第9話 とんでもない奴、登場!?

次の朝。僕は目を開いて、仰天した。


「おはようございます」


レオンがにこやかに言っている……のはいいが、なんで僕と同じ毛布の中にいるんですかっ!?


しかも、肩肘をついて少し上から見下ろしている。


「ど……どうして……?」


僕が口をパクパクさせていると


『昨日、保温魔法を代わりにやってもらったからだ』


サイアスが言ってきた。


「俺の保温魔法は、サイアスみたいに包み込むものじゃないんでこうするしか……。湯たんぽみたいなものです」


湯たんぽ……それは……ありがとう……なのか……?

そうなんだろうな。きっと……。凍えなくて済んでるのもこの二人のおかげだし……。それによく考えたら、レオンは剣なわけだし。

でも、もっとかわいい湯たんぽがよかったと思うのは贅沢なのだろうか?


とにかく、起き上がって朝食を済ませると出発した。

レオンが人に戻ってくれて歩いてくれる分、昨日より身が軽い。

筋肉痛も昨日よりは良くなってるし……。

そのとき、上から声が聞こえた。


「ようっ! ノッテルか~い!?」


『誰だ?』


サイアスが言うと、目の前にある木の上に人影が現れた。


「よっくぞ聞いてくれましたっ! 俺様の名はトールキーッシュ!! ノリのいいロックスターだぜっ☆」


そう言って、持っている白いギターをかき鳴らす。

よく見ると、緑の髪をリーゼントにして黒いサングラスをかけている。

黒い革ジャンを着て、黒い革のズボンを履いているが……

服についている金色のヒラヒラしているものは……?


かなり恐そうでヤバそうな雰囲気である。

しかも、自分でスターって言ってるよ。この人……。


「相変わらずですねぇ。トルキッシュ……」


レオンがつぶやいた。


『なんだ? この、変な奴は?』


サイアスが言う。


「すみません。俺の幼馴染です」


レオンが答えた。

トルキッシュと名乗った男は、木から飛び降りて地面に着地しながら言った。


「なんだなんだなんだ~? その心気くせぇ面! ちょっとは、テンション上げていこうとか思わないわけ?」


『レオン。幼馴染なら、こいつをどうにかしろ』


サイアスがレオンに言うと


「無理ですよ。どうにかなるようなら、今までにやってます」


レオンが即答した。


「そうそう。トルキッシュはその元気だけが持ち味なんだから。取り上げたらかわいそうだよ」


「エバァ。お前も来ていたのか!」


レオンが木の影から現れたもう一人に向かって言った。


「あったりまえだろ? レオン。なんで、俺たちをおいていっちゃうんだよ」


もう一人はふくれっつらで答えた。驚いたことに、肩より少し下まである髪の色はサーモンピンクだ。しかも、後ろで一つにしばって、更にそれを三本のみつ編みにしている。中学一年くらいにみえるエバァと呼ばれたその少年の目は、透き通るような空色だ。トルキッシュがエバァの言ったことに反応して言った。


「そうだ。なんで俺たちを置いていったのか。それについて、言いたいことがあるんだった。なんで、俺らはダメでそんなちんちくりんなガキと、ノリのわりぃマントとは一緒に行動してるのか……じっくりわけを聞かせてもらおうじゃないの!!」


「げっっ。そうでした……」


レオンがしまった!という顔をしている。


「何? どういうこと?」


僕が聞くとレオンが言った。


「そういえば、俺、意思縛りの犠牲になるのは俺一人でいいと思って、あいつら置き去りにして、サイアス追いかけたんでした……。トルキッシュ。この人たちとは……その……つまり成り行きで……」


