第12話 マリア

白く細い手。

差し伸べる。


俺は掴もうとして、やめた。


その手を払う。


何でだと思うだろう。


「マリア」


血まみれの俺の手は何も掴んではならない。


その白い手に触れることは許されない。


救いなど求めてはならない。


白く純白な。


「マリア」


俺も足跡は数えきれないほどの屍に埋もれている。


足元に縋りつき命乞いを求めた男の頭を銃で撃ち捨てた。


俺は神じゃない。ましては死神でもない。


俺は俺。与えられたことを遂行するだけの、ただの男。


夢に見る。その美しい姿。手には大きなカサブランカの花束。


俺の胸には血で錆びた十字架のネックレスがぶら下がっている。


神に縋るわけでもなく、救いをなど求めているわけでもない。


ただ、昔、友がいた。

そいつはマリアに救いを求めて白いマリア像に縋った。

血にまみれた手が白いマリア像を赤く染める。


そいつが救われたのかどうかは知らない。

渡された血に濡れた十字架のネックレス。


そいつの罪を抱え、俺は生きている。


「どうか救いを。」


手を組みそいつは息をするのをやめた。


罪を押し付け、血に染まった十字架のネックレスを渡された。

随分と身勝手なヤツだ、と思った。


だがこの血にまみれた自分の足元を見て気付く。


「もう無理だ。」


「もう限界だ。」


「死ねば楽になれるのか。」


白い手が俺に差しだされる。


逝く先はどこだっていい。


俺はその手に縋った。


血を浴びすぎた身体。


「もういいだろう。」


俺は何処へ行くまでもなく、ただ、彷徨い歩き続けた。


夜空を見上げれば満月だ。


「終わりにしよう。」


銃口を口の中にいれる。


ぱあん。


白い手が赤に染まった。

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