第12話 サンタクルーズ沖海戦(3)
「山口もやられたか」
南雲は「準鷹」から駆逐艦「嵐」で「飛鷹」に移った時に「翔鶴」の被弾と言う報告を聞いた。
「反撃をしたいが日が暮れるな・・・」
時間は午後5時を回り、空は茜色の夕暮れになっていた。
これから出撃すれば夜間の飛行・攻撃・着艦と言う困難な事を搭乗員に強いる事になる。
「夜間飛行が出来る者は幾らかおりますが・・・」
草鹿は遠慮気味に言う。下手に夜間に出撃させれば事故で搭乗員も機体も失われるからだ。
「長官、ここは無理でも出撃をすべきです」
南雲と同じく「飛鷹」に移った第二航空戦隊司令の角田覚治少将が訴える。
南雲は草鹿と角田に背を向け、艦橋の外を見るように立った。
思案を南雲はする。
「無茶はいかん、何より敵空母を見つけておらんからな。明日仕切り直すのだ」
草鹿と角田へ向き直った南雲は決心を述べた。
草鹿は「分かりました」と言い、敵空母を見つけていないと言う点で角田は「はい、明日こそは」と承諾した。
「長官、艦隊を北上させようと思います」
草鹿が提案する。
「敵艦隊をかわす為か?」
南雲はそう提案を理解する。敵艦隊の位置は不明だが、同じ針路を航行し続ければ捕捉され続けるからだ。
「それもありますが、ハワイ沖で潜水艦が発見した敵艦隊が気になります。これへの備えでもあります」
草鹿は前夜に伊号潜水艦が発見した敵艦隊について備えるべきだと言う。この敵艦隊はミッドウェーへ向かうオルデンドルフの第65任務部隊である。
ミッドウェーへ向かう欺瞞行動で南へ航行したのが、草鹿へ新たな敵艦隊と言う脅威として刷り込まれていたのだ。
「良いだろう。北へ向かう」
こうして第三艦隊は北へ向かう。
「南雲さんは北へ向かったか」
第三艦隊の北上を知った山口はそうであろうと納得した。
敵潜水艦の雷撃で「準鷹」が離脱し旗艦変更、そこへ「翔鶴」の被弾が重なれば同じ海域に留まる危険はすまいと南雲の行動を理解した。
「司令、移乗の駆逐艦が来ました」
被弾して飛行甲板に穴が空いて航空機の発艦が出来なくなった「翔鶴」を山口は修理の為に離脱させると決めていた。
この為に第二機動部隊の旗艦を「瑞鶴」へ移す事となった。
「司令、どうか再考を。<翔鶴>の活用をどうか」
駆逐艦へ向かおうとする山口と幕僚たちへ有馬が追いすがる。
有馬は「まだ<翔鶴>の機関も通信も無事です。せめて囮にして使って下さい!」と願い出ていた。
空母としての機能は無くても、船としては動くのだから使って欲しいと言う。
「艦長、傷の浅い内に修理して、次の戦いに備えるんだ」
山口は熱意冷めやらぬ有馬へ柔らかく言った。
「しかし、戦力の半分が減るのです。気が引けます」
有馬はそれでも訴える。幕僚が窘めようとするが山口が先に発する。
「気持ちはよく分かる。だが、この戦争はこの海戦では終わらんのだ。だからこそ、<翔鶴>は生き残って貰わねばならん」
低くしっかりした声で言う山口に有馬は「分かりました」と引き下がる。次の戦いの為に「翔鶴」は生きねばならぬのだと分かって。
「索敵機から報告、敵艦隊が北上しています」
マレーに南雲の北上を伝える報告が入る。
「敵は退却したのかもしれません」
「いや、違う」
参謀の推定をマレーは否定する。
「北上した敵と、我が艦隊が攻撃した敵との位置が違う。潜水艦に攻撃された敵が北上したのだろう」
マレーは南雲と山口の艦隊を見分けられていた。
「しかし迫る敵艦隊2個の内でⅠ個を退けたのです。優位になりました」
「いや北上した敵が戻る可能性もある油断はできない。キンケイドが積極的に動けば良いのだが・・・」
マレーが言うキンケイドはどうしていたか。
キンケイドの第16任務部隊はマレーが夕刻が近くても出撃したのに対して、出撃をしなかった。
「明日、2隻の空母で攻撃をする。索敵で敵空母を捕捉するのだ」
マレーに先を越された事をキンケイドは気にしていた。それはニューカレドニアに居るハルゼーからも「攻撃をせよ、遅れるな」と督促もされていた。
キンケイドは明日は時間や天候が微妙であっても出撃するつもりであった。
「帽振れ、<翔鶴>を見送る」
陽が地平線に沈む直前、「翔鶴」が駆逐艦2隻を伴い第二機動部隊から離れトラックへ向かう。
それを手すきの乗員が帽振れで見送る。「翔鶴」からも同じく帽振れで応える。
山口はそれも同じだ。艦橋から略帽を振り見送る。
互いが遠くなり、日没になると「配置に戻れ」の号令がかかり乗員はそれぞれの配置での作業へ戻る。
「さて、我々は南へ向かうぞ」
山口は参謀たちの前で方針を決めた。
「南ですか?」
「そうだ。敵の索敵は南雲さんを追って北や東西にかけてやっているだろう。南は手薄な筈だ」
山口は米機動部隊の索敵を避ける為に南へ向かうと決めたのだ。
「明日は何としてでも攻撃する。やられ放しはいかんぞ!」
「はい!」
「翔鶴」を撃たれた山口は何としてでも反撃をすると宣言する。それに幕僚たちもしっかりした返事で応えた。
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