第5話 事後報告

 「──なるほど、まぁ生存はしてないと踏んでいたが。外れて欲しかったね」

 執務机に並べられたプレートを見下ろしながら初老の男は言った。ククルガギルドマスター、ミレニアルである。

 「ストッパーが居なかったのと実力が余り蓄えていなかった事。イレギュラーを除いた場合、近い将来に迷宮ダンジョンに淘汰されていたと個人の推測だ」

 来客用のソファに座り背を丸めながら話すグリムレッド。

 「だが殺られちまった。事実全滅、予想外の事を想定しろとは言うが、それは経験を積んだ者しか分からん。擬は鬱陶しいしな」

 「自分達でビッグキリングの達成、つまりは大物にでもなろうとしたが返り討ち。あと、少し調べたがククルガの外から来てるな?」

 「ああ、中位のボンボンだ」

 「新人でレッサードラゴンを倒せば、それなりに良い宣伝にはなるな」

 「これを好機と捉えて邁進してって名を馳せていたかもね~」

 「……まぁ、本人達はもうこの世には居なくなったがな」

 グリムレッドが含みを持たせた言い方をする。冒険者クエスターになる、貴族の子息や良質な育ちをした者はそれの辛さを知らない。従者を付き従え、金で物を言わせ買い揃え、酒場のろつき達からは遠回しに馬鹿と揶揄される。

 件メンバーの中にそれは居たのか、はたまた連れて来なかったのか。

 「報酬に移ろうか。死んだ奴らの過程やらなんざは結局推測でしかないからな」

 「確かに、それで報酬の話だが──」


 * 


 「遅い!!」「遅いぞ!!」

 「……、すまなかった」

 昼過ぎ。昼食時に子寺院に来たグリムレッドに子供の容赦ない言葉がとんだ。

 ある子供は腰に手を当て怒り、ある子供は木の枝でペチペチ叩き、またある子供は修道女シスターに隠れ不貞腐れる。

 「もうおよしなさい」シスターが止めに入るが、子供は納得しない。それどころか、

 「シスターがいつも約束を破ってはって毎日言ってるのに。赤先生はずるした」

 「それには事情が」

 「修道女シスター止めないでくれ、コイツらの言う通りだ」

 「畑作りもうしちゃったぞ!赤先生居なかったら大変だったぞ!」「だぞ!」「上手いの寄越せ!」「寄越せ!」「ダークエルフ会わせろ!」

 「おいちょっと待て、今何か関係ないこと言った奴居なかった?」

 「反らした!」「汚い!大人!」

 「あー、詫びの物なら一応あるが……欲しいか?」

 そう聞くとくれとせがむ。一種小空間ザフトから小袋を取り出す。

 何だ何だと袋に興味を示す。袋の中には赤い粒が入っていた。グリムレッド曰く、迷宮ダンジョンで見つけた物。植物の種との事。

 「作戦タイム!!」この申し出にグリムレッドは「認めよう」の一言。集まった子供はひそひそと話し合いを始める。

 心配そうに目配せするシスター。

 さて、と腕組みするグリムレッド。

 話し合いを終え1人前に出てくる。小さな手を差し出す、合意の握手と言う意味だろう。それに答えるように繊細な力で手を握り、握手。子寺院の子供たちの怒りを無事静める。

 「これ植えよ!」「やろやろ」「ろー」

 ぱたぱたと走り去って行く。

 「すみません」

 シスターが頭を下げ子供たちの謝罪をする。これに対しグリムレッドは「いや、むしろ子供の相手は個人的に救われる」と返す。

 何かを察したがこれ以上彼女は詮索をせず子供たちの後を追って行った。1人残されたグリムレッドは自分の左手の平をじっと見たりする。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る