三度死んでも生き返るものってなんだ?

@Sippitu_suki

第1話 屋上での失敗

小麦原代々高等学校こむぎわらだいだいこうとうがっこうの屋上には、一人の少女と一人の少年がいた。

どちらも言葉を失ったように立ち尽くし、同じ空気を吸いながら、まったく違う緊張を抱えている。


少女の首筋、右側には小さなほくろがある。

曲線を描く鼻、薄いピンク色の唇。

丸みを帯びた輪郭は顎先に向かって静かにまとまり、

焦げ茶色のツインテールは柔らかく揺れていた。


村上純むらかみじゅんは、無意識に首筋を触った。

緊張したとき、決まってやってしまう癖だ。


——俺は、小春に告白する。絶対に。


そう心の中で繰り返し、少しだけ唾を飲み込んでから口を開いた。


「俺は、お前のすべてが好きでたまらない。付き合ってくれ。」


言い切った瞬間、世界が止まった気がした。


小春りんは、固まったまま動かない。

ただ、まっすぐに純を見つめている。


何かを言いたそうで、けれど言葉が見つからない。

そんな間が、屋上の空気を重くした。


——失敗か。


あれだけ決意したはずなのに。

風が吹き抜け、フェンスがかすかに鳴る。

小春は、緑色に錆びついたフェンスに背中を預けていた。

何年も前からここにあるような、古い金属の色だった。


純は小春から目を離せないでいた。

曲線を描く鼻が、やけに美しく見える。

天気のせいか、唇はいつもより湿っているように思えた。


小春は小さく息を吸い、ようやく口を開いた。


「あのね……純くん。実は私には、彼氏がいるの。」


そこまで言って、言葉が途切れる。

続きを言うべきか迷っているのが、はっきりと分かった。


純の胸に、驚きと、遅れて罪悪感が湧き上がる。


——本当かよ。

告白を断るための、ただの言い訳だろ。


正直なところ、純は小春のことをほとんど知らなかった。

家庭のことも、友だちのことも。

知っていたのは、よく笑う性格くらいだった。


「……彼氏がいるって、本当なのか?」


不安になると、相手を問い詰めてしまう。

その癖を、純自身いちばん嫌っていた。


小春は髪を右耳にかけながら、静かに言った。


「春樹くんと、付き合ってる。」


少し頬を赤らめている。

赤らめたというより、もともと赤いのかもしれない。


その名前を聞いた瞬間、純は宮内春樹の姿を思い浮かべた。

自分とは違い、ごく普通の家庭に生まれた少年。

剣道の全国大会で準優勝したこともある。

真っすぐな鼻筋に、整った二重の目。


純は、宮内に特別な悪感情を抱いていたわけではなかった。

ただ、ひどく恥ずかしかった。

先客がいることを、何も知らずに告白した自分が。


小春のぎこちない仕草や、固まった態度。

どこか不自然だと感じながらも、

純はそれ以上考える余裕を失っていた。


屋上から逃げ出したい。

その衝動に従い、純は短く言った。


「……わかった。終わりにしよう。」


それだけ言って、背を向けた。


幻想的な表情をした小春は、純の後ろ姿を見送りながら、屋上でひと息ついた。


小麦原代々高等学校の屋上には、古びたフェンスと水飲み場がある。

小春は水を少し飲み、何も言わずに階段へ向かった。


屋上に残ったのは、雨上がりの水たまりと、

締めきれていない蛇口から落ちる水の音だけだった。

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