第11話 決断

「アルス様!ご報告します!」


「何かあったのか?」


 アルス王子の軍勢はアステリアまであと少しの所までたどり着いていた。だがその時先に行かしていた斥候が早馬で帰ってきて息を切らせて話し出した。その異様に急いでいる姿にアルス王子は少し動揺している。


「アステリアはもぬけの殻です」

「「「「「!?」」」」」


 斥候の声が聞こえる範囲の騎士達が狼狽えた。そして確かなのかと斥候に詰め寄るエルエス。だが答えは変わらず伝えられるのだった。


「何故だ・・・・・まさか!!」

「!?、全軍転進!!敵は王都だ!」


 アルス王子はいち早く気づく、アステリアは囮であったのだと。アルス王子の後方を見る仕草ですぐに号令をかけたエルエスは流石である。これもまた薄い本の題材に・・・って私はどこの業者なんだ、おっと失礼!。


 アルス王子の軍勢は急ぎ王都アルサレムへと向かうのだった。


 



 同刻アルサレムでも驚きの報が知らされていた。


「アルサレム王!アドスバーンから使者が!」

「何!アドスバーンからだと!」


 王は驚き玉座から立ち上がる。そして大臣に諭され王は落ち着き玉座に座りなおすのだった。戦争中の国から使者が送られてくる事はそう珍しい事でもないのだがこちらは負けている国、通常ならば負けている国が使者を出し譲歩を引き出す物なのだ。


 なので勝利しているアドスバーンから先に使者がくる事はなかなかに貴重な物だろう。


 王はすぐに使者を通すように促すと軽装備の冒険者のような魔族の男が玉座の間へ案内され中央に立ち文を取り出すと王や周りを見やる。そして王が頷くと文を読み始めるのだった。


「では読ませていただきます。『ご機嫌いかがだろうかアルサレムの王よ、こちらは上々だ。挨拶もそこそこに本題に入ろう

 私はアステリアの領主ツヴァイを気に入った。そして[元アステリア]の者達もだ。この者達は誰もが共に分かち合う事を忘れずに補い合っている。しかし今回残念なことに私はアステリアを手に入れてしまった。

 だが間違った事をしたなどとは思っていない、お前達人間はいつの世も弱者を蔑み従わせようとする、それが許せん。だから攻めたのだから』」


 アドスバーンの手紙からは切実な言い訳のような理由が書きなぐられている。しかしそこには嘘はなくただただツヴァイとアステリアの人達を褒める言葉が並べられていた。


 本当はツヴァイの代わりにジーニの名前が入るはずだったのだがジェイラに指摘されて書き直したらしい。


「『少し脱線してしまったな。これは私のお願いであるがそれを断るのであるならば私はアルサレムを自ら滅ぼしにいくだろう、すぐにだ! アステリアの領主ツヴァイとその息子をアステリアの王と王子に、つまりはアステリア王国の建国を望む』」

「「「「「建国!?」」」」」


 アドスバーンへ助言したジェイラの策略が文に書かれていた。アステリアを王国にすることでアルサレムとは関係ない所で同盟を組むことが可能になるのだ。そしてゆくゆくはアステリアを自分の属国へと変えていくと言うのがジェイラのシナリオであろう。


 玉座の間にはツヴァイも控えていた。ツヴァイは青ざめ王を視界に入れる。とてもじゃないが王を直接見る事はできなかった。守るべき王を盾にお前が王になれと訳の分からないことをいわれているのだ。ツヴァイが困惑することはしょうがない事だった。


 王や王の近くで控えていた大臣達が俯く、するとアドスバーンの使者がその沈黙を破り話し出した。


「期日は明日までに、私は明日にはアドスバーンへの帰路に立ちます」


 王達はその言葉を聞きすぐに後方の円卓の間へと足を運んだ。


 使者は城の応接の間に泊まってもらう予定で案内されていった。


「ツヴァイよ。どう見る?」


 円卓に座るは王、ツヴァイ、第一騎士団団長クァンタム、大臣のバンである。


 本来はここにアルスとエルエスもいるのだが今アステリアから転進している頃なので来れるはずもない。


「私は・・・王を守る者です・・それ以上でも以下でもありません」

「そう言ってくれるか・・・・騎士団長、アドスバーンの総攻撃を受けてアルサレムはもつか?」

「・・・・守って見せます」


 騎士団長のクァンタムは少し考えて答えた。クァンタムの表情を見て王は頭を抱える。確実に守れるという保証はないクァンタムは自分の力のなさに握りこぶしから悔しさを滲ませた。


「王様、これはアドスバーンの策略ではないでしょうか?」

「それはどういう意味だ?」


 大臣のバンが椅子から立ちあがり声を張り上げる。


「ツヴァイ殿をアステリアに行かせ、王国をつくるという事を強要する。いう事をきかなかったら滅ぼすという事ですからツヴァイ殿が建国せねば滅ぼす理由をアドスバーンが得られるのです」

「ふむ、要求をのまないことが前提という事か・・・・」


 大臣は見事にジェイラの罠にかかった。だがこの罠には逃げる術がないので仕方のない事だが。


 そして王は顎に手を当てて考えている。大臣の言葉に嫌な予感を感じたツヴァイは気が気ではない。このままでは自分が王になるかもしれないのだ。


「ツヴァイよ。涙を飲んでくれ・・・・私の盾から友になるのだ。受けてくれるか?」

「友・・・・そんな事を言われたら……断れません」


 王はツヴァイに握手を求めそれにツヴァイも答えた。ツヴァイの顔は青ざめたままだがどこか清々しい様子だった。


「しばらくアステリアはアルサレムと同盟国という事になる、いいか?」

「わかりました、ですが建国してすぐにアドスバーンに奪われるのでは」

「それはないだろう。それに本来ならばこんな交渉無くてもいい物なのだ。力であちらの方が勝っているのだからな。本当にアステリアの者達に心奪われたのだろう。しかしそうなるとアルサレムも偵察されていたということか・・・」


