貴方に見る死の影。例えどんな結末に成ろうと死は美しい。

退廃さん

第1話 レイン

香港。国籍不明。男。


消えて無くなりたかった。

舌で転がす飴玉の様に。或いはワタアメの様に、雨に打たれて混じる涙の様に。


車道に打ち捨てられた猫の死骸。

男は躊躇いなく車道へ足を踏み出した。響くクラクション。


抱き上げた硬直し空っぽになった亡骸。

連なったイチョウ並木。枝を折り、土を掘って土をかぶせた。


色づいたイチョウが道にあふれている。


見上げる曇天にタバコを取り出し、煙を吐いた。


風はなく、タバコの紫煙が立ちあがった。

手に残った猫の死骸の感触。


血交じりの泡をふいてた。


いつか自分も血反吐を吐きながらこんな風に死ぬのだろう。


自分が可愛いと言いながら、車道へ足を踏み込んだ。


矛盾している。


そんなことは初めから自覚している。


銃口を自分の頭に突きつけ、引き金を引く。


飛び散るはずだった自分の頭。


「まだ生きている。」


時折、過去がフラッシュバックする。

それも慣れたもんで、ぼんやりと白昼夢を見えてる気分だった。


「俺の全部、お前にやる。俺はいつもお前の中に在る。」


いつだったか忘れた。

そんな事を呟き、生きるのをやめた男がいた。。


タバコの煙に面影を探そうと虚ろな瞳でみる。


煙は風にかき消された。


「俺もこの煙の様に消えて無くなれたら。」


この世界は残酷で無慈悲で混沌としている。


もう、歩けない。うまく生きれない。うまく呼吸が吸えない。


瞳孔に光はなく、陽炎の中揺れる人の姿を見る。


「なあ・・・・あんたは誰だ・・・・、」


「流。苦しいか」


「苦しい。」


「辛くないか」


「辛い。」


「いたくないか」


「いたい。」


微笑んで消えていく夕暮れ色の目をした男。


「流。」


ながれ。俺を呼ぶ声。


「愛してた。」


「ずっと探していた。」


「見届けるくらいはできた・・・・筈だった。」


真っ赤な鮮血を吐きだしながら目を閉じた。


その姿を。

背けてしまった。目を閉じた。目を伏せた。


「あんたを・・・・愛してた。」


ぽたりと涙落ちた。


「ほら、お前はまだ、泣ける。」


サァーと雨が降り出した。


このまま消えて無くなりたい。


この涙と一緒に、流れ落ちてしまいたい。


「あさひ。」


思い出した。チャイニーズマフィアとの小競り合い。


自分を庇って撃たれた男。


俺は手負いの野良猫みたいに、くたばりもせず、のうのうと死にぞこなった。


イチョウ並木。黒いコート姿の男、流。


ただ雨に打たれ涙を零す。


「お前の元へ還るよ。」


「あさひ、愛している。」


男は車が激しく行きかう道路に身を投げた。


ドン。


グチャ。


ドサ。


猫の亡骸見たいに道路に打ち捨てられる。


口から血を吐きだし、息絶えた。


雨は激しく体を打つ。


その顔は醜くも、口の端に笑みを浮かべていた。

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