第30話 ダイスの神のイカサマVS大和の王と従者の魔法
「気付いたか?」
「うん。なぜか倒れたアバターが消えないね」
通常のゲームではありえない。
一瞬バグかと思ったが、刹那と育枝の直感がそれは違うと訴えてくる。
湧き上がる歓声を他所に大きなため息をつく二人。
そのまま舌打ちをして、唇を噛みしめる。
空中の文字『第四ターン』が消えるとすぐに『魔法受理ザオリク唯』と表示された。
その結果に「やはり」と声を揃えて呟く刹那と育枝。
二人がセントラル大図書館にて得た知識の中には魔力消費量が半端なく多く優れたペンタゴンでも一試合に一度しか使えない蘇生魔法があると知識を得ていた。まさか優れたペンタゴンの一人がこんな所にいるとは思いにもしなかった。
問題はどちらが優れたペンタゴンなのかと言うことだが、その疑問はすぐに晴れてくれた。
「申し訳ございません、完全に油断しておりました、アギル様」
「よい。それにしてもお前が一瞬で殺されるとは驚いた」
「私もです。この魔法は魔力消費量が大きいのと私の切り札でもありましたので本当は使いたくなかったのですが、二度も舐められたまま負けるのはどうかと思いましたので」
「つまりお前はあの時と今までの二回手加減していたと?」
「そうです。切り札は最後まで隠しておくのが勝負の鉄則では?」
「そうだな」
ダイスを回収しながら認める刹那。
ただし刹那は育枝のダイス、育枝は刹那のダイスをそれぞれ回収し自分の手元に置く。幸い形状は全く同じなので、会話に意識を向ける事で怪しまれることなく、次の手を用意する刹那。
だけど内心焦っていた。
読み合いにおいて完全に相手の裏をかいて勝ったと思った。
事実そうなった展開からの逆転パターンは最悪である。
誰が何と言おうと勝負の流れが完全に変わるからだ。
これは目に見えないけど、勝負においてはとても重要なこと。
故に心の中は大嵐で吹き荒れていた。
「「「ふざけるな! このチート不死野郎!!!」」」
「「「そうだ、そうだ、卑怯だぞ!!!」」」
さっきまで歓声だった雄たけびが今度は罵声へと変わる。
しかしその声はアギルと唯には届かない。
だが刹那の心には少しグサッと来た。
不死ではないが思い当たる節はあるから。
「まぁいい。そっちがその気なら作戦を変更するだけだ」
独り言をつぶやき、気持ちを入れ替え、高鳴る心臓を制御しポーカーフェイスを心掛ける刹那。
そんな刹那をチラッと見て、今は自分のやるべきことに集中する育枝。
と、その時だった。
天空城の気温が太陽の日差しで熱くなっているが、それを抜きにしても異常なことが今起きている事に育枝が気付く。
「刹那? 今熱い?」
その言葉に即座に否定をする刹那。
「いや? 急に……」
だけどその言葉は途中で詰まる。
「言われてみれば確かに熱いな」
ニヤリと微笑む二人。
刹那も育枝の言いたい事に気付いたらしい。
ならばと次の一手が明確に閃く。
育枝がダイスを投げたのを確認して刹那は指先の神経を研ぎ澄ましダイスを投げる。
それは育枝のダイスの動きを追走するかのように背後をピタリとついていく。
「何を狙っているが俺の前では無駄な悪あがきだな。二度も出目に恵まれるわけがなかろう」
すると刹那と育枝のダイスが失速しそこに吸い込まれるようにしてアギルのダイスが途中で地面に跳ね返りぶつかってきた。だが育枝のダイスはグラサイの為、直接妨害されてもあまり被害はないわけだが、刹那のダイスは違う。通常のプレシジョンダイスの為、どの出目もほぼ均等に出るわけで指先の調整をし出目をある程度コントロールしても接触されたどうしようもできない。
「自分達が有利な場面では魔力消費量が少ない直接妨害と自分達の出目確率が上向きになる魔法ってところか……」
