第13話 コンパクトディスク
「今は動画サイトがあるからなあ。わざわざ買わなくても……。」
俺が反論する前に、友人は右手にCDを差し出しながら、烈火のごとく怒った。
「何言ってんだよ!お前は、この裏面の虹色を見てみろ!これはな、細かい窪みが無数に刻まれてるんだけど、そこに光が当たると、光の回析っつう現象が起きることによるものなんだよ。光の回析っていうのは、光が物体にあたると、その物体の裏側まで光が回り込む現象のことを言うんだ。美しいだろ!」
色よりCDの中に入っている音色の方が大事なのではないか。
「こいつらの色なんかもなかなかだぞ。」
友人は、CDラックから数枚ケースを取り出した。
こいつは一体何枚CDを持っているのやら。
部屋に入ると右も左もCDで埋め尽くされ、かなりの音楽好きだと見た。
ところが、音楽など一秒も録られておらず、CDの入ったケースを縦横無尽に敷き詰めていただけなのだ。
転売でもするのかとも考えたが、こいつの一枚一枚大事に使う様子を見てるとそうではないらしい。
一枚一枚取り出すごとに裏面が虹色に見えるはずが、どういうわけか青色や赤色といった単色に見える。
ひょっとすると、このCDたちはこいつ自身の感情なんかではなかろうか。
そんなことを思っていると、友人は「こいつらの生きざまを見せてやるから」と満面の笑みを俺に向けながら言った。
すると、唯一その部屋でCD以外のものを俺に見せた。ノートパソコンだ。
「コンポもラジオもないのにパソコンは置いてあるんだな。」
「まあな。んでな、このCD をひっくり返して、パソコンに取り込むとどうなる?」
「全音楽ファン、CDファンの人たちに謝りなさい。んなもん結局取り込めねぇだろ。」
友人は、「とにかく聞けって!」とまた怒鳴り、話も聞かずひっくり返してパソコンに入れた。
次の瞬間、パソコンのスピーカーから女性の叫び声のようなものが聞こえてきた。
数秒しか聞いていなかったが、何時間も聞いているような気がした。
「な?」
「いや、「な?」じゃねぇよ。なんつーもん聞かせるんだ。ってか音なるんだな。」
「だろう?他のCDも似たようなことするんだけど、きれいな歌声になったり、笑い声になったり、パターンが一律じゃねぇんだよ。もしかすると、CDに感情でもあんのかなって思ったわけよ。」
だったら、今までやってきたことは、CDにとってかなりの嫌がらせであろう。
なぜなら、CD本来の役割をさせていないからだ。
「他にも聞いてく?」
「いや、やめとくよ。」
こいつ口元は笑っているけど、目が笑っていなかった。
俺はその後、長居せず帰ったが、次の日、大量のCDに押しつぶされ大けがをしても生きていた友人の事故の知らせを聞いたのは、それから間もなくのことである。
それを聞いて、俺はあのCDの虹色のように感情が入り乱れ、しばらく何も手がつかなかった。
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