【クリーチャーズ・ハウス】Day7 「trap,trap,trap!」
「パパ、キャッチマンおじさんが来たよ!」
マリーが扉の側に立つ大柄な異形を指差して笑う。大柄な異形はマリーの声に気づくと手を振り、こちらに近づいてきた。
「良かったじゃないか。おじさんに遊んでもらっておいで。」
「うん!」
楽しそうに駆け出すマリーを受け止めるように異形は大きく手を広げ、「こっちにおいで、マリーちゃん。おじさんがハグしてあげるよ。」腕に飛び込んだマリーを優しく抱き締めた。両肘のトラバサミがマリーを挟み、指先のワイヤーがギシギシと食い込む。アレックスは顔色を変えて大柄な異形の方へと走り、マリーを半ば奪い取るような形で抱き抱えた。マリーの体にはワイヤーが食い込んだ細く深い傷とトラバサミで抉られた皮膚が見え、アレックスは大柄な異形に怒りを露にした。
「…「キャッチマン」!君はマリーになんてことをするんだ…マリーが怪我をしてしまったじゃないか!大丈夫かい、マリー?」
大柄な異形は困ったように首を傾げ、顎に手を当てるとアレックスとマリーを見つめる。
「おお、ごめんよ…マリーちゃん。おじさん、君を傷つけるつもりはなかったんだ。
…すまないね、アレックス。自分の身体が罠だらけなのをすっかり忘れていたよ。早く「ドクター」に診せた方がいい。」
「ああ、そうするよ。行こうか、マリー。」
診療所まで廊下を歩いていると、肉切り包丁を引きずるローウェルとすれ違う。
「…よお、イカレ親父。そのぬいぐるみでも直してもらいに行く気か?」
「…ぬいぐるみ?ぬいぐるみなんてどこにあるんだい、ローウェル。ここには「マリー」しかいないよ?ねえ、マリー。」
アレックスのろくに噛み合わない返答を聞いたローウェルは疲れたようなため息を漏らし、「…お前イカれてやがるな、マジで。」とだけ呟いてその場を立ち去っていった。
そんなローウェルの態度に首を傾げつつ、アレックスは診療所の扉をノックする。
「「ドクター」。マリーが怪我をしたんだ。診てくれないか?」
少しの沈黙の後、扉がゆっくりと開いて少年の顔が覗く。隙間からは何かしらの作業をしているのであろうクランケの姿も見えた。
「マリーちゃんが?それは大変だったね…
入って。診察するよ。」
「ドクター」はアレックスの腕に抱えられた明らかにぬいぐるみの「マリー」を見ても何も言うことなく、診療所へとアレックスを入れる。彼はアレックスの腕からマリーを取ると傷を眺めて口を開いた。
「これ…キャッチマンのトラバサミと
ワイヤートラップだね。」
「ああ。キャッチマンがハグしたから…。」
「ドクター」は困ったように笑い、「……困ったことに、悪気はないからね…あの人。」愚痴を溢すように呟くと作業をしていたクランケを呼び、「マリーちゃんの怪我、消毒してあげて。僕は抗生物質を処方しておくから。」と言い残すと奥の方へと引っ込んでしまう。入れ違いに現れたクランケはため息を吐きながらもマリーの頭を撫でて「…ちょっと染みるけど我慢してね。マリーちゃん、強い子だから大丈夫でしょ?」とワイヤーの食い込んだ細く深い傷に消毒液を染み込ませた脱脂綿を当てる。マリーは声が出そうなのを我慢しているのか、唇を噛んで耐えていた。
「…はい、終わり。よく頑張ったね。頑張った子にはシールあげようか。好きなの選んでいいよ。」
クランケは消毒が終わると側の棚から何種類かのシールを取り出し、マリーは可愛らしいピンクのシールを選ぶ。しばらくして「ドクター」が戻って来ると「はい、これ抗生物質ね。とりあえず1週間分。それで大丈夫だと思うよ。」薬の入った袋をアレックスに手渡し、笑顔を浮かべてみせる。
「ありがとう、助かったよ…「ドクター」。これでマリーの怪我もよくなる。ほら、マリー。「ドクター」にお礼は?」
「ありがとう、「ドクター」さん!」
「いえいえ、マリーちゃんが強い子だから僕も頑張ったんだよ。」
「ドクター」は少しだけ照れ臭そうにマリーの頭を撫で、アレックスはマリーを抱えて診療所を後にした。
「………「ドクター」。言わないの、あれ。明らかに異常よ。」
クランケがふと口を開く。
「…彼にとっては、あれが「日常」なんだ。そっとしておいてあげようよ。僕は…彼の「日常」を壊したくない。」
ーー
「ミスター・トラップ」【キャッチマン】
全身が罠の大柄な異形さん。性格はフレンドリーでハグが大好き。ただしハグされると肘のトラバサミに肉を抉られ、指先のワイヤートラップが肉に食い込むのでとってもスリリング()なハグを楽しめる。本人に全身が罠である自覚はない。他人から怒られるとようやく気付いてしばらく大人しくするがしばらくするとまたハグを求めてくる。クリーチャーズ・ハウスでは明らかに人ではない異形タイプ。
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