第3話 王城から追い出されたので俺はエンチャントを解除する


 俺は王城内に与えられていた居室に戻り荷物を整理する。整理と言っても荷物はひとまとめにしている。もっともここにあるのはどうでも良い…安物の予備の武器や道具ばかりだが…。


 これはあえて言えばダミーだ。留守中にこの居室の持ち物に何かされるかも知れないし、うかつに魔力付与(エンチャント)を施した物など置いていたら最悪の場合盗まれるかも知れない。

 

 と言うのもエンチャントされた武器は貴重なのだ。魔術士によっては使う事が出来る武器魔力付与(エンチャンティッドウェポン)の魔法はその武器の威力を増し軽く扱い易くする。つまりは単純に武器を使った物理戦闘が有利に運ぶ。

 さらには霊体の敵など通常の武器では傷付ける事はおろか触れる事さえ出来ない敵に効果を及ぼす魔法の武器となる。

 

 そんな有用な武器魔力付与の魔法であるが残念ながらその効果は数分で効果が切れてしまうのだ。

 だが、俺は付与魔術士(エンチャンター)。それも古代の魔術士に匹敵するような実力があると師匠には言われている。古の付与魔術士は様々な効果を武具や道具に付与する事が出来る。それも永続的に。


 永続的に魔力が宿った武器が発見されれば、それが小ぶりなナイフ程度でも高値で取引される。それが長剣ともなればさらに値が張る。


 さらにはそんな物が作れると知れれば狙われるかも知れない。だから俺はあえてバフと呼ばれる肉体強化にとどめた。

 そしていざとなれば勇者の力が奇跡を起こしたという言い訳が立つように聖剣をはじめとして初代勇者たちが遺した武具に魔力を込めておいた。


 確かにあの聖剣をはじめとしてあの武具の数々はその名に恥じない素晴らしい逸品だった。だが、強力な魔力を放ち続けていれば減る一方だ。

 だから百年という年月(とき)を経た事で力を失っていたのだろう。だから少しだけ魔力を補給(チャージ)しておいた。それゆえに初代勇者たちが遺した武具はありし日の輝きを取り戻していた。


 付与魔術士として思わずしてしまった魔力の補給であったがおかげで学ぶ事が多かった。


 さらにもう一つ、その武具の数々に魔力付与を施しておいた事でグリウェルたちがゴブリンと渡り合い、そのままオーガを一撃で倒す事が出来た。

 ハッキリ言ってグリウェルたちは並の冒険者と大して地力は変わらないだろう。だが、勇者という特殊職業に就いているだけでその実力は増す。


 なんだか勇者って強化術(バフ)みたいだなとか思いながら荷物を担いで部屋を後にした。


 そう言えばあの国王、俺の痕跡を一切残すなって言ってたっけ。良いだろう、売られたケンカなら買ってやるよ…。

 勇者だろうが、国王だろうがな。


 城内の誰とも話さず俺は城門を出た。


「今この時をもって城内の『あらゆる付与魔術(エンチャント)を解除』する」


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る