ミドウと黒田班
「警察学校の同期でな、くされ縁というかよくバディを組んでた。昇進試験も同じく合格したんだが、警部補の試験日と張り込みが重なってな、アイツが先に警部補になり、今の班の班長になったんだ 」
「そうなんですか」
これはまた意外な答えと経歴が帰ってきたなとマキは思う、班長は同期の部下だったなんて。
「マキくん以外の連中と俺とヤツの五人で班を組んでてな、いくつか事件を解決したよ」
マキは、黒田班のメンバーを思い浮かべる。
人のよさそうな門間巡査部長
短気な玉ノ井巡査部長
何を考えているか分からない三ツ法寺巡査長
そして班長の黒田警部補
それが今の壱ノ宮警察署、刑事課黒田班のメンバーである。
「西御堂さんは、なぜ警察官を辞められたのですか? 」
「ミドウでいいよ、そっちの方が耳慣れている。そうだな、考え方がユニークだったんだろうな」
「ユニークですか」
「我々警察は防犯と事件解決が仕事だろ」
「はい」
「事件が起きないように、防犯にチカラを入れすぎると民事介入が過ぎて、市民に迷惑となる。だから事件が起きてからしか我々は動けない、つまり言ってしまえばほとんどが出遅れな事ばかりなんだよ」
班長の言葉にマキは交番勤務のとき何度も被害を受けた方に詰られたことを思い出す、何で事件が起きる前に犯人を逮捕しないんだって。
それは刑事課に移っても変わらない、警察官である以上ついてまわる悩みだ。
「ミドウは被害を受けた方々に感情移入し過ぎたんだろうな、どうしたらもっと事件が起きないように出来ないかと悩んでいた」
「真面目な方なんですね」
今日見た感じではとてもそうとは思えない、むしろ軽くてドジなイメージでそんな繊細なことを考えていたとは意外だった。
「真面目かどうかはともかく、ある事件をきっかけに退職をして、今の仕事になった」
「ある事件とは何でしょうか」
その質問にクロが答えてくれる前に署に着いたので、この話しは打ち切りとなった。
※ ※ ※ ※ ※
クロとマキは刑事課長に今までのことを報告、マキは現場を汚すという失態を叱られてその後、始末書を書くハメになる。
クロはもう一度現場と病院へと向かい、ミドウが病院を抜け出して行方不明となっている知り、憤慨した。
※ ※ ※ ※ ※
事件の報告書と始末書の作成に忙殺され、出来上がった頃にはすっかり遅くなって、夜になっていた。
宿舎に戻るまで持たないと思ったマキは、非常食用のオニギリとお茶のペットボトルを鞄から取り出し、遅めの夕食を会議室で摂ることにした。すると、
「おっ、なんだいたのか。なんだなんだコンビニのおにぎりかよ、わびしいなぁ、おい」
無遠慮な言い方をして同じ班の先輩、玉ノ井巡査部長が入ってきた。
マキはせっかくお気に入りの季節限定塩麹の焼き鮭入りのオニギリだったのに、一気に美味しくなくなる。
「玉ノ井部長お疲れ様です。報告書の作成に時間がかかったんですよ、宿舎に帰る前に何か腹に入れないともたなかったんです」
「刑事の仕事なんてこんなこと当たり前だぞ。弱音吐くくらいなら辞めちまえ」
ちょっとお腹が空いて食べてただけなのに何でこんなこと言うんだろう、玉ノ井さんは普段から何かと突っかかるし、すぐに辞めてしまえという。マキはそれがイヤだった。
普段なら黙っているが、失態をおかして始末書を書いたうえにお腹が空いてイライラしていたこともあって、珍しく言い返そうとした。
「遅くまでお疲れさん。刑事の仕事は不規則だから、こういう時のために非常食持っているなんて、さすがだね」
すんでのところで人の良さそうな声が割って入ってくる。門間巡査部長だった。
「カドマ、甘やかすなよ。マキがつけあがる。オレくらいの言い方で、ちょうどいいんだよ」
「別に甘やかしていないさ。マキくんは頑張っていると思うよ。それよりタマ、さっきの喧嘩の件、報告書上がったから確認してくれ、いいなら班長に渡すから」
そう言いながらカドマはタマに報告書を渡し、受けとって目を通す。
「あ、ハンコ、机の中だった。しょうがねぇな」
ぶつくさ言いながらタマは会議室を出ていく。
マキはホッとしながら、心残りだったお握りの残りを食べきると今日も塩麹の焼き鮭は美味かったと思い 、ペットボトルのお茶を飲みひと息ついた。
「門間部長の方も片付いたのですか」
「ああ、僕達の方は酔っぱらい同士の喧嘩だからすぐ片付いたよ。そっちはどうだった? どんな事件だった」
「証拠品を返して帰る途中に通報がありまして、班長と私が現場に行ったところ、その家の玄関が開いていて、中に男の人が倒れているのと、家主の御遺体それから家主の奥さんが取り乱しているところでした」
話を聞いたカドマが眉間にシワを寄せる。
「ひょっとして倒れている男の格好は白の上下スーツで黒いシャツじゃなかったか」
「よくわかりましたね、その通りです」
「やっぱりミドウさんか」
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