「はぁ? 何言っちゃってるの? レオン。そんなつまんねぇ言い訳通るわきゃねぇだろ」


トルキッシュがレオンに言った。


「……ですよね」


「ちょっと、何丸め込まれてるんだよ! レオンっ!!」


「すみません。章平。俺、こいつらに口で勝てたことがないんです」


レオンはすまなそうな顔で言っている。


「そうそう。ちなみに、結構腕にも自信あるんだぜっ!」


トルキッシュが得意そうな顔で言うと、


「でも、レオンは俺たちのこと弱いと思ったから一緒に行動させてもらえなかったんじゃないの?」


エバァがトルキッシュの言葉につっこんだ。


「なにぃっ。どういうことだっ! レオンっっ!!」


「た……助けてください! 章平っ!!」


「そ……そんなこと言われてもっ……」


僕はどうしていいかわからず、サイアスを見るがサイアスは黙ったままだ。


「おいっ。なら、そこの行動を共にしてる二人に勝ちゃ文句ねぇよな」


トルキッシュが言った。


「えっ?」


僕は驚いてトルキッシュを見る。


「行くぜっ。俺たちが強いことを証明してやるっ!!」


「えぇぇっ!?」


『ちっ。また、面倒な』


サイアスがつぶやいた。


「地獄へのメロディーを奏でてやるぜっ!!」


「あ~あ。始まっちゃったよ。トルキッシュの一人暴走……」


エバァがやれやれといったように言っている。


「って、お前も戦えやっ。エバァ」


「いいよ。しばらく傍観してる」


トルキッシュが言った言葉に、エバァはそう言ったかと思うと木の枝に器用に寝転がった。


どうしよう……。僕、戦いは無理だよ。ただでさえ、筋肉痛なのにっ!!


「ふん。俺様一人でもこんなガキとマント、あっという間に倒してみせるぜ」


トルキッシュが宣言した。


『俺はそんなに暇じゃないんだがな……』


サイアスが面倒くさそうにつぶやく。


「うるせぇっ! 行くぜっ。俺様のとっておきっ! レイチェイン・ヘブンズ・ララバイっ!!」


その瞬間、フォークギターのすばらしくゆっくりな子守唄を弾き始めるトルキッシュ……。ものすご~くやさしい音色で……。ポロンポロンとゆっくりな音が森に響き渡る。


『は?』


サイアスが唖然としたように言った。


「え? ロックじゃないの?」


僕がつぶやくと


「あいつは、フォークギターのゆっくりした音色が大好きですからね……」


レオンがつぶやくように言った。


「でも、あの格好にあのギターは……」


僕が言うと


「格好だけはロックにあこがれているらしいです。で、フォークギターをロックっぽく見せるためにいろいろ工夫したみたいですね」


「そ……そうなの……」


レオンの言った言葉を聞きながら、白いギターを見つめる。

よく見ると、二本の赤いラインが弦に沿ってはいっているのがわかる。


『……というか、これは攻撃なのか?』


サイアスが呆れながら言った。


「一応、攻撃なんですよ。今すぐ耳をふさいでください!」


レオンが言う。


「え? なんで?」


僕が聞くとレオンが言った。


「いいから!! まずいことになるっ……」


「な……なにふぁ~。な、なんか眠く……」


「いけないっ! サイアス。この音を聞かせては! 章平の耳をふさいでくださいっ!!」


『どういうことだ?』


「早くっ! そういう俺も眠く……」


『…………』




「へっっ。なんだ。やっぱりたいしたことねぇじゃねぇか! なぁ、エバァ」


トルキッシュが笑いながら言った。


「?……!! 気をつけろっ。何か来るっ」


エバァが木の上から叫ぶ。


「あぁ? なにが……おわぁっ」


金色の狼がトルキッシュの耳元をかすりながら飛んで、レオンと僕の前に着地した。

トルキッシュは体勢を崩して地面に尻餅をついている。


「これは……レオンの狼!!」


エバァが叫んだ。


「危なかったですねぇ。サイアス。ジェイサムを召喚して偵察に出しておいて本当によかった」


『なるほど。こいつの能力は音で発動されるわけか』


サイアスがレオンに言う。


「そうです。聞くと、眠くなって何をされてもわからなくなるんです」


「ずっりーぞ。レオンっ! 俺の能力ばらすなよっ。もうちょっとで、そいつらに油性マジックで落書きできたのにっ!!」


トルキッシュがくやしそうに叫んだ。


「は?」


僕たちはきょとんとして、トルキッシュを見る。


「もう、書く内容も決めてたんだぞっ。そいつには、チビ! そのマントにはアホって」


『そんなくだらないことを考えていたのか……』


サイアスが呆れた声で言った。


「くだらないとは何だっ! 俺様はなぁっ。今、ものすごく悲しんでるんだぞっ!」


『どこがだ?』


「うるせぇっ。俺たちとはずいぶんなげぇ付き合いなのに、レオンはみずくせぇんだよっ!! しかも、俺たちには頼らねぇくせにそんな頼りなさそうな赤の他人には頼って……。これが、悲しまずにいられるかっ!!」