 王は顎に手を置き考えている。アステリアの人達を見ていたという事はアルサレムに来ていたという事なのだ。敵にずっと見られていたという事は先手をずっと譲っていたということだ。情報戦とは戦争の基礎、これで負けていた時点でこちらの負けが見えていた。


「そうですね・・・・。警備も考えなくてはいけません。しかしツヴァイを手放すのはアルサレムとしてかなりの痛手それが策略の一部だったら」

「大丈夫ですよ。アルサレムが危ない時には私自ら赴きます」


 大臣のバンは警備について何か案があるのか考えてから新たな問題のツヴァイの流出を挙げた、だがそれは杞憂に終わる。アルサレムの王とツヴァイは熱く握手を交わす。ツヴァイは戸惑いながらもこの運命の歯車に乗る事を選んだ。


 そんな大事が始動している事も知らずにジーニはアステリアへ向かっていた。そして30分ほど飛んでいるとアルス王子の軍勢を見つける。


「アウ?」


 あれれ?アルス王子帰っちゃうの?アルサレムに帰るとしても3日はかかるんじゃ?。ジーニは首を傾げる。アルス王子の表情をうかがう事が出来たのだが余裕のない険しい表情だった。折角のイケメンなのに・・・。


 アルス王子の軍勢は急いでいた。その為騎馬とそれに追いつけずに引き離されて行く槍兵達、更にその後方に訓練もそこそこだろうなという感じの民兵が歩いていた。息も絶え絶えで今にも倒れそうになっている。


「ブ~」


 アルス王子は部下も管理できないの?。そんなに急いでどこ行くんだよ~。仕方ないから槍兵と民兵に回復とバフかけてあげよう。


「アウパウ~」


 僕は広範囲に[ハイパワー]の魔法をかけた。効果は名前の通りパワーが上がります。もちろん僕は初めてかけたのでまさかあんな効果になるとは思わなかったよ・・・てへ。


「「「「うお~~~~~」」」」


 槍兵と民兵の勝鬨のような声がここら一帯を覆った。そして歩きのはずの槍兵と民兵はアルス王子達の騎馬兵のすぐ後方へ追いつき見事な隊列を成していた。


 僕は少しやり過ぎたと思いながらもアステリアを見に行く。アルス王子は戻って行ったけど、アステリアで何かがあったのではと思ったからだ。そしてアステリアの上空へ着き神眼で建物を調べていくと驚く事に誰もいなかった。


「ウ?」


 僕は不審に思いしっかりと一つ一つの建物を調べていったけど神眼がおかしくなったわけではなく確かに誰もいないのだった。僕はアステリアにいても仕方がないと思ってアルサレムへと帰還するのだった。






「ここは?」

「ツヴァイの屋敷よ」

「あなたは・・」

「メリアよ。あなたのお名前は?」

「私はデシウス・・・メリア..様」


 デシウスはベッドから体を起こす。


 気絶していたデシウスを運んできたのはもちろんアステリアのキーファである。キーファはすぐにツヴァイ邸へと運んだ。その後も帰らずに居座っているのはデシウスが気になっているからであろう。


「ではあなたがジーニ様のお母様・・・・女神様なのですね」

「ええ?」


 デシウスは輝く目でメリアを見ている。メリアは女神と言われ悪い気はしないもののなんのことかと困惑している。


「私はジーニ様の信徒です女神様。ジーニ様はどこに?」

「あれ?僕、おかしな人連れてきちゃった?」


 キーファは自分の目を擦り、耳をほじり周りを見てそう話す。キーファは悪くないただ単にデシウスのジーニを思う心が強すぎるのだ。


「・・・ジーニ様は今アステリアへ行っていますよ」

「え?嘘、行き違い・・・」


 少し嫌そうな顔でシリカがデシウスに答える。デシウスは見てわかるほど落胆した。シリカはジーニに悪い虫がついたと警戒しているようだ。


「ん、この人ロクーデの手先..かも」

「「「!?」」」


 キーファ以外のその場にいる全員が隠し持っていた武器を構えた。キーファは戸惑っている。キーファはロクーデの事を知らないので致し方ない。


「・・・確かに私はロクーデの...ですが私はジーニ様の..いえ、神様の信徒です」

「「「「「神!?」」」」」


 これにはキーファも反応した。ジーニの事を神と言ってのけたのだ驚かないなんてことはあり得ない状況である。


「ん、ジーニ様を尋問しなくちゃ」

「・・そうね。あの人の子だもの。血は争えないわ」


 ついでにツヴァイも傷つくことになってしまったがメリアの証言は嘘である。ツヴァイはモテていたが手は出していない生涯メリアだけを愛していた。まだまだ相談もなしにジーニをアステリアに行かせたことを根に持っているのだろう。


「ジーニ様って1歳だよな?」


 少し蚊帳の外のキーファは呟くのであった。


 ジーニが帰ってくるまでメリア達はロクーデの話やアステリアで起こった話をデシウスに聞き会話に花を咲かせるのだった。

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