第13話 サンタクルーズ沖海戦(4)

 それぞれの指揮官は思いを抱きながら敵を探す。

 薄暗い夜明け前から、日が水平線の向こうから現れる日の出を迎える。

 陽が昇りつつある午前6時、最初に敵を発見したのはキンケイドだった。

 「出撃だ!行け!」

 待ちに待ったと言わんばかりにキンケイドは「エンタープライズ」と「ホーネット」から攻撃隊が出撃する。

 「マレーより早く出せた、いいぞ」

 キンケイドは飛行甲板を駆けて飛び立つ艦載機を見送りながらガッツポーズをする。

 これで昨日戦えなかった分を取り戻せると。

 「敵機です!我が艦隊が発見されました!」

 そこへ、上空に敵機があると報告が入る。

 キンケイドは双眼鏡で示された方向を見る。そこには高空と飛行する一機の機影が見えた。あんな所を単機で飛ぶ友軍機など居ない。

 敵索敵機を追い払おうと上空を守るF4Fが二機慌てて来る。

 その敵索敵機二式艦上偵察機はF4Fが迫るのが分かるや逃げにかかる。F4Fは追いかける。

 しかし、F4Fと二式艦偵の距離は開くばかり。

 F4Fは最高速度が515km/hで、二式艦偵は533km/hだ。二式艦偵の方が速い。

 「くそ!逃げられたか」

 キンケイドはガッツポーズで作った握りこぶしを思わず降り上げる。

 「まあいい、こっちが先制している」

 今から日本軍機動部隊から攻撃隊が出ても遅いのだとキンケイドは怒りを鎮めた。


 「攻撃隊出撃せよ!ただちにだ!」

 「飛龍」から発艦した二式艦偵がキンケイドの機動部隊を発見した。

 山口は急き立てるように攻撃隊を送り出す。

 「飛龍」と「瑞鶴」・「瑞鳳」から合わせて60機の第一次攻撃隊が出撃する。山口はとにかく早く攻撃隊を送り込み敵空母に打撃を与える事にしたのだ。

 「第二次攻撃隊出撃準備!」

 第一次攻撃隊を送り出した「飛龍」と「瑞鶴」では整備兵達が休む間もなく第二次攻撃隊出撃の準備にかかる。

 「瑞鳳」では艦隊直衛の零戦や索敵の九七式艦攻を新たに発艦させている。

 山口は昨日の攻撃されるばかりの状況を打破しようとしていた。

 

「あれは敵機」

その送り出した第一次攻撃隊を率いる友永丈市大尉は敵機を見つける。

真横を通り過ぎようとしている米軍の攻撃隊、これはキンケイドが送り出した攻撃隊だった。

(このままでは機動部隊に行ってしまうが・・・)

敵の攻撃隊が何処へ向かうかは明解だった。

山口の第二機動部隊だ。自分達の母艦が危うい。

「敵艦隊へ向かう。このままやり過ごすぞ」

友永は敵攻撃隊をやり過ごす事に決めた。山口の熱意を直に知っている。

何としてでも敵空母に爆弾や魚雷を当てるのだ。

 だが、編隊から零戦が8機離れた。

 「あ、あいついら!」

 友永は思わず声を荒げる。

 編隊から離れたのは「瑞鳳」の零戦隊だった。

 空中での無線機の通話が難しい日本軍機にあって、友永は「瑞鳳」の零戦を止める術が無かった。

 「瑞鳳」零戦隊は敵編隊へ突撃して空戦が始まった。

 思わぬ空域での空戦に米軍パイロットは混乱をしたようで敵編隊がばらけている。

 「他は行くなよ」

 友永は機内から小型の信号灯で「編隊カラ離レルナ」と周囲に発光信号を送り、釘を刺す。

第一次攻撃隊は零戦8機を欠いたまま敵艦隊へ向かい、残る零戦は「飛龍」と「瑞鶴」を合わせて12機だ。

 「全軍突撃せよ!」

 午前8時10分、友永の第一次攻撃隊はキンケイドの機動部隊へ突撃する。

 12機の零戦は艦攻と艦爆を守る為に直衛のF4Fへ向かって行く。だが、その間隙を突く様に上空から4機のF4Fが落ちて来るように襲い、友永の攻撃隊を引き裂く。

 魚雷や爆弾を抱えた艦爆と艦攻はF4Fの銃撃を浴びて火を噴く。

 「何としてでも、空母へ」

 友永は周囲で友軍機が火と煙を吹いて落ちる中で敵空母を狙う。

 もはや編隊はF4Fによって崩され、単機ごとの攻撃となる。

九九式艦爆がそれぞれの位置から近い「ホーネット」か「エンタープライズ」へ急降下爆撃を仕掛ける。

だが、激しい対空弾幕に包まれて落ちるか、投弾に成功しても至近弾にしかならず当たらない。

「敵は艦爆に注意が引き付けられているな」

九九式艦爆の犠牲は無駄では無かった。

米軍の注意が上空の上へ向き、海面に近い下を行く九七式艦攻への注意が薄くなっていた。

「目標、敵空母!突撃!」

友永は「ホーネット」に自らの機を突撃させる。

もう一機の九七式艦攻も続く。

「くそ、やられたか」

しかし、友永の九七式艦攻は右の主翼が被弾して燃え始めた。

「隊長、まだ行けます!」

操縦手の搭乗員がまだ終わっていないと言う様に友永へ訴える。

「そうだな、行こう!」

友永は操縦手を信じて「ホーネット」への突撃を続ける。

しかし燃える九七式艦攻へ「ホーネット」からの対空砲火は容赦がない。友永の九七式艦攻は左の主翼からも炎上する。

「隊長、魚雷が落ちません・・・」

操縦手が魚雷投下をしようとしたが、動作しないと気落ちして言う。

せめて魚雷を当てたいと思っていただけに。

「・・・機体ごとぶつけよう・・・」

友永はもはや落ちるであろうこの艦攻ごと散ると決めた。

共に乗る操縦手も偵察員も覚悟を決めた。

もはや空飛ぶ炎と化した友永の九七式艦攻は「ホーネット」の煙突に衝突し、大きな爆発を起こして四散した。

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ミッドウェー戦役 葛城マサカズ @tmkm

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