表情筋

 ***


 リニアカーに約10分ほど揺られ(本当に揺れるわけではない)、2区の繁華街北駅に着く。

 改札を出ると、既にそこは夜の街だった。


 ここ地下都市コペルニクスは、地上の季節をある程度再現している。

 日照時間もその一つで、今は3月末なので、もう暗くなっている。


 しかし、まだ19:00にもなってないのに、結構賑わっているもんだな。

 今日何かのイベントがあったっけ。

 少し考えてみると、そういえば今日は金曜日だった。

 ずっと任務続きだったからすっかり忘れていた。


 Na’s Appleはメインの通りから一本入ったところにある。

 落ち着いた雰囲気の小洒落こじゃれたお店で、リンゴスイーツ専門店だ。

 価格帯は少し高めだが、その分とても美味しい。


「いらっしゃいませー何名さまですか?」

「3人です」

「ではテーブル席へどうぞー」

 4人がけのテーブル席へと案内され、自分と玲那、しずくで分かれて座る。


 店内には既に4、5人の先客がいた。

 カウンター席に2人とテーブル席に男女が2組。

 ……6人だな。


 まあ間違いなくデートだろう。とてもいことだ。

 俺たち戦闘員は、まさしくこういう自由な世界を守るために闘っているのだから。


「お兄ちゃんどうする? 今日金曜日だけどお酒呑む?」

 しずくを見ると、まだ悩んでいるようだ。

 久しぶりだし呑もうかな。


 テーブル天板になっているディスプレイのお酒のタブを開く。

 ここのカフェは夜はバーになるので、結構おいしいお酒が揃っている。

 店長のなーがさんは優秀なパティシエであるとともに、腕の立つバーテンダーでもあるのだ。


「じゃあモスコゥミュール」

 玲那が注文を入力していく。ちらっとこちらを見て確認する。

「まるごと焼きリンゴプリンだよね。」

「ん」


 お酒と注文のタブを閉じてしずくを見ると、なんとまだ悩んでいた。

 そんなにキングキュリアスリンゴパフェが食べたかったのか。

 んーーーーしょうがない。2540メルの出費くらい我慢するか。


「しずく、そんなに悩むならキングパフェでいいよ?」

 ぱっとしずくがキラキラした目でこっちを見る。

「いいの?」

「まあ、いいよ。偶にはね」

「やったー」

 満面の笑みで万歳するしずくをみながら、あんな笑顔は滅多に見れないから良いかと思った。


 玲那が注文を送信すると、ホロウィンドウで玲那と自分に支払い確認メッセージが出る。

 値段を確認しOKボタンを押すと、ポーンという簡素な電子音と、猫の悲鳴と共にウィンドウが消えた。


「……今の、何?」

「え? 私の支払い音だけど。」

 玲那がさもありなん、といった感じで答える。


「……あの猫の悲鳴が?」

「悲鳴じゃないよ! 鳴き声だよ!」

 えぇ。間違いなく悲鳴だったような……


「なんか、夫婦みたいだね。いいなぁ」


 突如空気が凍った。

 目の前を見ると、しずくがあまり見たことのない、完璧なアルカイックスマイルを浮かべていた。

 右を見ると玲那の顔が引きっている。

 多分自分の表情も同じようなものだろう。


「……どういう、意味ですか?」

 しずくはアルカイックスマイルのままかぶりを振る。


「そのまんまの意味だよ?」

「ひっ」

 玲那が固まった。


 しずくこわい。

 いつもの死んだような目で顔だけ笑ってるのがこんなに怖いのか。


「あ、あの。しずくさん?」

「なに?」

「いえ、何でもありません。すみませんでした。」

 怖すぎる。


「なんであやまるの?」


「い"っ」

 こえええええ。

 てかなんで怒ってるのかほんとにわからん。


「おまたせしました。ショートショートアップルパイとキングキュリアスリンゴパフェになりますー」

 危機一髪。スイーツ様のおかげでカタストロフィは回避された。たぶん。


 と思っていると、玲那もしずくも折角せっかくきたスイーツ様に手を付けようとしない。

 あー。自分のが来てないからか。

「先に食べていいよ。どうぞおかまいなく」


「うん」「わかった」

 食べ始めるとあら不思議。スイーツの霊験れいげんあらたか、しずくの顔が幸せそうになっていくではありませんか。玲那もおいしそうに食べる。


「おまたせしましたー、モスコゥミュールとまるごと焼きりんごプリンです。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」

「ああ。ありがとう」

「ではごゆっくり」

 店員は華麗かれいに一礼し、下がっていった。


 ──────────────────────


 唐突につづく、とさせていただきます。

 いや。切りどころがなかったんです。

 グダグダになりそうかもって思って.....

 って言い訳になりませんよね。

 いやすみません。

 以後気をつけます。

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