嫉妬 Challenge 1-4

「なんだよ、なんか用か?」

「別に~。ただ、通りかかったら偶然、女子をお姫様抱っこしてる男が見えたからさ。」

ニヤニヤ笑ったまま、彩は言った。

「校内でそんなことしてるバカップルはどこのどいつかと思って見たら、あんただったんだもん。しかも、抱っこしてるの、彼女じゃないし。これは話、聞かない訳にはいかんでしょ。」

そんな訳で。

と言って、彩は俺の腕をつかみ、歩き出す。

「ちょ、ちょっと待てよ、彩っ」

「話ならゆっくり聞くからさ。」

「そうじゃなくて、俺、今日バイト!」

「・・・・マジで?」

ようやく足を止め、彩は不機嫌そうに俺を見る。

「じゃ、バイト終わったら連絡な。いつものとこで待ってるから。」

言うなり俺の腕を離し、返事も待たずに行ってしまった。

その、ほんの一瞬。

制服の袖口から、痣のようなものが見えた気がした。

「あいつ、まだ・・・・」

思わず、そう呟いてしまう。

めんどうなことになりそうだ、とは思いつつも、これですっぽかしでもしようものなら、後で何が起こるかわかりゃしない。

それに、アレを見てしまった後じゃ、すっぽかす気にはなれないし。


まったく、もう・・・・

なんて日だ!


どこぞの芸人ではないが、本気でそう叫びたくもなる。

仕方なく、バイト終わりに彩にメッセージを送り、俺はそのまま家の近所にあるファミレスに向かった。


立花 彩は、幼稚園時代からの幼馴染みだ。

腐れ縁、とも言う。

今でこそ俺の方が背が高いが、小さい頃は本当にチビだった俺を、彩はいつも守ってくれていた。

もはや、兄弟のようなものだ。

あえて言う。

姉弟ではなくて、兄弟だ。

ルックスはそう悪くないものの、あまり見てくれには構わない。

おまけに、ざっぱでガサツ。

面倒見がいいのは変わらないし、俺にとって彩は特別な存在ではあるものの、これは性別を超越した好意だ。

多分、彩も同じだと思う。

だから、小夏と付き合っていることも、彩にだけは話していた。

彩も時々、彼氏の話を俺にする。

問題大アリの、彼氏の話を。


「よっ、お疲れ。」

ファミレスに入ると、彩は既に席について、ドリンクバーのカルピスを飲んでいた。

「お待たせ。」

俺もドリンクバーを注文し、とりあえずコーラを取りに行って、彩の向かい側に座る。

「で、何で椎野じゃなくて片岡をお姫様抱っこなん?」

バイト終わりの疲れた俺に一息つかせてあげよう、とかいう優しい気持ちは持ち合わせてないようで、彩はすぐに身を乗り出して聞いてきた。

心配している、というより、興味津々な様子だ。

「別に、大した理由じゃねえよ。」

彩に構わずコーラを飲んで一息ついてから、俺は答えた。

「片岡が教室の時計の電池取り替えようとして、脚立から落ちたから、受け止めただけだ。」

「へ~。」

ニヤっと笑い、彩は言った。

「そもそも、なんで片岡がわざわざ時計の電池なんか替えるわけ?」

「・・・・そういや、なんでだろ。」

「鈍いねぇ。」

「なにが。」

テーブルから体を離し、背もたれに体を預けて、彩は言った。

「好きだからだよ、爽太のことが。」

「は?」

「ほんと、鈍いな。片岡は、わざと脚立から落ちたんだよ。」

呆れたように俺を見る彩の前で。

俺は彩の言葉が理解できず、黙ったままコーラを飲み干した。

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