「ご名答。よく勉強しているじゃないか」
「そりゃ過去八回同じようなことしてたら、資料映像とかにバッチリ解説付きで載ってるからな」
ダイスが大きくジャンプと言った超現象がなんの補助もなしに起きるわけがない。ちょっと考えれば誰にでもわかるし、見たらすぐに誰でもわかる動きは覚えやすい。魔法の名前などは忘れてしまったが、セントラル大図書館の地下二階にある映像資料室にしっかりあったことは覚えている刹那。裏を返せば補助があればダイスがジャンプすることもあるというわけで。
「今度は育枝が百か」
何食わぬ顔でポツリと呟く。
「ふんっ。運がいい奴だ」
「ですが私達の出目はやはり良かったですね」
「皆運がいいのか。なら俺もその波に乗るかね」
「乗れるといいな、異世界人」
「言われるまでもないね」
アギルと唯の出目はそれぞれ七十九と八十一。そして思いっきり飛ばされた刹那のダイスはフィールドの壁にぶつかり転がっていく。だけどダイスは勢いを殺すことなくアギルと唯のダイスにぶつかり出目八十九で止まった。
そして出目が確定したと思われたアギルと唯の出目が刹那のダイスが接触した事により強制的に変わる。
「九十二と三十九。どうやら愚王の出目は良くなってしまったが、敗者復活を果たした従者の方は悪くなったみたいだな」
ニヤリと微笑む刹那。
「な、何をした?」
「なにって特には何もしてないけど? 一応言っておくなら魔法は使っていいんだろ?」
「ま、魔法は……そうだが……なんだこの違和感は……」
言葉を詰まらせるアギルとこの状況に危機感を覚え先程から異常な汗をかいている唯を見つめて刹那が言う。
「なら早くゲーム進めようぜ」
魔力が枯渇し発汗。
これは典型的な魔力枯渇症状の一種だと文献には書いてあった。
そしてそこに追い打ちをかけるかのようにイレギュラーな状況に唯を追い込むことでゲームの流れを取り返そうと考えた刹那。
「愚王は防御に回り、賢王は攻撃に回る。この言葉の意味が分かる相手なら少々面倒なんだけど、表面どおりにしか受け取れないポンコツ王ならこちらとしてはありがたいんだが」
それから先は語るまでもない。
出目のステータスポイントを全て防御に振り挑発され腸が煮えくり返ったアギルの攻撃を正面から受け止め、出目の結果で圧倒的なアドバンテージを得た育枝の攻撃により唯のアバターを再び倒したと。
ただしアギルの攻撃にて刹那のHPゲージが減った。
「魔法防御と防御に全振りして六減ったって事は、アイツは魔法攻撃と攻撃に全振りだったのか……。失敗したな、義妹よ」
てっきり言葉の意味を警戒し防御に回ってくるかと思った二人だったが中々思い通りにはならない事を身をもって知る結果となってしまった。
アギルの出目の高さを警戒したわけだが、その必要は特になかったわけだ。
事実挑発した刹那にばかり目先の怒りが行き、育枝の方まで気が回っていなかったのだから。
攻撃する相手を間違えたなと視線を送ると、気まずそうにする育枝がいた。
「……ごめん」
「別に責めてはないからな?」
「……うぅ、いじわるぅ」
そのまま頬っぺたを膨らませて義兄の目を見て唇を尖らせる育枝は魔法の事ばかりに気を取られて色々と細部まで気が回っていなかった事実に落胆していた。それと大好きな義兄の期待に上手く答えられなかったことに。
今度は唯のアバターがフィールドから消えていくのを確認してから、まずは一安心の刹那。これで再びゲームの流れは刹那と育枝の方に傾いた。それからダイス回収時に先ほど投げる前につけた視認がしづらいピアノ線を取り種(イカサマ)がバレる前に回収しておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます