第30話 戦略会議
「どうぞこちらへ」
佳乃夏美、茶髪でショートヘアの方が前に出てきて案内をする。もう一人の佳乃翠、背の低いお下げの方は後からついてきていた。
俺たちは食堂へ案内された。元々はホテルのレストランだった部屋で、海が見える見晴らしの良い大広間だった。
「お荷物はお部屋の方へお運びしておきます。お部屋へは後程ご案内します」
そう言って夏美はさんは一礼をし、後へ下がった。夏美さんと翠さん、二人のアンドロイドが入り口の横で並んだ格好になった。
縦長の長方形に並べられたテーブルには、既に8名の人物が座っていた。正面に座っているのは俺の父、
親父が口を開いた。
「お疲れだったな。席についてくれたまえ。あそうそう。ゼリア君だったかな。君は席を外しても構わないよ」
ゼリアはガタガタ震えながら敬礼する。
「じ、自分は椿様に常時付き従えと命令されております。椿様がここへいらっしゃる限り、退出する事はできません」
「ああ、それは分かっているよ。だけど、そう緊張していても良い仕事はできないだろう。ここは下がって休んでいたまえ。大尉、いいだろう?」
「そうですね。ゼリア。君は休憩しろ。命令だ」
ララも頷いている。
「了解しました」
また震えながら敬礼をするゼリアだが、そこには安堵した表情が伺えた。
「夏美さん。ゼリア君を睦月の部屋へ案内してください」
「はい、かしこまりました」
親父の指示に従い、アンドロイド夏美さんがゼリアを連れて部屋から出ていく。睦月とは俺の従弟で、両親を亡くしここで紀子叔母さんと暮らしている少年だ。俺と椿さんは一番下座の席へ、レイダー軍曹は大尉の横、ポツンと空いた黒剣の横に渋々ララが座った。自信満々のララ皇女がひどく緊張しているように見えるのは、やはり黒剣の隣だからか。合わせて12人が揃った。今からどんな会議をするのだろうか。まあ、大体は想像がつく。
親父が口を開いた。
「まず自己紹介をしよう。私が綾瀬重工社長の綾瀬燈次郎だ。そちらにいる佳乃椿さんを当社で預かっている関係で、この件の責任者として出席している」
「私は綾瀬紀子です。綾瀬重工アンドロイド開発部の責任者です。佳乃椿さんのボディを制作しました。また、彼女の保護者でもあります」
親父が責任者なのか。そりゃそうだろうな。責任の所在なんて考えてもいなかった。宇宙人相手のトラブル。法的にどうのこうの言うことはできないにしろ、事件に対する責任の所在は明らかにする必要があるのだろう。次に右側の、背広姿の男が口を開く。
「内閣危機管理室の後藤と申します。首相からは、椿さんを全力でお守りするようにと命令を受けております」
「私は陸上自衛隊むつみ基地から来ました横瀬です。イージス・アショア警備の責任者です。この度は警備部隊の一部を率い、椿さんの護衛にあたります」
時計回りに自己紹介をしていく。次は大尉の番だ。
「私は連合宇宙軍第7機動群技術大尉のゲルグ・ガラニアです。今回は調査目的で地球に来ております。専門はサイバー戦です」
「俺はレイダー・グラブロ、階級は軍曹。近接格闘戦の専門家だ」
「佳乃椿です。この名前と体は紀子博士からいただきました。私の素性と地球に来た詳しいいきさつは資料をご覧ください」
「俺は綾瀬正蔵。綾瀬重工社長、綾瀬燈二郎の長男です。俺はここにいる椿さんとお付き合いさせていただいてます」
俺の大胆発言に周囲がどよめく。当然のように、ララが突っ込んで来た。
「言ったな正蔵。責任は重いぞ」
そう言ってにやりと笑う。
「私はアルマ帝国第4皇女のララ・バーンスタイン。アルマ帝国皇帝警護親衛隊の隊長だ。椿様の身辺警護は任せてください」
「アルマ皇帝の黒剣です。諜報が専門。以上」
「赤城サラです。綾瀬重工警備部の副隊長をしています。今回は我々警備部が主体となって作戦を実施します。皆様のご協力をお願いします」
「アルマ帝国第3皇女のミサキです。日本の皆様、この度はクレド様、いえ、椿さまの受け入れを承諾していただき大変感謝しております。また、このことが皆さまに多大なるご迷惑をおかけしている事、心よりお詫びいたします」
ミサキさんが立ち上がって深く頭を下げる。
「ミサキ様、お顔をお上げください。日本とアルマ帝国は深い絆で結ばれております。謝罪される必要はありません。今回の件に関しましても、友情の証として出来る限りの対応をいたします」
ごもっともな社交辞令を述べる後藤、それに対し親父が同意する。
「そうです。我々は友人です。そして椿さんは息子の大事な方だとの認識をしております。異星人の要求が何であれ、それに屈する訳にはいきません。しかし、現実的な対応策が乏しいのも事実です。無いといってもいい。帝国の方々の協力が不可欠です」
頷きながら自衛隊の横瀬が話す。
「米国の衛星を乗っ取ったクラッキングの仕組みも謎のままです。未だ具体的な解析はできていません。また、あのビーム砲も脅威です。たった二射で1000メートル四方を丸焼きにした。我々のレーザー砲とは性能が違い過ぎる。アレを衛星高度から射撃されれば対処のしようがない。脅迫された場合、条件を呑まざるを得ない」
「相手をよく知れば対処法も見えてきます」
横瀬の疑問に、ゲルグ・ガラニア大尉が答え、さらに話を続ける。
「あれはIRブラスターですね。宇宙軍戦闘艦の標準装備になります。
「何故禁止されている?」
大尉に横瀬が質問した。
「アルマ帝国では、戦争は人が行うものだという考え方があります。人を殺め領土を奪う事、これは人が自らの手で行い、自らが責任を負うべきである。こういった考え方が伝統的なのです。よって地上では白兵戦が主流となります。しかし、宇宙空間においてはそうもいかないので、宇宙戦艦や空母機動部隊が存在します。しかし、主力はあくまでも白兵戦であります。われら第7機動群はその任を負う者です。宇宙軍の海兵隊といったニュアンスの軍組織だと考えていただければ結構です。こういった伝統があるため、宇宙空間からの砲撃は禁じ手とされています。特に威力の大きい質量弾や核兵器の使用は厳罰を処されます」
「なるほど、地球での核兵器の使用と同じニュアンスかもしれんな」
「そうですね」
「それと、発展途上国への武力侵攻も禁忌とされております。仮に戦艦3隻で地上を砲撃した場合、24時間で全ての陸地を灰と化すことができるでしょう。一方的な虐殺を禁じる事も含まれております」
大尉と横瀬の会話に親父が口を挟んだ。
「それならなぜ彼らは地球へ来たのかな」
今度はミサキさんがそれに答えた。
「椿様、いえ当時はクレド様ですが、彼女の真の姿は絶対防御兵器なのです。クレド様がいる限り何者もその領土を侵すことはできません。しかし、500年前にそのクレド様が幽閉されてしまったのです」
俺も聞いたことがある話だ。自分たちの女神を幽閉してしまうなど、あってはならない事だと思うのだが、椿さんは女神であると同時に兵器でもあるのだ。その存在を疎んじる連中も帝国の中に存在していたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます