ユニークな男 その4

 3階のナースステーションまで来ると、案内図で310号室を探すが見当たらない。301から384をとばして308の7部屋しかない。

 忙しくしている看護師をひとりつかまえ何処にあるか訊くと、階段横の用具室を指された。


「ミドウさんはしょっちゅう来るから、用具室を整理して専用のベッドを置いてあるんです」


 なるほど、馴染みの常連とはそういうことかと、マキは納得する。


 用具室の前に着き、ノックをして入ろうとすると、中から声が聞こえてきた。


「起きろ、たわけ者」


 黒田の声だった。なんとなく入るタイミングを失い、マキは中の様子を伺う。黒田は少しイラついた口調だった。


「う〜ん……なんだクロか。ならもう少し寝るか」


「人を呼びつけておいて寝るな、起きんか」


「もう御遺体を発見したんだろ、じゃあオレの役目は終わったからいいじゃん」


「終わってねぇよ。なんであそこに御遺体があると分かったんだ? なんで部屋に入り込んだんだ? それをきいてからだろうが」


「そんなもんテキトーに書いとけよ」


「できるか」


 廊下で聞き耳をたてていたマキは、こんなにくだけた話し方をする黒田をはじめて聞いて驚いていた。


──どういう関係なんだろうあのふたり──


「先生、コイツの容態はどうなんです」


 黒田は隣に立っている女医に問いかける。


「後頭部の軽度の打撲──ようするにタンコブができたくらいですね。入院の必要もないです」


「だとよ。ほらさっさと古巣に行くぞ」


「なんでだよ、ここでいいだろ」


「状況を説明しろって言ってるんだ。お前の通報で来てみたら室内でぶっ倒れているわ、御遺体はあるわ、唯一の関係者は話が通じないわでは何にもわからないんだよ」


「そんなの自分で調べろよ」


「今それをやってるんだよ、お前相手に。──ゴネると不法侵入容疑で逮捕するぞ」


「わーったよ。あそこは田中畦道・弘美夫婦の家で、夫の畦道氏が依頼人。家に異変があったら来てほしいと言われてたんだ」


「──御遺体が畦道という人なのか」


「ああ。これで不法侵入容疑は晴れたな。じゃ、あとは任せるわ。先生〜、やっぱりアタマが痛いですぅ、これはやっぱり精密検査をするために一泊したほうがいいですよぉ~、あ〜痛い痛い痛い……」


 仮病だとわかっていても、そう言われては仕方がない。女医はやれやれと思いながら入院を許可した。


※ ※ ※ ※ ※


 ここまでのやりとりを廊下で聞いていたマキは、今が入るタイミングだなと思い、思いきってノックをして扉を開けた。


「失礼します。班長、聴き取りしてきました」


 マキはそう言いながら中の様子を見て、内心困惑していた。


 狭い室内の大部分を占める簡易ベッドと端の方に置いてある様々な医療機器、なるほど用具室だなと納得する。

 そのベットの上で寝ているのがミドウで、横で立っているのが黒田と白衣を着た女医だった。首から下げているIDホルダーには宮裏と表示されている。

 セミロングヘアに丸メガネ、理知的な顔はなるほどお医者さんだなとマキは思った。


「誰、このコ?」


 ミドウがマキをじろじろ見ながら黒田に問いかける。


「お前の後釜だよ。マキくん、コイツがミドウだ。白い馬鹿と覚えてくれればいい。こちらは主治医の宮裏先生」


「主治医じゃありません。皆んな嫌がるから押しつけられているだけです」


 心外だわとばかりに宮裏はキツい言葉を言う。

 その言葉をどこ吹く風と聞き流し、ミドウはマキに話しかける。


「マキちゃんか、よろしくね。ふーん、ということはクロのバディか、大変だねぇ、コイツきついだろ」


 初対面でちゃん呼ばわりされて、上司をコイツ扱いしたミドウにマキは嫌悪感を覚えた。軽く会釈したあと無視して黒田に報告をする。


「……自然死の可能性が高いか……それとお婆さん、弘美さんは聴き取りは困難と……」


 黒田はしばらく無言で考えをまとめていたが、宮裏先生にお婆さんの処遇を訊ねる。


「とりあえず入院してもらい様子を観察します。そのうえで診断書を出しましょう」


「お願いします。こっちの仮病はどうします」


「詐病で一泊でしょうね」


やれやれという感じでこたえるのを聞いて、黒田はミドウに言う。


「だとよ。ここでお前と漫才やってるわけにはいかないから戻るが、裏取ってくるから後でちゃんと話せよ」


「わーったよ、頑張って仕事してきてね〜」


そう言うとミドウは布団をかぶり背を向けて、わざとらしくイビキをたてる。

 やれやれと思いながら、黒田とマキは宮裏に挨拶をすると署へと向かった。


※ ※ ※ ※ ※


 帰る途中、マキは好奇心が抑えられず黒田にミドウとの関係を訊ねた。黒田はため息をついたあと話しはじめる。


「西御堂志郎、通称ミドウ。元同僚で上司だったヤツだ。今は探偵をやっている」


「班長の上司だったんですか」


それにしてはくだけた話し方だったなと、マキは不思議がる。

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