【クリーチャーズ・ハウス】Day6「Nomemory,but,killer.」

マリーナを部屋に送り届け、大男が立ち去ろうとするとマリーナが「……ジョニー。私とちょっとだけ、お話ししよう?」作りもののような微笑を浮かべながら大男に微笑む。「うん、もちろんいいよ…マリーナ。それで、何のお話をするの?」

「…………メアさんを殺した、犯人のこと。ジョニーは、犯人を見てないの?」

大男は心底怯えたような表情を…と言っても仮面越しでは読み取れないが、怯えているような声色で答える。

「うん…怖いよね。でも僕も見てないよ…ごめんね、マリーナ。犯人がどんな奴でも、君にだけは手を出させないから、安心して!」彼はマリーナを安心させるように拳を握り、マリーナも微かに微笑んで頷くがすぐに静かな声で大男に声を掛ける。

「………ありがとう。…でも…ジョニー。少しだけ、思い出して。あなたは、気づかないうちに誰かを…」

「…マリーナ…?」

大男の瞳がマリーナに向けられ、彼の視界の母親の虚像がマリーナと重なる。

「…か、母さん…!ぼ、僕…僕は…」

記憶が渦を巻くようにして蘇る。首を絞められ驚いて目を見開くメア、声も上げられずにジョニーの馬鹿力でランタンがどこかに吹き飛んだアハト、「Why…?」と息が続かずちかちかと点滅するネオンサインで問うキャサリン。

「全部……僕が…」

大男はその場に崩れ落ち、子供のように泣きじゃくる。そんな大男にマリーナがゆっくりと近付き、母親のように優しく頭を撫でた。

「……大丈夫。大丈夫だよ、ジョニー。」

尚もしゃくり上げるジョニーの身体を優しく抱き締め、マリーナは大丈夫だと繰り返す。

****

「…う。」

頭がずきずき痛む。酸素が足りないのか、

視界もくらくらする…ふと、目を閉じた。

「ご機嫌よう、ミスター・スリーピング。

おや、珍しい…いつも明るい貴方にしては

浮かない顔をしていらっしゃる。」

顔を上げた先には閉じた古文書…リチャードが立っている。何か引きずっているように見えたが、きっと気のせいだろう。

「やあ、おはようリチャードさん。君もお休みかい?」

「…いえ、私は今目覚めたところですよ。

さて、リビングに向かいましょうか。皆様お揃いですよ。」

リチャードのお辞儀につられてリビングに歩いていくと、そこには皆揃っていた。マリーナはいつも通り椅子に座って動かないし、

ジョニーはマリーナの隣でぼんやり立っている。ソファーに我が物顔で座ってるローウェルはいつも通り不機嫌なままで、ツヴァイとアハトはお辞儀をしてくれる。

「やあ!皆、揃ってどうしたんだい。皆で一斉にお休みかい?」

「………おはよう、メアさん。」

マリーナはメアにいつも通り、ぺこりと軽く頭を下げて微笑む。その横にもう一人、ジョニーとは別の人物が立っていた。顔はあどけなく愛くるしい雰囲気の少年だが、身体は配線や無愛想な金属で構成された機械パーツで全身が覆われている。

「…よお、「ドクター」。お前がこっち出てくるなんて珍しいな。病気女はどうした?」

ローウェルが声を掛けると少年は微笑み、

「…病気女…クランケのこと?診療所はクランケに頼んで出てきたんだよ。ジョニーからマリーナちゃんが錆びてるって聞いたからね。」

「…はっ!マリーナが錆びるわけねーだろ!コイツはただの人間だぜ?」

ローウェルが嘲るようにマリーナを包丁の先で指す。マリーナは気に留める様子もなく「…………ローウェル。私は、人形だよ。」静かに、穏やかに口を開いた。

「…つまんねぇ…おいお前ら、朝飯作ってきてやるから話しかけんなよ。話しかけたら

ぶっ殺して食材に追加するからな。」

ローウェルは舌打ちをしつつソファーを立ち上がり、キッチンの方へと足音を立てながら歩いていく。途中で悲鳴が聞こえた。多分、新しく雇った「キャスト」の誰かだろう。古参のキャスト達はローウェルを見ても馴れた様子でスルーする。しばらく経ってから、皿に未確認物体を載せたローウェルが帰って来た。肉切り包丁に血がついていない所を見るとさっきのキャストは死んでいないのだろう。ダイニングテーブルにその皿を置く。

「……ねえローウェル?一つだけ聞いても

いいかな。」

流石のメアもこれには驚いたのか、口の端がぴくぴくと引き攣っている。

「あ?何だよ、眠りの権化。」

「これ、何?」

「朝飯に決まってんだろ、バカか。逆に聞くけどこれが飯以外何に見えんだ?」

「君こそ目は大丈夫かい?僕にはこの皿の中身が全部未確認物体にしか見えないよ!」

「どう見てもトマトのパスタと白身魚のムニエルだろうが。食え。」

メアの言葉通り、皿に載せられているのはどう見ても美味しくなさそうな未確認物体ばかりだ。マリーナは何も気にすることなくその料理に手をつけ、「ドクター」も「ドクター」で「…うーん、食べられるかな…機械化されてから味覚がバグってるんだよね。」などと口にしながら未確認物体を頬張る。驚いたことに、先程まで文句を垂れていたメアも普通にその未確認物体を食べ始めた。

「…………ローウェルの料理、美味しい。」

マリーナがそう口に出したのを皮切りに、クリーチャー達は料理を食べ始める。匂いに誘われてきたのかアレックスやキャサリン、テオドアまでリビングに顔を出す。

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