その4:星の盾と三冠 運命の凍狂(前編)
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本作品は、全て架空ですので、実在の人物、場所、団体等と一切の関係がありません。まったくこれっぽっちも関係ないです。気のせいです。
某ゲームが大流行しているので、その大波に乗るべくして書いたパロディーですので、誤字や不出来な文章には優しい心で見逃して頂けると助かります。
関係各所からお怒りがあったらすぐに削除する予定なので許しておくんなまし。
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天王賞、春の芝3,200mと秋の芝2,000mのアドバンス頂点であるEXⅠレースである。
天王星系の移住成功を記念し、過去の歴史ある賞レースを起源とすることもあり、同一年における春と秋を制覇すると星界王の称号を授けられる事になっているが、未だその達成者は存在しない。余談ではあるが上半期の魔剣記念、下半期の聖剣記念を同一年で制すると剣聖の称号が与えられる。
また、副賞として与えられるのが盃ではなく盾であることから、星の盾といえば、天王賞を指す言葉であるのだが、本年度から天王賞(秋)が芝3,200mから芝2,000m大きく変化することになり、春と秋では大きく異なる能力が必要とさせるのは必須である。その為、ファンや有識者の間では、春秋制覇など不可能ではないのかという言葉も既に聞こえてきている。
そんな新しい歴史を歩み出そうとしている天王賞を前に、実は面倒臭い出来事が起きていた。話題の無敗極2冠達成者であるシンギュラリティルーナの別星系遠征騒動である。
事の発端は、無敗2冠で調子に乗った選手ではなくトレーナーが別星系のバトルターフへ参戦をすると言い出したのである。それは、いくつかのステップレースを踏んで、ボナパル=ド=レオンポーナ賞(オールウェザー2,400m)に出るという構想だったとされる。最終的には、選手の体調面から白紙撤回となった経緯なのだが、そのステップレースの候補に高翔宮杯(EXⅡ)が含まれていた。
話題になったクシナダエンプレスの炎上したコメントの原因の1つとも言われている。シンギュラリティルーナの専属トレーナーは、事ある毎にクシナダエンプレスを罵倒していると噂されているのだが、その真偽は見えてはいない。
そんな中、持ち上がったのがシンギュラリティルーナのJCC参戦報道である。
三冠目の菊華賞を待たずしての声明は各方面で騒然となった。
運営側としては菊華賞はもとより、由緒正しき天王賞をも蔑ろにされたと、これまた遺憾であると異例の公式発表を行うまでになった。まあ、空気の読めない老害記者や偏見専門家達は大喜びで煽り出した為に、これまでアンチカタストロフィックブラッドで纏まっていた集団が空中分解をしだしたのである。
そんな混乱の中、天王賞当日を迎える。
凍狂フィールドは熱狂に包まれていた。それは、2人目の極3冠制覇者が天王賞を1番人気で勝って以来、呪われたように1番人気が18連敗と沈んできた呪われたレースであり、数々の実力者が挑んでは散っていったフィールドである。
だが、距離改定という歴史の転換点に奇しくも19年ぶりの極3冠制覇者が参戦ともなれば湧かない方がおかしいのである。前売り勝利投票券における人気では、当然のように1番人気に推されるカタストロフィックブラッド。応援するものも勝ったが、嫌がらせで1番人気に押し上げようと買った者もいたことも相まって、1.1倍という前代未聞のオッズとなったのである。
「凍狂フィールドか、別の騒々しさだったけど、来る度に独特の空気が漂う場所だな」
トレーナーはそんな事を呟いて、エルドラドダービーでの事を思い出す。今回程に酷くはなかったが、砂月賞を圧巻のレースで制したことで人気が高まりつつあった当時、期待を含めた1.9倍というオッズを叩きだして一番人気になっていたのだ。
――運命の歯車が悲鳴を上げて回り出したあの日
「足は大丈夫か?」
「うん! 砂月はダートだったし、どろんこでみんなが遅くて助かったからね」
彼女の答えにトレーナーは本当に恵まれていたと感じた。砂月賞を勝利したもののトレーナーの指導の成果ではなく、彼女の適応力による奈茅真フィールドの特性を利用ものだ。加えて彼女の言う通り力はいるが足への負荷が少ないダートであった事や走法が不良だったフィールド条件をプラスになった事も大きな要因だろう。
