第13話 ただいま

「今帰ったぞ」

「お帰りなさいませ、ツヴァイ様」


 円卓の間での話し合いが終わりツヴァイが屋敷に帰ってきた。セバスが迎えるとツヴァイは上着を渡しリビングへと向かった。


 ツヴァイはエントランスに入った時からリビングが騒がしい事に気付いていた。なのですぐにリビングへと向かった。


「お客さんかい?」


 ツヴァイがリビングに入る。ツヴァイはいつものメンバーにキーファとデシウスを見つけてそう話した。


「ええ、キーファ君がジーニのお客様を連れて来てくれたのよ」

「そうか、ジーニの・・・君、エルフなのか?」


 ツヴァイはデシウスを見て驚く。エルフは貴重な存在だ、ツヴァイが驚くのも無理はない。


 この世界では差別が横行していると言うのは知っていてもらっているだろう。その為エルフはビジュアルが良くカリスマ的存在というものになっている。特に昔は奴隷として人気があり貴族たちがエルフ目的で戦争を起こした事もよくあった。そんな歴史もあったものだからあまり森から出てこないので貴重な存在となってしまった。


「エルフがそんなに珍しいですか?」

「あ~いや、すまない。エルフを見るのは初めてだったんでな」


 デシウスは不機嫌にツヴァイに言い返す。ツヴァイは頭を掻き謝るとメリアに睨まれた。最近ツヴァイの威厳がヤバい。


「キーファ君、もう大丈夫だよ」

「でも・・・」

「大丈夫、君には世話になった。あとで礼をさせてもらうよ」

「はい!、じゃあツヴァイ様メリア様それに皆さんお邪魔しました」


 ツヴァイはキーファに帰るように促す。キーファはデシウスの笑顔と言葉に喜び自分の家に帰っていった。そしてツヴァイはデシウスの前に座り話始めた。


「お前、ロクーデの所にいただろう?」

「!?」

「それはもうみんな知ってるわよ。でもよく気づいたわね」

「はあ?それで何で仲良く話しているんだ?」


 ツヴァイは呆れている。ツヴァイはロクーデの情報で窮地に追いやられた。それなのにその仲間だったデシウスと仲良くしているのだ、ツヴァイは呆れる権利があるだろう。


「安心してください。私はロクーデの・・・奴隷でした。ですが!」

「おい!何で脱ぐんだよ」

「あなたそれは・・・」


 デシウスが上半身裸になり背中を見せる。その背中には奴隷紋の形に火傷の痕が。


「私はロクーデの奴隷だったのです。でも今はもう自由なんです。神様のおかげで」

「神様?」

「ジーニの事よ」


 デシウスの言葉にツヴァイが困惑しているとメリアが囁いた。ツヴァイは頷き納得する。ツヴァイは自分の身で体験しているのだがジーニの魔法は初級魔法が上級並になっているのだ。奴隷紋も壊してしまってもおかしくはないと無理やり納得するツヴァイであった。


「私もさっき気付いたんです。そろそろロクーデから戻れという連絡が奴隷紋を通じて来てもおかしくないのですがこなかったんです」

「そうか」

「その傷はジーニが帰ってきたら治してもらいましょうね。女の子なんだから。」


 メリアがデシウスの背中を撫でる。デシウスは恥ずかしそうに服を着なおすとメリアは笑った。


「そろそろ、帰ってくるだろう。アドスバーンの使者からアステリアはもう放棄したと言っていたからな」

「「ジーニ様はすぐに帰ってくるのですね」」


 デシウスとシリカがハモってツヴァイに聞き返す。二人は見合ったあとすぐにそっぽを向いた。


「ん、二人は恋のライバル」

「べ、別に私は、ただデシウスさんではジーニ様にはふさわしくないと」

「シリカさんは違うんですね・・・私はジーニ様の事を愛していますよ」

「え!」


 ララの言葉に動揺したシリカ。デシウスの愛している発言に目をまん丸くしてシリカが汗を垂らす。


「私はエルフ。長命の者、年齢なんて関係ないもの」

「うう、しかしまだジーニ様はあと少しで二歳・・・・・それに私はもう20歳...」

「ふふ~ん」


 デシウスは余裕を見せる。しかし実際はシリカに軍配が上がっているのは言うまでもない。ジーニは転生者である。なのでシリカがたとえ40になろうともジーニはシリカにプロポーズするだろう。それだけシリカにゾッコンラブである。