トルキッシュは半分泣きながら言っている。


『どこの純情少年だ。こいつは……』


サイアスは半分呆れながら言っている。


「あ~~~。すみません。トルキッシュ。泣くのをやめてください。二人を頼りにしてないわけじゃないですから。ただ、俺が俺のせいで二人を巻き込むのが嫌だっただけですから」


レオンが言った言葉を聞いて、エバァが木から降りて慰めるように言った。


「だってよ。トルキッシュ。よかったね」


「うぉぉーっ!よかったよぉーーっ。うおおぉーいっっ」


今度はエバァに泣きついて喜んでいる。

ある意味本当にすごい奴だ。


でも、それにしてもなんで、金色の狼がここに?

一週間は召喚できないんじゃなかったのか!?

僕が金色の狼を見つめていると、レオンが言った。


「どうしたんです?」


「ん? だって、この狼。サイアスは一週間は召喚できないって言ってたからさ。ちょっと、びっくりして」


僕が言うと、レオンは笑って答えた。


「あぁ。素のことを言ってるんですね。昨日の夜、俺が保温魔法引き受ける代わりに、素を作るのを手伝ってもらいました。もともと素の基本部分はもう一つ作って持っていたので、二人でやれば一日で復活できます」


そういうもんなのか!? じゃあ、一週間は必要なかったってことか……。

……っていうか、サイアスがお手伝い!?

それは……見たかったかも……。


そんなことを思っていたとき、サイアスが突然声をかけてきた。


『何を考えている?』


「うっっ……ううん。別に? 何も?」


僕は慌てて笑って誤魔化した。


レオンはそんな僕たちの横で、静かにひざを付くと金色の狼を優しく撫でている。

うれしそうに目をほそめていた狼は、しばらくするとレオンの手の中へ消えた。


「どうしたの?」


僕が言うと、


「ジェイサムを休ませるために一回帰しました。でも、一度ちゃんと召喚しているので名前を呼んだら来てくれますよ」


レオンは笑顔で答えてくれた。


「そういえばさぁ」


エバァが口を開いた。トルキッシュが落ち着いたらしい。


「今、何をしようとしているのか、俺たちに説明してよ。レオン。そして……もちろん、俺たちも今度は連れて行ってもらえるよね?」


エバァが念を押すようにレオンに言った。


「どうしましょうか……章平」


レオンが困った顔で僕に聞いてきた。


「別に僕はいいと思うけど?」


僕が言うと


「何だ! お前って結構いい奴だなっ! 気に入った!! 俺様の弟分としてかわいがってやるぜっ!」


トルキッシュがうれしそうに言っている。


いや、別にいいです……。というよりは、大変そうだから遠慮したいです。ハイ……。

そのとき、サイアスが口を開いた。


『一緒に行くならさっさと行くぞ。時間がない』


エバァがその言葉に


「時間がないって? だから、説明してよっ!」


と文句を言っている。サイアスが言った。


『めんどくさいな……。レオンは意志縛りの術にかかっている。残りの時間は一週間無い。かけた奴はグランド=ビエラの連中だ。これで、わかったか? じゃあ、行くぞ』


「わからないよ! レオン! どういうこと!?」


エバァがレオンに向かって叫んでいる。


レオンは困ったような顔をして言った。


「えっと……サイアスの言うとおりです。意思縛りに抵抗するために逃げている真っ最中です」


その瞬間、エバァとトルキッシュは唖然とした顔になった。




そして……




「意思縛りに抵抗するって!?」


叫んで、エバァは驚きの眼(まなこ)でレオンを見つめる。


「かぁーっこいいじゃぁーん!! そういうことなら、俺様も協力するぜぃっ!」


トルキッシュはなぜか楽しそうだ。


「トルキッシュ!! 面白がってる場合じゃないよ。意思縛りだよ? 意思縛りっ!!」


エバァが心配そうな面持ちでトルキッシュに言ったが


「なぁにを心配してやがるっ! レオンだぜ? 負けるわきゃねぇって!!」


とトルキッシュは笑ってエバァの頭を軽くぽんぽん叩いている。

僕はその様子を見ながら、やっぱりトルキッシュは只者(ただもの)じゃないと思った。

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