「凍狂は初めてじゃないが、CBに無理を強いたころの経験だ。今更、こんな事を言えた義理ではないんだが、無理はするな。勝つことよりも凍狂を楽しんでくれればいい。それが今後のCBの力になる筈だ」
トレーナーは情けなさで一杯だった。
彼女の走りにファンが魅了されてきたことで欲が出てしまったのである。教科書通りのローテーションで2冠目を勝てば世間が彼女を――内心では自分をも――認めてくれる筈だとブレてしまったのである。距離の経験も含めて藍葉賞を走ることも出来たのだ。
「えー、嫌だよ。折角、楽しくなってきたのにー。トレーナーが私を思ってくれているのは分かってるよ。でも勝ちたいよね? 私は勝ちたい。楽しんで勝てたら最高だから!」
トレーナーはすぐに『勝利よりもCBの方が大切だ』と言えなかった。
なんと醜いことかと負の感情が沸き上がるのに、先程の思考よりも時間を要さなかったのはトレーナーにとって救いだったのかは誰にも分からない。
「あぁ、そうだな。勝ちたいな。その為に一生懸命にCBは練習して来たし、俺もCBを勝つ姿が見たい」
言葉にしてみて分かることもあるとトレーナーはこの時に感じた。
トレーナーの勝ちたいは、彼女の勝つ姿が見たいと言う事だと気が付けた。確かに、トレーナーとしての名誉を欲しない訳ではないのだろうが、それ以上に、トレーナーは彼女の笑顔が見たい。もっと言えば、トレーナー自身に向けてくれる笑顔が見たいのだ。
「頑張るね。痛いこともあったけど、凍狂って意外と走りやすいかも」
「そのあたりはCBの感覚を信じてる。俺が言うべき事は1つ、スタートとかポジショニングとかは気にするな。CBの出来るCBの最高の走りを観客に見せてやれ」
「アイサー!!」
以前に比べ感情を見せてくれるようになった彼女にトレーナーは嬉しさと共に不安も感じていた。研修で習ったことを信じれば、彼女達は新造人種であり、優れた身体能力の代償に感情の起伏が乏しくなっているとされている。だが、トレーナーの目の前の彼女は、方針大転換を決めた日から感情を露わにするようになった。寧ろ、思春期の子供のような不安定さを見せる事さえあるのだ。
これでは、全く人と同じではないか。
人ではないと思っているから、人の形をした別の存在であると信じるからこそ、レースに特化した生き方を強制していても誰も何も言わないのだ。その前提が崩れた時に、トレーナーは自身の心に蠢く何かを抑えることが出来るのだろうかと考えるのだ。
「トレーナーと一緒に考えた走り方で楽しんでくるね」
カタストロフィックブラッドという少女は笑った。
彼女を悪く言う者達もいるが、彼女の良さを認めてくれる者達もまた存在する。そんな彼らが彼女を呼ぶ言葉がある。
“天衣無縫”
魅せられて、心に火を灯す何かを持っているという事らしい。
トレーナーも同意する。恥ずかしいので彼女に向かっては言えないが、相応しい言葉だと思っている。
エルドラドダービー(EXⅠ)凍狂フィールド芝2,400m
凍狂血戦とも呼ばれるクラシックにおける最高峰のレースと言われている。求められるスピード、スタミナ、パワー、そして、ディスティニー。
1冠目、砂月賞は最速パワーが勝ち、3冠目の菊華賞はタフネス最強が勝つ、なれば、2冠目のあるダービーはと問われれば――
運命に愛された者が勝つ
――と語り継がれている。
星系の統治者になるよりも困難であるとも言われる一生に一度の大舞台。それを踏まえて、3冠制覇へと歩む者の道程は想像を絶するのである。
フィールドに立つ選手達がそれを一番実感している。
これまでに経験して来たゲートに入り、スタートを切る。
たったそれだけの事が出来ないのではないかと不安になるのだ。
運命は優しくはない。
緊張がピークに達した瞬間ではなく、それか少し、一瞬、気が緩んだ時にゲートが開かれた。
バラバラとEXⅠにあるまじき、無様な不揃いなスタートが観衆の目に触れる。どよめきと落胆、そして、これから始まるサバイバルレースを予感して歓声が起こる。
あぁ、無情にも、不揃いの中において最も醜態を晒した者がいた。
ポツンとただ一人、出来の悪いスタートを切り、その上、覇気のないゆるりとしたスピードのまま追走を開始したカタストロフィックブラッドだ。
「気にするなよ、CB」
凍狂フィールドにおいてただ一人、彼女の味方が存在した。
ファンがいるじゃないか?