「まあまあ、二人共ここは落ち着いて紅茶などいかがですか?」

「あらありがとうセバスさん」

「ありがとうございます・・・」


 実際勝っているシリカは何故か俯き紅茶を受け取り、目にもとめられていないデシウスは何故か勝ち誇ってセバスから紅茶を受け取っていた。


「ふふ、ジーニは人気ものね」

「ああ、さすが俺の息子だ。だが浮気は許さんぞ」


 ツヴァイも一途を通した男、ジーニにもそれを通すようだ。


 その時エントランスから扉を叩く音が聞こえる。


「噂をすれば。帰ってきたか」

「迎えに行ってまいります」

「お願いね」


 セバスがエントランスへ向かう。


「お帰りなさいませ、ジーニ様」

「ダ~!」

「お客様がお待ちですよ」

「ウ?」


 僕は宙に浮きながら扉が開くのをまっていたんだけどセバスの思いがけない言葉に首を傾げた。


「おかえりなさい。ジーニ」

「お帰りなさい。ジーニ様・・・」

「おかえりなさい」

「神様~!!」


 ジーニがリビングに入るとデシウスがジーニを抱き上げる為に近づいてきた。


「ダ~!」

「なにゅを・・・・ぐふっ」


 デシウスが急に来たから僕は反射的に顔に張り付きプニプニお腹で気絶させてしまった。何でこの人がいるの?



「ジーニ様何を・・・。・・え!?・・・ジーニ様。目が」

「ダ?」


 デシウスを気絶させた、僕を見て驚いていたシリカさんが僕の目の下をなぞる。


 僕はアステリアの屋敷がなくなった事を泣いていた、なので僕の眼は腫れていたのだ。それに気づいたシリカさんが悲しい顔で僕に聞いてくる。


「アステリアで何かあったんですね・・・」

「本当か?ジーニ」

「・・あい」


 お父様が僕に聞いてくる。僕は元気なく答えた。デシウスはセバスが介抱している。


「まさか!アルス王子に何か?」

「ダ~ア~!」


 僕は首を横に振って否定した。


「あ~アステリアにアドスバーンの軍がいなかったのだろ?」

「え、そうなんですか?」


 お父様は何故かアステリアに人がいないことを知っていた。僕は驚いたが本当に知らせたいのはその事ではないので首を横にふった。


「何!それじゃないのか・・・・」


 僕はリビング全体を指さした後、手を大きく広げた。


「何だ?」

「ん、たぶん何か伝えたいんだと思う?」


 お父様とララさんが首を傾げて考えている。僕は同じジェスチャーを繰り返す。何回かした時シリカさんが何か思いついたのか手を叩いた。流石シリカさんやっぱり一番僕の事をわかってるな~。


「お屋敷に何かあったのでは」

「ダ!」


 やっと正解が出た事に僕は思わず大喜びしてしまった。悲しい事なのにね・・・。


「そうか・・・だが大丈夫だ。実はな」

「アイ?」


 ツヴァイはアルサレム城の円卓の間での話をし始めた。


 僕はその話を聞きアステリアに誰もいなかった理由を知った。


「あら?あちらの王に気に入られているのね。あなたは」

「そんな怖い顔で見るな。その事なんだがたぶん、アドスバーンがほしいのは俺じゃなくてジーニじゃないか?」

「ジーニ様が?」


 みんなの視線が僕に集まったそして言葉が続く。


「だっておかしいだろ?俺はあの双子に捕まっていたんだぞ。それなのにバーンへ連れて行かれることはなかった。それなのに今になって俺を持ち上げても何もないだろう」


 お父様は正論を話した。僕は頷く、確かに欲しいのならば双子にすぐお父様を護送させただろう。というよりもツヴァイお父様の足を使えない物にしている時点でこの要求は変だ。たぶんお父様の推測は正解かもしれない。だってアステリアの人達の事も調べているみたいだもの。


「それでアステリアは一つの街から国になるのですか?」

「ああ。メリア、お前はアステリアの王妃になるんだ」

「は、はあ」

「嬉しくないのか?」


 お父様の言葉にお母様は現実感を得られずに苦慮している。まさか自分が一国の王妃になるなんて思ってもいなかったからだ。


「ジーニ、お前はアステリアの王子だぞ!」

「ア~イ!!」


 お父様はシリカさんの膝の上にいた僕を抱き上げて高い高いをした。お父様はそのままメリーゴーランドのように廻って僕を抱きよせた。


 僕は王子になるの?。メリアお母様と一緒に現実味のない状況にきょとん顔である。


「はっ!ジーニ様は!」


 セバスに介抱されてデシウスが起きた。その姿を見てみんなが笑うとデシウスはきょとん顔になった。それから僕はメリアお母様のお願いでデシウスの背中の奴隷紋の火傷痕を回復させるとデシウスは涙を流した。そして僕を力強く抱きしめてきた。お胸が当たって気持ちいいけどシリアスな場面なのでニヘラ顔はしなかったよ!偉いでしょ?。


 まさか僕の[キュア]で奴隷の呪いも消せるなんて・・・・。これは差別をなくす手段の一つになりうる。僕は自信を漲らせてララさんの言葉を思い出す。『諦めている限りそれは叶わない』諦めなければいつか叶うんだ、僕は絶対に諦めないぞ。


 まずはアルサレムだ。

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