第15話 15、戦争勃発
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千が城を去ってから五年が経った。
周平の国、穂無洲国は潤い、発展していた。
荒地が開墾され、耕作面積は四倍になっていた。
道路が整然と平に整備され、川の水は用水路を通して周囲に分散され、広大な農地を創りだしていた。
川の近くには多くの主要工場が点在し、工場に必要な部品や材料を作る小工場がその周りを囲んでいた。
城の前の道も整備され多くの商家が軒を連ねた。
防御のための曲がりくねった道などはなく、碁盤の目のようにきっちりと区画された道であった。
川からの上水道もそんな町並を可能とさせた。
周平は人には言わなかったが他国からの侵略を心待ちにしていた。
お金に余裕ができたので兵士の数を二千名にしていた。
兵士の訓練は千の方法を採用し、古株が新兵を教育した。
多数の武器も蓄えてあったし、それらの武器は万から教えられた強力な武器だった。
周平が力を注いだのは情報の取得であった。
多くの密偵を周辺国に派遣し、その国の様子をつぶさに調べた。
国境の警備は増やしたが「敵がせめて来たら直ちに警報を発し、適当に防御してから逃げ帰れ」と指令を出していた。
信号には大量に生産できる打ち上げ花火が使われていた。
花火は音でわかるし、夜でも見える。
雨の日でも音が聞こえるように連絡網は密にした。
最初に戦を仕掛けて来たのは海に面している最も裕福な海穂国だった。
自信があったのであろう。
多数の兵を擁しており、たとえ兵の一部を隣国に攻め込ませたとしても、周囲の国は自国を攻めて来ないであろうとの自信があった。
兵は三万名を派遣した。
十分な兵站を確保してから国境に兵を結集させ、ゆっくりと国境を越えた。
大軍は急いではならない。
兵站が追い着かないし隊形が長くなってしまう。
相手国の兵力は二千名しかいないことは分っていた。
理由は分らなかったがこの数年、多くの産業が育ち、自国の商業を脅(おびや)かせ始めている。
穀物の収穫も何倍も増加し、多くの人間が入り込んで来ている。
第一、この国への輸出は全く無くなり、逆に自国では作れない産物の輸入が急増している。
無理をしてでも今のうちに壊滅させるか併合するかしておかなければならなかった。
周平は報告を受け、500名の兵を国境に向かわせた。
隊長には兵は水田地帯の中央を通る広い道で道に沿って細長い密集隊形を保って戦うように指示した。
周囲は水田だし、あぜ道を通る以外は後ろにまわられる心配はなかった。
たとえ後ろにまわられても敵兵は矢が届く距離まで近づくことはできないと考えていた。
派遣した兵には万の持っていた8連発銃と十分な弾薬を全員が持っており、兵は訓練では200mの距離で的に命中させていた。
兵士は戦闘服に身を包み、片側の肩には銃を負い、片方の肩には十字弓を背負い、長矩形の盾を片手に持っていた。
腰には新たに開発された擲弾筒(てきだんとう)を二個ずつ腰にぶら下げていた。
ズボンのポケットには応急の治療薬と腹持ちがある糧食がつめられ、擲弾筒の横には竹の水筒が二つ掛けてあった。
銃と十字弓の間には縦長の物入れが背負われており、中には長く巻いた紙と薄い袋型の布団が畳まれて入っていた。
海穂国の将は10mほどの道に盾を重ねて密集している歩兵の群れを見ると騎馬隊で蹴散らすことを考えたが、敵の装備を見るために最初は500名の槍歩兵と後ろに500名の弓兵を配置した1000名を進軍させた。
海穂国の槍兵は100mの距離で止まり、弓兵は矢を空に向かって射ち、集団の上から矢の雨を降らせた。
穂無洲国兵の密集集団は内側の兵が盾を隙間無く頭上に並べたので無傷であった。
盾は互いを密接させるための曲がった突起と受け穴が付いていたのだった。
