にーご 不可視

 ロウソクに目を焼かれなければ見えない。

  ここにいますよ、という言葉の中へ数多くの人が呑まれた。


 大地は猛り、海嘯かいしょうはわたしたちを穴へと追いやる。

 だからこそ、うつむいた気を引かせる儀式として、目を焼く。


――ここにいますよ。存在の猛威を人々は許容できなかった。

――わたしは、絶対に許さないから。殺してやる。


 片目を焼いた女は、その存在を殺そうとしていた。不可視の視界とこの支点から蹂躙されたこの身を殻として、その全てを捧げた。

 一つの穴から爆ぜる炎があった。飛ばされた人々は荒々しい岩肌に叩きつけられる。

 

 命を捧げたところで、人の身で至れる場所は、所業は、大地を揺るがすに至らない。

 岩肌に出来たとそれに群がる多くの生き物を眼下におさめる。


――そうだ、今は喰らえ、喰らえ。

   わたしは、その覚悟は、この目に宿る――


 爆ぜた穴の中より立ち出でる女は目を焼いた。

  ここにいますよ。ここなどありませんから、目など必要ないのです。


 それを知り、雷鳴が耳を打ち体を撃ち、全てを焼き焦がさんと空が唸る。

 この生成変化は「わたしは不可視、存在よこの地へ示せ」と挑戦を受けた者の猛りであり、膨大な力を一点へ集中させる。


――わたしをここから剥がしてみろ。

   かつての穴倉はお前たちの住処だ!――


 落雷は落ちる声は弾くその点は焼かれたその女は睨んだ

 それらが一瞬で成されたから、女は微動だにせず眼下を望んだままだ。


 そうして静寂がやって来る。

 に群がる動物も、そこで爆ぜて同化した。

 生成変化は幻のように不可視だったが、それは確かにここにある。


――かつて焼いた目は、その目は、

   お前たちを焼き尽くし、その猛威を覆そう――


 その女の中で揺れ動く生と死の変化は、その不可視の変化は、世界存在の蠢きとちゃちな個人への愛着。

 この大地にまたがる全てのものが、ここにいました。

 そしてこの大地を締め付けた女が、ここをひらいた。

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