確かに“応援は”してくれるだろう紳士淑女の皆様、だが、決して味方ではないのだ。誰だって矢面に立ちたくはない。嫌われたくもない。そうした普通の心理は否定されるべきものではないからこそ、ファンと呼称される風見鶏が存在する。彼ら彼女らはあくまで“中立”の存在なのだ。言うまでもないがアンチもファンの形の1つである。
だから表面上の言動に囚われて、世論というものが中立者の引き込み合戦なのだと理解するものは少ない。その反面、用いる手段が共感・嫉妬・羨望等、心に起因するものである事だけは無意識に理解しているのも人という生き物なのだろう。
それ故に、トレーナーは祈るのだ。
カタストロフィックブラッドが呪縛に囚われることなく、その輝かしい運命を切り開くことを。
「そうだ。慌てることはない。前例や過去が全てじゃない。それに囚われているからこそ、ダービーには魔物が潜んでいる」
トレーナーは自らの失敗とダービーにおける鉄則を重ね合わせる。
ダービーポジションと言われる積み重ねられた結果が呪縛となっていると気が付いていた。個性を潰し型に嵌め続ければ生き残るのは、能力で無理を押し通した選手か、偶然にも押し付けた戦法が個性と重なった選手の2通りである。気が付けば机上の空論が最適解に大変身だ。
「逃げは先行の圧迫にスタミナを消耗し、先行はポジション争いに精神を擦り減らす。差しに至っては本来ラストスパートに重要な脚を前半で使わされる羽目になる。自然とレースは冷静さを欠いた生存競争へと変貌する」
「ほう、それは面白い考察であるな。我のシスターズのレースを見ながらでよければ、すこし話をしようではないか。カタストロフィックブラッドのトレーナーよ」
「シスターズ?」
「あぁ、失敬。メイズスキームモンスーンの事だよ。我々の迷宮計画の娘達を総じてシスターズと呼ぶのでね、つい癖で出てしまった」
トレーナーは相手の胸にある関係者タグの色を確認すると研究所の関係者だと理解する。名前を聞いて思い出すのは砂月賞2着の選手名だったと。初めて会うが、どうにも胡散臭い。研究職には見えないが、かといって医療関係でもなさそうである。強いて言えば、広報関係かと推測する。メイズの名を関するのであれば、メイズラボラトリーもしくは、星系財団法人迷宮管財だろうと思い至る。バトルターフの最大手と言っても過言ではない。
「……出来れば手短に。俺の大切な子のレースなので」
「それはお互い様であるな。で、本題だが、ダービーポジションは悪かね?」
紳士っぽい男はトレーナーに問い掛けた。
「誤解しないで欲しい。ダービーポジションは否定しない。それを強要する風潮、追随しない者への侮蔑がおかしいと思っているだけですよ」
「いや、これは我の問いかけが拙かったようだ。シスターズも貴殿たち程ではないが後方からのレースを得手としているのでな、スタートを見た限り少し気になったので話しかけて見た次第である。他意はない。寧ろ、話を聞いて我らにも勝算が増えたと喜んでいる」
紳士っぽい男の言葉通り、カタストロフィックブラッドの出遅れを除けば、メイズスキームモンスーンは後方からのレースになっていた。
「確かに気が付かなかったが、素晴らしい走法ですね。砂月賞が不良でなければ俺達が敗けていたでしょう」
「砂月の覇者に覚えて頂いていたとは光栄だ。だが、ダービーに言及しないのは、あの出遅れでもまだ勝負を捨てていないと?」
レースは淡々と流れているようで、その実は熾烈なポジション争いで息の上がった集団が向こう正面で一息入れている小康状態に過ぎない。すぐに動きがある筈だと思っている。捨てると言う言葉に少し心が痛むトレーナーだが、それを払しょくするような動きがあった。
「……俺の大切な子は大地に愛されている。それは凍狂でも変わりませんよ」
先頭集団から飛び出す選手が現れると一気に慌ただしくなる。カタストロフィックブラッドも流れに乗るように前に進出を図る。だが、それは一見無駄に見える外、外を回る迂回路のようだった。
「我らのシスターズがステイヤー系でもわざわざ距離をロスするようには動かないのである。これは暴走ではないのかね?」
