのこんなか弱い少女に信仰のすべてを背負わせている。その事にデシウスは同情をしたのだ。その為デシウスはソフィアの事も好きになっていく、こんな状況を作った祖国を守りたいと思う責任感に惚れていくのだった。
「ソフィアしゃん、がまんしないでいいんだよ」
「・・なによ、子供のくせに大人ぶって」
「ふふ、ジーニ様は聡明な方。私の胸で泣くか?」
「・・・『コクッ』」
僕の言葉にソフィアは我慢できずに目に涙を溜めた。そしてデシウスの優しい言葉にソフィアは年相応に甘えて静かに泣くのであった。
ソフィアは初めて人前で泣いた。そして目を腫らせてデシウスの胸で静かな寝息をたてる。
「まもってあげなくちゃね」
「ええ、シュミットは踏んではいけない尻尾を踏んだようですね」
僕とデシウスは闘志を燃やす。賢人がなんぼのもんじゃ!。力でねじ伏せる。
僕はソフィアがシュミットに着く前に片付けようと思うのだった。残り五日くらいかな・・・。
デシウスが眠ったソフィアを馬車に戻そうとした時。ソフィアの侍女が声をかけてきた。
「ソフィア様は寝られたのですね・・・。少しお時間よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないが」
デシウスが快く承諾する。そしてソフィアのねる馬車から少し離れた所で侍女は話し始めた。
「私はソフィア様の侍女のソーア。改めてソフィア様の護衛を承諾してくれてありがとうございます」
「ああ、それで。私に何か用なのか?」
シュミットへ向かいだいぶたっている為、ソーアの礼にデシウスは素っ気無く答えた。最初から素っ気無かったソーアは当然だろうと自分でも思っているのだろうそのまま本題へと入っていく。
「私はソフィア様・・・ソフィアの母なのです」
「!?」
デシウスはびっくりしている。まさか侍女のソーアがソフィアの母だとは誰も思わないだろう。しかし思えばソーアの顔はソフィアに似ているような気がする。
「私は・・・賢人様に身を授けました。そしてソフィアが生まれたのです」
「・・・・ちょ、ちょっと待て!という事はベンジャミンの子供でもあるのか?」
「・・・・そうです」
デシウスは言葉に詰まる。ソフィアは自分の父を止めようとしているという事になる。その場合ソフィアは父を討つことになるかもしれないのだ。デシウスはその時のことを思い言葉に詰まっている。
「そんな話を私にしてどうするんだ?」
「・・・私ではソフィアの母にはなれません。ですから・・・彼女の母になってあげてほしいのです」
「何を言っているかわかっているのか?」
「分かっています・・わかっているわよ。だけどソフィアはもう止まらない。止められると思ってアルサレムへ逃がそうと思ったのに・・・」
侍女、いやソーアは涙する。ここまで苦労してソフィアをアルサレムへ連れてきたのだ。ソフィアから神託で助けてくれる人がいると聞き連れてきた。だがそれはソーアにとってどうでもよかったのだ。とにかくソフィアをシュミットから遠ざけたかったのだ。結果としてはソーアの母心はソフィアには届かずシュミットに向かう事になってしまったが。
「そういうことか・・・。では襲われたのも何者かによるものかもしれないな」
「え!?」
デシウスはというか僕たちはソフィアやソーアが襲われた事を知っていた。それは偶々あの貴族の所を調べた時に知ってしまった情報だった。
オークの巣をつつきオークを擦り付けろという紙を見つけて僕は絶句したよ。でもまさかソフィア達だったとは思わなかったけど。
「そうでしたか・・・ではアルサレムでも危険だったかもしれないのですね」
「ですね。そしてこの中にも・・・」
デシウスは暗闇の中へと視線を放つ。それに呼応して抜剣の音が鳴り、鉄と鉄のぶつかる音が月を躍らせる。
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