対決!源氏物語ヤロウ④

「小夏をよろしくな。って、俺が言う事でもないけど。」

俺が小夏との付き合いを断ったあと。

小夏が来るのを待たずに、源氏物語ヤロウは大きく息をついて、立ち上がった。

「会わなくて、いいんですか?」

「ああ。会わない方が、いいんだ。小夏はきっと、ウツセミだから。」

「・・・・ウツセミ?」

「可愛いウツセミに、宜しく伝えておいてくれ。」

そう言って、源氏物語ヤロウは帰って行った。


だから、ウツセミって、なんなんだよ。


家に帰るとすぐ、俺はネットでウツセミを調べた。

源氏物語ヤロウが言っているんだから、きっと源氏物語に出てくる女だろうと思って検索したら、ビンゴ。

空蝉。

光源氏に一度は身を許してしまったものの、その後は頑として拒み、夜這いにきた光源氏からも小袿だけを残して逃げた、という女。

・・・・人妻だった、ってのと、実は光源氏のことを憎からず思っていた、ってのはともかくとして。

源氏物語の人物で例えるなら、源氏物語ヤロウが光源氏で、確かに小夏は空蝉なのかもしれない。

アイツが元カレであることは確かだし、もし今、アイツが小夏に言い寄ったとしても、絶対に断るだろうから。

でも。

小夏は空蝉なんかじゃない。

人妻でもないし、源氏物語ヤロウにも未練は無いはずだ。

小夏は今、俺だけの彼女で。

小夏のことだけを好きでいる俺の事が、好きなんだから。


ピコン、と、スマホがメッセージの受信を知らせる。


【わたしは、空蝉じゃないからね。】


小夏からのメッセージだ。


【わたしは、小夏だよ。】


文字通りに取るなら、

は?何当たり前の事言ってんだ?

となるところだろうけど。

俺、小夏が言いたいこと、なんか分かった気がする。

つーか、これって、以心伝心じゃね?!


【わかってる。】


返信すると、すぐにデッカいハートのスタンプが届き。続いて、


【爽太くん、大好き!】


のメッセージ。

俺も負けじと、メッセージを送り返す。


【俺も、小夏が大好きだ!】


・・・・なんだ、このバカップルなやりとり。


ニヤニヤと幸せ気分に浸りながらも、俺は、源氏物語ヤロウのことを思っていた。

アイツはアイツで、アイツのやり方で、好きな女を大事にしていたんだろう、きっと。

俺には到底理解できない恋愛スタイルだけど、だからと言って、全否定することはできない。

それくらい、アイツは真剣だった。

だから、アイツがゲスヤロウじゃなくて、本当に良かった、と。

そしていつか、アイツも分かりあえる誰かと幸せになれればいいな、と。

心から、そう思った。

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