第19話 不本意な依頼

 楽しい日々がすぎるのは早く、巫女ソフィアの出発の日が訪れてしまった。


「うう~ジーニ様~」

「デシウシュ」

「ほら、もう出発するみたいよ」

「うう~やっぱり行かないっているのは」

「ダ~メ」

「そんな無慈悲な・・・」


 デシウスは巫女乗っている馬車の後方を歩き見えなくなるまで僕を見ていてとても寂しそうだった。


「大丈夫でしょうか?」

「ん、デシウスはジーニ様の次に強いから大丈夫」

「え?そうなの?」


 シリカさんの心配に対してララさんが答える。確かにデシウスはとても強いだろう。僕が真剣白刃取りを失敗した、って失敗してないよ。コホン、あの技は確かに速く強かった。だからバイ~ンってなっちゃったんだよ。だから失敗じゃないよ!。


「ん、それにどうせジーニ様が様子見に行くだろうし」

「え、ジーニ様危ない事はもう・・・」

「シリカしゃん、だいじょうぶだよ」

「はい・・」


 僕が喋るようになってからシリカさんは緊張するようになってしまった。僕はシリカさんの頭をなでなでしてあげると頬を染めて俯いちゃった。そんな姿を見て僕は微笑んだ。


「ん、いちゃいちゃしてないで帰ろ」

「ララしゃんもなでなで」

「・・・私はいいから、シリカ。止めて」

「ふふ、照れてる」


 ララさんも頭を撫でると頬を染める。シリカさんに止めてと頼むがシリカさんは少ししてから僕を抱き留めてみんなで屋敷へ帰る。






 みんなが寝ている丑三つ時。僕は起き上がり窓から空へと飛んでいく。


 僕はデシウスが心配だった。相手がどんな相手なのかもわからないしロクーデが信仰強国シュミットにいるということなのでこれもその心配の一つになっている。


 デシウスを追って僕は空をかける。


 アステリアへ駆けていった時よりも速度が増している僕はすぐに野営しているデシウス達を発見した。デシウスは出会った時の姿になっていて無口に見張りをしていた。


「は~・・・・」


 大きなため息を吐くデシウス。僕はデシウスの頭に降り立つ。


「は~・・・ジーニ様・・今一度お声をお聞かせください」

「デシウシュ」

「そうです。その声です・・・・思いが強すぎて幻聴が?」

「デシウシュ」

「幻聴ではない。ではどこに?」

「こっち」


 デシウスはジーニに気付くと抱き上げて勢いよく自分へと抱き寄せた。鎧がミシミシと悲鳴を上げたがお構いなしのようだ。


「来てくれたのですね!!」

「デシウシュ、こえでかい!」

「すいません」


 他の人達は寝ているので僕はデシウスを怒る。すると巫女のソフィアが気づき起きてしまった。


「やっぱり。あなたが魔力の持ち主だったんですね。実際に見ても信じられない・・・」


 ソフィアはジーニと分かれたデシウスの魔力を肉眼で見てあの魔力の持ち主ではないと気づいていた。だがデシウスは強かった、通常の人間相手ならば5人相手でも勝ってしまう程になので十分だと判断したのだった。


「気付いていても黙っていたって事はそれだけ切羽詰まっているのですね」

「ええ、早くしないと私の国は滅んでしまいます」


 それだけソフィアは焦っていた。引き籠りの巫女ソフィアが何に気付けたのかとデシウスは思うが彼女は彼女なりに祖国を思っている結果なのでデシウスは口を閉じる。


「ですが。その赤子がこのような魔力を秘めているとは・・・・それにそのピアス」


 ソフィアは最初あった時からピアスには気づいていた。だがピアスに触れなかったのは赤子が大切にされていたからである。加護なしの事をいったらデシウスに依頼を受けてもらえないと思っていたのだろう。それだけデシウスには気を使っていたのだ。


「加護なしはあくまでもハンデがある人達なだけなんだよ。実際にジーニ様の強さを体で感じた時私は今まで無意識に加護なしを下に見ていた事を恥じました」


 デシウスは俯き嘆く。自分は人を蔑んでいないと思っていたのだ。だが実際にジーニと出会った時少しピアスを見て余裕を見せてしまった。だがその余裕はジーニによって壊されたのだが。


 デシウスはその時の事を恥じているのだ。もちろんジーニを下に見なかったとしても勝てなかったのだがそれでもデシウスは今でもジーニに申し訳ないと思っている。それも相まってジーニを思ってしまっているのだろう。


「では改めてお願いいたします。ジーニ様私を。いえ、私の国を助けてください」


 ソフィアは信仰強国シュミットの祈りを僕に向けて行う。僕は驚きながらも助けてあげたいと思い出来る限りの手助けを約束する。


 そして僕は一度デシウス達と分かれてアルサレムへと帰っていく。





 ジーニがアルサレムへ帰っているその頃。シュミットには一足早くローズが。


「全く冒険者ギルドにも困ったものだ・・・」

「姉さん・・・」


 ローズはため息をついた。そしてローズを気遣い、囁く小さな少女。ローズは不本意ながらロクーデを護衛してシュミットに来ていたのだ。それは冒険者ギルドに依頼されての指名依頼、これを断る事はもう冒険者ギルドと縁を切ると言うことになってします。


 ローズは今冒険者ギルドと取引できなくなることは避けたい。それはローズの故郷が原因なのだがそれはまた次の機会に。


「姉さん、嫌ならいいんだよ・・・」

「・・・」


 ローズを気遣う少女はローズの妹分のマリー。彼女はロリロリしているが狩人としては超一流の部類である。マリーの弓は100メートル以内の標的ならば百発百中である。


「ローズ!ここにいたか。まだ契約は生きているんだぞ」

「チッ!、分かっている。少し外に出ていただけだろう。まったく何故私がこんな奴に」

「何か言ったか?」

「ふん!」

「まったくこれだから冒険者は・・・」


 ロクーデはローズに悪態をついて自分の家に入っていった。そしてローズとマリーも後に続き同じ家へと入っていった。


 ロクーデはシュミットへ多額の援助をしていた。それは個人の資産を大きく超えた額であった。そしてシュミットはロクーデにこの家を与えたのだ。ロクーデはシュミットに着くまでは安心できないとこちらも金による伝手で冒険者ギルドに頼みローズをよこさせたのだ。


 冒険者ギルドへの多額の依頼料はシュミットへの寄付の約半分、これはアルサレムの税収の約2か月分という多額の金だった。ロクーデが何故こんな大金をポンと出せたのかはなぞだが冒険者ギルドにその金をつき返せるほどの度胸はなくローズをあてがったのである。


 ローズは泣く泣くギルドの要請を受けたという事だった。

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