02 ダーティ・ウイング

「おい」

「あ゛ぁん?」

日も落ち始めた頃。

道端で寝転がる酔っ払いを起こし、声をかける。

俺は今、街の外れにあるスラム街にいた。

蛇の道は蛇――人さらいの情報収集を行うには、こういう場所がちょうどいい。


「この女を見たことはないか」

そう言って、奴から受け取ったビラを突き付ける。

「何だぁ?随分小奇麗な嬢ちゃんじゃねぇか……うへへ、俺もこんな女となぁ……」

ダメだ、話にならん。

俺はため息をつくと、足早にその場を後にする。


しかし、俺は一体何をしているんだ。

冷静に考えてみれば、あいつに付き合う必要性などどこにもない。

俺には、俺の目的がある。

そう。奴を、アマノ・タクトを――いや。あの悪魔ハイヴァンドを殺すことだ。

それも、ただ単に殺すのではない。『時』を司る聖剣を手に入れ、奴が生きていた歴史すらもこの世から消してやる。

その為なら、手段は選ばない。例え誰を巻き込もうが、何を犠牲にしようが知ったことではない。

だが、現にこうして、俺は奴の手助けをしてしまっている。

何度ばっくれようとしても、


『大事な……人なんです』

あの言葉が、奴の表情かおが。その度にフラッシュバックする。

ああ、何なんだ、まったく。


「ってぇな!どこ見て歩いてやがる!」

そんなことを考えて歩いていると、怒声が俺の意識を引き戻した。

目の前には、二人組のいかにもチンピラ、と言った風貌の男たち。


「すまん。考え事をしていた」

「あ~あ~、いてぇなぁ!折れちゃったかもしんねぇよぉ?」

「大丈夫ですか、アニキ!?」

大げさに肩を抑え、うずくまるアニキと呼ばれた男。

なるほど、当たり屋か。どんな世界でもこういう輩はいるものだな。


「こいつは治療費払ってもらわねぇとなぁ?」

「そうだそうだ、さっさと出すもん出しやがれ!」

今時見ないほどの茶番劇に、俺は思わず失笑してしまった。

面倒だから、相手はしないでおこう。

「待てよ」

しかし、立ち去ろうとする俺の肩を舎弟の男が掴む。

チラリと振り返ると、その右手には光るものが――ナイフが握られていた。

「痛い目見たくはねぇだろぉ?」

それをちらつかせながら、にやにやと笑う男。

それに対し、俺は答える。「やるならさっさとしろ」、と。


「んだとこの野郎!」

安い煽りにまんまとはまり、ナイフを突き出してくる男。俺はそれを身を返しつつかがんで躱し、

「ごぼぉっ!?」

右脚を踏み込んで体重を乗せた肘打ちを一撃、腹へたたき込んだ。

そしてすぐさま反対方向に回転、後ろ回し蹴りを入れて壁面まで吹き飛ばす。


「て、てめぇ!」

それを見た兄貴分の男は演技も忘れ、こちらへ向かってきた。

俺は先ほどの男が落としたナイフを拾い上げ、迫りくる拳と同じ高さへ構える。

すると。

「ぎいゃああああっ!」

速度の乗った拳が刃へ深々と突き刺さる。噴水の如き出血と激痛に、男は大声を上げてもだえ苦しんでいた。


「フン。命があるだけありがたく思え」

俺はそう言い捨てて立ち去ろうとしたが――ふとその足を止める。

そして壁面でへたり込む舎弟の男の側へと近寄り、その髪を掴んで無理やり顔を上げさせると、


「ついでに聞いておく。この女を知っているか」

あのビラを見せ、尋ねた。

まぁ、どうせ無駄に終わるのだろうが――半ば諦め混じりに聞いてみただけだ。それならそれで構わない。

しかし――


「ししし、知ってます……ぅ」

予想外の答えが返ってきた。

俺はさらに詰め寄る。「本当なのか」と。


「は、はい……何せ、その女攫ったの、俺たちですから……」

ほう。これは思わぬ収穫だ。俺は髪から手を離し、今度は首を締め上げる。


「なら、洗いざらい話せ。言わないなら――わかっているな?」

「ひぎゅ……は、はいぃ……」



「……なるほど。それで全部か」

「へ、へい」


数分後。全てを吐かせた俺は手帳に情報をまとめ終え、立ち去る準備をしていた。

だが、その前に一つだけやっておくことがあった。

俺は拳を固く握りしめ――


「ハァッ!」

「へぶっ!」

男の顔面を、勢いよく殴りつけた。個人的な俺の怒りをぶつけさせてもらったのだ。


「こいつは礼代わりだ」

そして踵を返し、その場を後にする。

約束の時間は、近い――

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