集団が第3コーナーを回り出す頃に、ダービーの呪いが降りかかる。呪詛じみたダービーポジションへの拘りが、選手の走りに罅を入れる。頭と身体が連動しない。ここで繰り出されるのが伝家の宝刀である根性である。道理を無理で押し込めた前半の負債を精神論で凌駕させようとするのが悪しき風習。トレーナーには腐臭が漂っているとしか思えない。
「ば、馬鹿な!! 何故、あそこから伸びていけるのだ!?」
メイズスキームモンスーンは最終コーナーでロスなく内を突こうとしているが、大乱戦となった集団では内埒沿いに道など開くはず等ない。何故なら、皆苦しくて辛くて少しでも走る距離を短くしたいと内への道を模索するから。
「CBは、気持よくコーナーを回ってきたようだ。これなら心配はいらないな」
「どうなっている!? 最後尾で足掻いていた小娘がどうしてここまで鋭く伸びるのだ!!」
「貴方は口では俺と似ていると言っていたが、内心では馬鹿にしていたんでしょう? 砂月はマグレ、距離が延びれば自分達が圧勝すると妄信していた。それがこの結果ですよ」
「な、なんだと、貴様!! メイズを馬鹿にするのか!?」
余裕が消し飛んだ紳士っぽい男にトレーナーは直線を指差す。
「俺はメイズじゃなく、貴方個人の資質に疑問を呈しただけだ。それに、そんな貴方よりも選手は有能だったようですね。内狙いに見切りをつけて、内に殺到する選手と入れ替わるように外に持ち出した。自分で考えて挑戦する強い心の持ち主だ。きっと前を躱すでしょうね。残念ながらCBには届きませんが」
直線を向いて気持ちいいほどの加速を魅せたカタストロフィックブラッドは全てを置き去りにしてゴールを駆け抜けた。
その後ではメイズスキームモンスーンが砂月でも見せた切れ味を駆使して2着へと滑り込んだのを見届けるとトレーナーはカタストロフィックブラッドを出迎えるべく席を立った。
「貴方がもう少し彼女を信じて、自由に走らせてあげていたらと思わなくもないが、天下のメイズ軍団ではそれも難しいのでしょうね。彼女には不幸でしかないが、貴方にとっては責任回避の言い訳になるのだろう」
「っ!!!」
トレーナーもそこまでいうつもりはなかったのだろうが、メイズスキームモンスーンの走りが言わせてしまったのだろう。それほどまでに外へ持ちだしてからの彼女の走りは美しかった。
――そして、現在に時が舞い戻る
「距離が変わって俺達に風が吹いているぞ。天王賞、初の芝2,000mだ」
「初代覇者ってことだね!」
「正確には第90回天王賞覇者らしいが、まあ、距離変更後初の覇者ということであれば、CBの言う通りだな」
「トレーナーって、偶に細かいよね?」
「そうか?」
「そうだよ!!」
ぷっくりと頬を膨らます方ストフィックブラッドに緊張の色はない。
トレーナーはぐりぐりッと頭を撫でて告げる。
「よし、今日も楽しんでくるといい」
「今日は何もないの?」
「いるか?」
「目安くらいかな?」
「言うようになったな?」
「指導の賜物ですー」
「ご要望とあれば仕方がないな。クシナダエンプレスを気にするな。CBの良さは、相手が誰であろうと関係なく、CBらしく走る事だからな。全神経は自分自身に向けて使え。答えは全てCBの中にある」
トレーナーは前走で強烈な印象を残したクシナダエンプレスに警戒していた。走力もさることながら、カタストロフィックブラッドが意識するあまりに自身の走りに影響が出ることを経過したのである。レースは1体1じゃないからこそ、強烈な対抗意識は最悪大きな枷となる可能性を内包している。
「……そっか。半分くらい分かった。後は、走りながら考える」
「それでいい」
「じゃあ、行ってきます!!」
カタストロフィックブラッドは凍狂フィールドへと飛び出していった。
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ちょっと半端になってごめんね
後編は6/17 7:00に投稿します
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