第9話 調査官の推理
「あら、リュウジさん、早いですね」
冒険者ギルドに戻ってきたリュウジを見て、アオイは意外な顔をした。
危険な任務の前に酒を飲みに行ったことで、ダメな調査官という烙印を心の中で押していたので、2時間程度で戻って来ると思っていなかったのだ。
「任務前の飲酒はリラックスして、パフォーマンスを引き出すためだ。それとゲン担ぎ」
「ゲン担ぎですが?」
いわゆるルーティンという奴かなとアオイは解釈した。しかし、ゲン担ぎと言うリュウジが意外なだとアオイは思った。
この中年調査官は、自分の能力以外に頼らないと言う雰囲気をまとわせていたからだ。神頼みする弱い部分に、アオイは少しだけ好感度を上げた。
「あまりお酒を召し上がっていないようでしたら、夜食でも用意しましょうか?」
アオイはそう聞いた。本部から来た調査官をもてなすための投げかけだが、思いがけない返答が帰って来た。
「いらん……。夜の9時以降は食べないようにしている」
「はあ?」
意味が分からないとアオイは思った。きょとんとしているアオイに、リュウジは出かける前に命じたことを確認する。
「冒険者の人間関係はどうだった?」
「あ、はい……」
リュウジに言われてから2時間しかなかったが、アオイは既に冒険者たちから聞き取りをして、ある程度の情報は集めていた。
それを書類にして準備をしていたが、当然ながら裏付けが不十分な情報である。
しかし、リュウジは2枚程度の紙を見てにやりと笑った。どうやら、リュウジの予想に合致していた情報らしい。
「引き続き、情報を集めてくれ。あと、森周辺のゲートの監視強化をしておけ」
リュウジはそんなことをアオイに言った。人々はゲートを使って目的地へ移動する。
ゲートを使用すれば、使用履歴が残る。身元がはっきりしない人物はゲートが使えないから、誰が使ったのか調べることができるのだ。
「どういうことですか?」
「生き残った冒険者が帰ってきているかもしれないだろう?」
「ど、どういうことですか!」
アオイは混乱した。冒険者は全滅したと思われる。
しかし、リュウジはそうは思っていないらしい。それに生存していて町に戻って来るならともかく、町から出て行くなんてことは考えられない。
(全滅した冒険者が町に潜んでいるっていうことなの!?)
怪訝そうなアオイに向かってリュウジは続ける。
「確証はない。明日からの調査次第だ」
「ですが、ゲートを使う時には身元を明らかにしなくてはなりません。こっそり戻るなんてできないと思います」
アオイはそう反論した。しかし、リュウジはそんなアオイを小ばかにしたようにニヤリと笑った。
「ゲートの抜け道はいろいろとあることくらい、冒険者ギルド務めていればわかるだろう」
これにはアオイも黙るしかない。リュウジが言うように規則はあるが、抜け道がないわけではない。
ゲートを管理している役人を買収する方法もあるし、荷物に紛れてゲートを使う方法もある。
実際、この町のゲートを利用する人間は1日に数千人に上る。その人数を詳しく調べるなんてできない。
「……分かりました」
「俺はもう休む。荷物は届いたか?」
「はい。先ほど、ギルド本部より届きました。部屋に運んであります」
「うむ……結構」
「あの……」
「なんだ?」
荷物のことで疑問があったアオイは質問をしようと思ったが、リュウジの不機嫌そうな顔を見て思いとどまった。
この調査官は自分のことをあまり買っていないらしい。これ以上の質問は、自分の能力を疑われてしまうと思ったのだ。
「いえ、なんでもありません。おやすみなさいませ」
アオイはそう答えた。
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