第4話 SIDE 勇者パーティ ホブゴブリン討伐に向かうも…
付与魔術士マリクが王城を追われてから三日…。
一台の馬車が再び西へと王城を出発した。中には勇者グリウェル一行が乗り込み目的地に向かっていた。
「まさかあのゴブリンの住処の奥に別の群れがいやがったなんてなあ…」
勇者グリウェルは再びの討伐要請を聞くと、仲間たちと準備もそこそこに二人の仲間と王城を出発した。
「まあ、そんな事もあるんじゃない?すぐに数が増えるのがゴブリンとドブネズミって言うくらいだしー」
「そーそー!だから今回の群れにはホブゴブリンが目撃されたんじゃねーの?数が増えてくりゃあ強いヤツが出てくるらしいからな」
女賢者オボカ、戦士マケボも初陣の時のような緊張は無い。と言うよりは余裕があった。
前回のゴブリン討伐の際には予定外の大物オーガが三体も現れたが、彼らは手傷を負う事さえ無く一撃で倒していた。それと比べればホブゴブリンなど格下も良いところだ。ゴブリンよりは強い、そのくらいの認識である。
オーガの強靭な肉体は腕を軽く振るうだけで並の人間なら大怪我を負うし、逆に人間が力一杯斧を打ち付けても大した傷を与えられない。
そんなオーガを蹴散らしたんだから今回の討伐は楽勝だ、勇者パーティの誰もがそう思っていた。
□
「な、なんだこりゃあ!どうしてこんなッ!」
ホブゴブリンを相手取ったグリウェルが悪態をつく。前回討伐したゴブリンがねぐらにしていた洞窟に別の群れが移り住み始めたという情報を近くの農村を聞きつけ、グリウェルたちは意気揚々と洞窟に向かった。
洞窟に向かう道中、ゴブリン二匹を率いたホブゴブリンに遭遇する。
「よーし、まずは三匹まとめて駆除してやるぜ!」
そう言って聖剣を鞘から抜くグリウェル。だが、どうにも体が重い。と言うのもグリウェルたちは完全武装をしている。
そもそも鎧というのは重い物だ。特に騎士が戦場で身につけるような鎧は重い。ざっと四十キロはある。こんな物を装備して戦うのだ、強靭な肉体を、そしてそれに慣れる事が求められる。
だがグリウェルたちは一年前までは農民である。また、勇者選定の儀の後に訓練を受けたとは言えそれは四六時中鎧を着ていた訳ではない。
それでも前回のゴブリン討伐をやり切る事が出来たのはひとえに付与魔術士マリクのおかげである。強化術(バフ)と言われる肉体強化付与魔術(フィジカルエンチャント)、それを常にグリウェルたちにかけ続けていた。
普通の支援職では数分間しか継続しない強化術、ゆえに戦闘時だけ使うのが鉄則だ。そうでなければ術者の魔力がすぐに尽きてしまう。
だが、マリクはそうせざるを得なかった。と言うのもグリウェルたちが与えられていた初代勇者たちが遺したという武具に原因がある。
確かにそれ自体は伝説の武具と言うだけあって素晴らしい性能だった。ゆえにこの武具は使い手を選ぶ。単に身につける事は確かに出来る、だがそれは使いこなすのとは別の話だ。
非力な者が重い斧を満足に振るえないのと同様だ。しかも、この伝説の武具は使い手が一定の力や素早さを持つ者で無ければ真の力を発揮しない。
逆にその能力を有してさえいれば、その武具は力を発揮する。武具に真の所有者として認められるのだ。
その為、明らかに力不足なグリウェルたちにマリクは強化術(バフ)をかけ続ける必要があったのだ。だが、初代勇者たちが遺した武具は求める能力がそれぞれ違っていた。
例えば巨漢の戦士マケボが扱う両手持ちの戦斧であれば腕力が、女賢者オボカが持つ雷を呼ぶとさえ言われる杖は賢さと魔力が高くないと、使いこなせない。
そこでマリクは全能力強化(フルエンチャント)の魔法を使っていた。これは単に筋力を強化するとか、素早さを強化するとか限定的な効果ではない。肉体的な能力にとどまらず魔力などについても強化してしまう凄まじい強化術であった。
それゆえにこの魔法は魔力の激しい消費と精密な制御が求められる。さらに言えばそれを四六時中常に行っているのだ。マリクのケタ違いの実力がこのあたりからも垣間見える。
これなら誰にどの強化魔法を使うか試行錯誤する必要も無いし、何か問題が起こっても
確かに真の力を引き出せなくてもそこは伝説の武具、並の武具よりはるかに強い。
「ぐはあっ!!」
「うぐおおっ!」
ホブゴブリンが持っていた棍棒をなぎ払うと盾を構えていたグリウェルと厚手の重装鎧を着込んだマケボが二人まとめて簡単に吹っ飛ばされ地面を転がる。
普通なら地面を転がっている敵を見て残忍なホブゴブリンは追い討ちをかけるなどするものだが、あまりに弱いせいかホブゴブリンはグリウェルたちに興味すら示さない。
それどころかグリウェルたちが持っていた背負い袋をあさり、干し肉を見つけるどそれを嚙(かじ)り始めた。もはやグリウェルたちに用は無い、持ってきた荷物の方が余程価値があるとばかりに。
その隙に女賢者オボカが回復魔法をかけるが、普段と違いその効果は薄い。なんとか立ち上がれるくらいにはなった。だが、とても走れる状況ではない。全速力でヨタヨタと少し早く歩くくらいの速度が精一杯、そんな有様でグリウェルたちはその場を離れる。
「きょ、今日はたまたま調子が悪かっただけだ!」
誰か聞いてる訳でも無いのに捨て台詞を残してグリウェルたちは退却した。こうして勇者たちの二度目の出陣、マリク抜きの戦闘は大惨敗に終わったのである。
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