海穂国の弓兵が五射を終わった後に槍兵は突撃した。先頭が30mに近づいたとき穂無洲国兵の応射が並べられた盾と盾の隙間から始まった。
一秒間に20本の矢が正面まっすぐ斉射され、一秒毎に十人の槍兵は倒れていった。
60斉射で槍兵500人は倒れたが斉射は止まなかった。
残った500人の弓兵は算を乱して逃げ出したが続いている斉射で矢から逃れた兵は将を含め十人に満たなかった。
初戦で1000名近い兵を失った敵将は怒ったが少し安心した。
敵が弓を主要武器としているなら盾と弓で対抗できるし、乱戦に持ち込めば簡単に勝てるはずだった。
敵の騎兵は見あたらないし、こちらには鉄砲も持つ数小隊もある。
相手が動かないなら正面から脅かしてもいい。
敵将は3小隊30名の鉄砲隊と100名の盾を持つ歩兵100名を向かわせた。
鉄砲隊を盾で守りながら密集集団の50mの距離まで接近し、射撃した
密集集団は盾を密着させたまま、50mほど後退した。
鉄砲隊は斉射を繰り返しながらじりじりと接近したが、やがて弾薬は尽きて本体に戻って行った。
密集集団を包囲して攻撃するのは難しかった。
周囲は水田であったし、敵は道幅いっぱいに広がっていた。
密集隊形を崩すのには二つの方法があった。
周囲の山から枯れ木を運び、敵の前後で火を燃やし、炎の間隔を順次詰めて行くのがその一つであった。
油を使ったり、火矢を降らしてもいい。
密集隊形が乱れれば騎兵と歩兵を突撃させればいい。
しかしながら、それは少し大仰な作戦のような気がした。
何をするのにも邪魔な物は道に横たわった多数の死傷した兵士であった。
敵司令官は兵站で使っている荷車を盾で囲ませ、生きている兵士を荷車に乗せて自陣に戻るように指令した。死んでいる兵士は最初は道の周囲に打ち捨てられたが、兵士の士気の低下に気がついたのだろう。
負傷者の収容が済むと死者も運んで行った。
敵司令官が次に選んだ攻撃は盾と鎧(よろい)と兜(かぶと)と短槍で武装した重装甲歩兵とその後ろに控えた騎馬隊での攻撃であった。
重装甲歩兵が敵との乱戦になれば騎馬兵を突っ込ませることができる。
白兵戦になれば数で勝る方が勝つ。
念のため重装甲歩兵と騎馬隊とを二つに分け、一つを山の端近くのあぜ道を通って敵の後ろ側に配置した。
敵の前には300名の重装甲歩兵と50騎の騎馬隊、敵の後ろにも300名の重歩兵と50騎の騎馬隊が整列した。
銅鑼(どら)の合図と共に前後の重装甲歩兵は密集部隊に迫って行った。
敵の弓の斉射はせいぜい20本で、それらの矢は盾も兜も貫通できないであろう。
敵の盾まで近づけば押して行けばいつかは密集隊形は崩れるはずであった。
穂無洲国の密集部隊は銃の用意をして敵の近づくのを待った。
敵が30mの位置まで達したとき銃による斉射が始まった。
これも一秒間で20発の斉射が五秒間続き、数秒間があいて再び五秒間の斉射が行われた。
この射撃は全ての重装甲歩兵が動かなくなるまで続けられた。
騎馬隊は密集部隊が乱れなかったし、敵が鉄砲を持っていることが判ったので突撃は取りやめた。
穂無洲国密集部隊の後方にいた50騎の騎馬隊は斉射ではなく個々に狙撃され、全員が撃ち殺された。
密集部隊は集団を少しずつ後退させ、地面に横たわった重装甲歩兵をゆっくり飲み込んで行った。
部隊が通り過ぎた後には武装を解除された死体が残されていた。
騎馬兵も同様な武装解除された死体となったが、50騎の無傷の軍馬が戦利品となった。
密集部隊はさらにゆっくり後退し、道端(みちばた)に予め用意されていた荷車の位置で止まった。
敵の武具は荷車に満載され、軍馬と共に道端に隠れていた兵によって後方に引かれて行った。
荷車を予め用意していたということはこれまでの展開を予想していたことを意味した。
敵の司令官は唖然(あぜん)とした。
