第8話 川下り
そして、森に入ってしばらくいくと川が見えてきた。
この川を下る。そして、海に出る!
海に出たら、船に乗る。これで、簡単にはあの場所とやらに戻れなくなるだろう。
なんて言ったって、レオンは剣だから泳げないに違いない。たぶん。
その間に次の対策を考えるんだ!
僕はとりあえずの作戦だが、成功すると信じて行動することにした。
僕たちは川を下っていたが、少し行った所で日が暮れてしまった。
どうやら、買い物に時間をかけすぎたようだ。
慣れないものを買うのに手間取ってしまったらしい。
仕方が無いので、その日は野宿することになった。
川を見失わないようにしながら、少し離れて木にもたれかかる。
あんまり川に近いと寒くて仕方が無いからだ。
しかし、毛布一枚ではやはり寒さが身にこたえた。
寒さに身を縮こめていると、サイアスが声をかけてきた。
『おい。寒いのか?』
僕は無言で頷いた。それを見たサイアスは
『しょうがないな』
と言いながら、毛布の上から覆いかぶさるようにした。ものすごくあったかい。
もしかして、保温機能もついてるのか? サイアス……。
この暖かさは……この間、母が「キャンプするときのために」とか言って、突如買ってきたナサ開発の宇宙飛行士用毛布に匹敵するよっ!! え? 例えがわかりにくいって? とにかく、とぉってもあったかいってこと! 気分はこたつで丸まってる猫!!
ありがとうっ!
このときほど、僕がサイアスの存在に感謝したことが今まであっただろうか。
その夜、僕は疲れもあったのか深い眠りに落ちていったのだった。
『……おい。起きろ』
朝。サイアスの声でぼんやりと目を覚ました僕は、さらにサイアスの声に急き立てられて川の水で顔を洗った。つ……冷たっ!! 寒いのに、寒さ倍増。
僕はさっさと水から手をひっこめると、昨日買っておいた果物を食べた。
ナイフはせっかく買ったが、お腹が空きすぎていたため果物を丸かじりしてしまっている。それが済むと、僕らは早速出発した。時間はいくらあっても足りないのだ。
できるだけ遠くに行かなければ……。
慣れない道を行くのはけっこうつらい。
しかも、僕は運動不足な状態だし……。
それでも周りを見渡すと、緑がたくさんあって、日がさんさんとそそいでいるため、
ハイキングに来ているような錯覚さえ覚える。
風景はのどかなのになぁ~……そんなことを思いながら、川を下っていった。
ハイキング気分だったために少し足取りが軽くなったのだろうか?
運動不足の状態にしては、その日はけっこうな距離を稼いで日が暮れた。
しかし、僕はへとへとに疲れてしまっている。絶対、明日は筋肉痛だ……。
これが明日も……なんて。大丈夫だろうか?
その前に、筋肉痛で動けなくならないよな?
次の朝、起きるとやはり体中が強張っている。ギシギシいう音が聞こえてきそうだ。
筋肉痛で、一歩歩くごとにしびれたような痛みが走る。
こんなんで、今日一日距離を稼ぐことができるだろうか?
だが、2日目で断念なんてしたらサイアスになんと言われるか。
なんとしても頑張らないと!!
昨日と同じように朝食をとって、出発したが案の定、僕の歩調はゆっくりすぎるくらいゆっくりだ。それでも、僕にとっては精一杯だった。
腰につけているレオンの重みが一歩踏み出すごとに増している気がする。
妖怪で確かそんなのいたよな? うぅっ。重い……。
だんだん、僕の歩幅が狭くなり、立ち止まりながら少しずつしか進めなくなった。
サイアスが時々
『しっかりしろ』
とか
『日ごろの鍛錬を怠るからだ』
とか言っている。励ましているつもりだろうか?
なんとか、日暮れまで歩き続けて距離を伸ばすことができた。
それでも、昨日に比べると半分もいってないかもしれない。
僕は、川から離れたところにある木まで行くと、その前の地面に倒れこんだ。
……これが明日もって、つらすぎる。
僕はそのまま、しばらく地面に寝転んでいたが、サイアスに促されてゆっくりと起き上がった。食事をとるためだ。本当は何も食べずに眠りたかったが、明日に響くといわれては従わざるをえない。
その日の夜、突如レオンが言った。
『そろそろ、戻れそうです』
「え? 何が?」
僕が聞くと
『人型に戻れる位に魔力が回復しました』
レオンがうれしそうに言った。
「え? もう?」
僕が再び聞くと
『えぇ。見ててくださいよ!』
そう言うと、レオンの剣としての身体が淡い光に包まれて浮き始めた。
まさか、あの時みたいにものすごい光に包まれるのか!?
僕がそう思って身構えていると、今度はそんなことはなかった。
淡い光が包んだまま、レオンは人間に姿を変えた。
「ほら。戻りました」
レオンが言った。本当にうれしそうだ。
「よかったね。これで、明日はもっと先まで進めそうだね」
僕が言うと
「そうですね」
とレオンも笑顔で答えた。
『さっさと寝るぞ。』
サイアスが言う。
「そうですね。章平は今日、とても頑張って疲れていますから」
レオンがそう言って、毛布を用意してくれた。
「ありがとう」
僕はその毛布の中に潜り込む。今日は寒くてもすぐに眠れそうだ。
だが、寒くもなかった。なぜなら、昨日と同様にサイアスが毛布の上から保温してくれたし、なんだか隣に温かいものがあるような気がした。……が疲れすぎて、それが何なのかは確認できなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます