嫉妬 Challenge 1-3

最近、小夏はバイトが忙しいらしく、彼氏の俺を放置プレイだ。

なんでも、急にパートさんが数人同時に体調を崩して来られなくなってしまったらしく、今いるバイトが総出でなんとか回しているらしい。

今朝も、目の下にうっすらとクマを作りながら、眠たそうにしていた。


「大丈夫か?」

昼休み。

屋上で、久しぶりに二人で昼飯を食うことにした。

校舎の屋上は出入り自由だが、以外と穴場で、あまり人が来ることはない。

「うん・・・・もうすぐ、一人は復帰してくれるみたいなんだ。あとの人達も順調に回復してるみたいだから。」

そんなのメシになるのかと思うような、フルーツいっぱい、生クリームいっぱいのサンドイッチを旨そうに食いながらも、やはり笑顔がいつもより弱々しく見える。

「あんまり、無理すんなよ?」

「うん。ありがと、爽太くん。」

ちょっと、寝かせて。

そう言って、小夏は俺の肩に頭を乗せ、目を閉じる。

昼休みが終わるまで、俺はそのまま小夏を寝かせてやった。


帰りのホームルームが終わると、小夏はダッシュでバイトに向かった。

俺もバイトは入っていたが、まだ時間はある。

モタモタと帰り支度をしていると、脚立を持った片岡が教室に入ってきた。

「あっ・・・・竹本くん、まだいたんだ?」

「あ、あぁ。」

見れば、教室には俺を含めても数人しか残っていない。

「脚立なんて、何に使うんだ?」

「あれ。止まってるから。」

片岡が指した方にあったのは、教室の時計。

確かに、既に6限もホームルームも終わっているのに、時計はまだ13時過ぎになっている。

よいしょ、と脚立を時計の真下に置き、片岡はソロソロと登り始める。

「おい・・・・」

大丈夫か?

声を掛けながら片岡の方へ歩き始めたとたん。

「きゃっ!」

脚立がグラリとゆっくり傾き、片岡の体が宙に舞う。

「片岡っ!」

とっさに走り寄り、俺は片岡の体を受け止めた。

まさに、間一髪。

ギリギリのタイミング。

良かった・・・・

「大丈夫か?」

そう聞くと。

「だっ、大丈夫・・・・ありがと・・・・」

片岡は、顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で答える。

ん・・・・?

・・・・・・・・あっ!

気づけば、俺は片岡をお姫様抱っこしている体勢になっていた。

教室に残っていた男どもが、何やら囃し立て始める。

慌てて片岡を下ろし、倒れた脚立を戻して登り、壁の時計を取り外して、脚立に登ったまま片岡へと渡す。

「替えるんだろ、電池。」

「えっ、あ、うん。」

慌てた様子でポケットから電池を取り出すと、片岡は手早く電池を入れ替えて、再び時計を俺に手渡す。

受け取った時計を壁に戻し、俺は脚立を降りた。

「ありがと、竹本くん。脚立は私が戻すから。」

「そっか。じゃ、頼むわ。」

片岡がまだ顔を赤くしているせいか、なんだかこっちまで意識してしまう。

「ごめんね、重かったでしょ?」

恥ずかしそうに笑い、片岡はそう言ったのだが。


いや、小夏よりは軽かったぞ。


なんて、言えるはずもなく。

「全然。」

答えて、俺は鞄を手に取った。

バイトまでまだ少し早いけど、なんだかここにも居づらい感じだ。

「じゃあな。」

「うん。」

片岡は、遠慮がちに小さく手を降る。

片岡に見送られながら、俺は教室を出た。


これ、小夏が見てたら、絶対に嫉妬するシチュエーションだったんじゃなかろうか。

もう、なんだっていっつも大事なときにいないんだ、小夏は!


そう胸の中で毒づいていると。


「よっ、モテ男くん。」

すぐ目の前に、幼馴染みの立花彩が立っていた。

ニヤニヤと笑って、俺を見ながら。

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