多くの鉄砲を持っており、戦いに勝つであろうことを予測して荷車まで用意されていた。
これでまた650名の兵を失った。
おそらく敵の損害はなさそうだ。
何にしろ、戦う場所が悪い。
10m巾の道では大軍の利点が発揮できない。
脇を進んで広い場所に出るか、一旦後退して水田のない地点まで下がるか思案した。
後退するにしても後ろには兵士が道に溢れている。
その後ろには長い兵站部隊の荷車がずっと並んでいる。
火攻めは相手が鉄砲を持っているから使えない。
今日は初戦で、相手は巾10mの道に広がった長さ50mの集団だ。
盾の動きを見ていると敵は集団内部では整然と並んでいるらしい。
おそらく1m間隔で並んでいる。
海穂国の司令官が悩んでいた時、前方の集団に動きがあった。
穂無洲国の密集集団は前後二つに別れ、前方の集団は密集隊形を保ったままゆっくりと前進した。
途中に横たわる重装甲歩兵の死骸を飲み込み、武装を外して死体を道の横に積み上げて行った。
武具は道の端に整然と並べて置かれていた。
密集集団は重装甲歩兵の死体を通り抜けそのまま前進した。
敵の司令官は直ちに全ての鉄砲小隊に迎撃の指令を出した。
敵の鉄砲を防ぐため葦の束が道に並べられ、鉄砲隊は葦束の間から斉射を始めた。
鉄砲の弾は葦束を通過することはないはずであった。
穂無洲国の密集集団の動きは止まったが、敵の斉射と斉射の間に盾の隙間から反撃の銃撃を始めた。
最初の斉射で海穂国の葦束は後ろの射手三人と共に吹き飛んだ。
穂無洲国の鉄砲の威力は海穂国で使っている鉄砲より大きかった。
葦束の掩体が無くなったので鉄砲隊の指揮官は退却を指示したが続く5斉射で鉄砲隊は壊滅した。
穂無洲国の密集集団は再びゆっくりと前進を始め、鉄砲隊の射手を集団に飲み込んだ。
武装解除させられ死体は道ばたに積み上げられた。
密集集団が道に溢れる海穂国軍に300mの距離に近づいた時、海穂国軍の司令官は全軍退却を命じた。
戦闘部隊には分隊毎に左右のあぜ道を通って山の中に潜むように指令した。
かなりの数の軍馬がその場所に残された。
自身は50名の親衛隊を引き連れ、敵の様子を見ることができる所まで道を後退した。
穂無洲国の密集集団はゆっくり前進を続けており、親衛隊は同じように後退を続け、とうとう輜重隊の荷車の位置まで後退した。
輜重隊の指揮官に荷車を後退させるように命じたが3万名分の数ヶ月の糧食と武器を積んだ多数の荷車を後退させることは難しかった。
輜重隊を見ると、穂無洲国の密集集団は進行速度を突撃に近い速度に早めた。
密集集団が200mまでに近づいたとき司令官は荷駄を放棄し、後方に後退するよう指令した。
多くの兵站兵は元の道を引き返して国境に向かった。
一部はあぜ道を通って山に逃げた。
司令官も対処法がわからなかったので国境に向かった。
穂無洲国の密集集団は荷駄の位置に来ると止まった。
集団は左右に分れて進み、荷駄の最後部に達すると再び密集隊形を作って止まった。
後方に待機していたもう一つの集団は前進し荷駄の前に来て止まった。
兵士の数名が荷駄を繋ぎ、馬を誘導した。
前後を密集集団で守られた多数の荷駄の群れはゆっくりと城下に引き返して行った。
山に逃げ込んだ2万5千名余りの兵士は何もできなかった。
糧食は無くなり、投降するか国境に向かうか山賊になるかしかなかった。
およそ半数の分隊は数日後に国境に戻ることを決め、およそ半数の分隊は投降した。
五百名の軍が3万名の軍をたった一日で破ったことになった。
多くの馬と食料が戦利品となった。
しかしながら、最大の戦利品は投降したおよそ一万五千人の兵士であった。
これらの兵士の一部は訓練すれば海穂国に攻め込む時の兵士になることができる。
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